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ベッドを降りようとした指先に冷たいものがふれる。金属特有の感触に軽く顔をしかめ、手繰り寄せて手に取れば黒く四角いそれと分かった。 表面積のほとんどを占める、今は何も映さずに暗い液晶画面と、その下にいくつか並ぶボタン。そんなものが何故ここにあるのかの理由を京が知る由もないが、再びここに至るまでの出来事をより詳しく思い返してみる。 格闘大会と称して呼び出された場所は、小綺麗なホテルの一室だった。フロントで招待状を見せて名乗ると、話は通っているらしくすんなりと案内された。部屋の中で招待状の送り主が待っていて直々に出迎えるなどということも、書き置きやら言伝だのといった類いのものもない。内装もごく普通のどこにでもあるようなホテルであり、格闘大会とは方便で誰か……京に近しい人物でその可能性があるのは紅丸か……が京をからかって遊んでいるのではないか。そんな気にさせた。 紅丸の悪戯とでも仮定したなら、付き合うことなくすぐさま帰ってしまえばよかったのかもしれない。しかしベッドの端に腰を下ろして招待状を眺めるうち、紅丸がこのようなことをする理由と必要性がないことに思い至った。 では誰が一体、何の為にしたことなのか? それを確かめなければ京の気が済まなかった。 一連の流れをを危機感がないと責められる人間はいるだろうか。いくら何度も危険な橋を渡っている京だとは言え、目が覚めたら全く違う部屋にいるかもしれないなどと、常日頃から考えて生活するわけがない。ましてや利用客の一人が忽然と姿を消したと世間に知れたなら、ホテル側にしてみればそれこそ警備体制がなっていないと大失態につながる事件である。……普通は、まずありえないことなのだ。 だが現実として、おそらくは眠っている間に京の身体は別の場所へと移動していた。単なる悪戯と済ませるにはいつ誰の目にふれてもおかしくはないほどの、あまりにも手のこんだ大掛かりなことをやってのけた人物は存在している。それは見くびられた行為として京を不愉快にさせるには充分だった。 姿は見せず、どこかで京の状況を嘲笑っているであろう存在の手がかりが得られるかもしれない。「POWER」と記されたいちばん大きなボタンを押すと液晶画面に光が灯る。 浮かび上がった画面に、京の眉が寄せられた。 トランプのカードの図面のようだ。画面より二周りほど小さな枠組みの中にあるそれは、スペードの4を模している。そしてトランプの上部には「RULE」「MAP」「SOFTWERE」と、三つのタブが表示されていた。 ……いや、それだけではない。 カードの上下を挟むようにデジタルの数字が並んでおり、それらの数字が何を意味しているのかの説明書きが京の眉間のしわをよりいっそうと深めさせる。 現在の時刻 12:25 ゲーム開始から経過した時間 00:25 頭の裏側がざわつくような、いやな予感がする。 京はふつふつと湧き上がる苛立ちを隠すことなく「MAP」のタブにふれて画面を切り替えると、部屋を後にした。 | |
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