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「もうホンット、サイテーだヨ、信じられないヨ!」 簡素なベッドの端に腰をかけたアッシュは、まるでだだっ子のように両足をばたつかせた。部屋の隅ではデュオロンが瞑想でもしているのかその目を伏せて黙ったままで、ある意味いちばんマイペースかもしれないシェンは先ほどから壁に向かってシャドーボクシングを続けている。異変が起きても慌てず・騒がず・取り乱さず……なチームメイトなのはいいことだが、どう考えても今はそんなことをしている場合ではないだろう。 「ってゆーかデュオロンもシェンも何か反応おかしいし! ボクたち、良いように騙されたんだヨ!? 分かってる? 特にシェン!」 「そう怒るなよアッシュ。そりゃ確かにKOFじゃねえけど、何つーか格闘大会って言やあ格闘大会じゃねえか?」 一回りも年下のアッシュに名指しで釘を刺されたにも関わらず、ボクシングの構えを解いたシェンは逆に何が問題なんだと言わんばかりだ。額を流れる汗をシャツの袖で乱暴に拭いながら首を傾げる。 自分たちを取り巻く状況を本当に理解しているのかどうかさえ疑わしい。良く言えばおおらかな、悪く言えば無頓着なシェンの態度にアッシュは呆れ果てた様子で目を細めた。わざとらしいほどの大きなため息を吐いて頬づえをつく。 「バカのケンカ好きなシェンから見たらどれも一緒かもだけどさ」 さりげなく毒づくもアッシュの気分は晴れるどころか、わずかに落とした視線の端に自慢の爪が映ってますます滅入らせるだけだった。 こんなわけの分からない場所に閉じ込められていたのでは爪の手入れも満足にできやしない。今はまだ綺麗な状態を保つネイルがみっともなく剥がれていくだなんて、想像しただけで不愉快になるというものだ。 爪を気にしてふてくされるアッシュを横目に、シェンは思い出したように懐のPDAを目の高さに掲げた。 「そういや何つったっけ、この板キレ」 「PDAだろう」 シェンの問いにデュオロンがその古風な出で立ちとはおよそ不似合いな単語で答える。シェンは手の中のカードを弄びつつ府に落ちない表情を浮かべた。 それぞれが異なる理由、全く違う場所で呼び出された彼らだったが、気がつけばこの建物内にいたということだけは共通している。幸運と言うべきなのか、ある程度近い部屋に連れられていたから合流はできたものの誰一人として“主催者”の顔は見ていなかったし、その正体の心当たりもない。そして合わせて計8つ与えられたルールの中には、首輪を外す為の条件が書かれたルールは存在していなかった。 「ヘンなルールだよねえ、これ? 戦えって言ったり戦うなって言ったりさ」 アッシュは自分のPDAに与えられたルールの一つを読み上げる。 ルール7 指定された戦闘禁止エリアの中で誰かを攻撃した場合、首輪が作動する。 その疑問はもっともなものだった。 あきらかに同志討ちを狙っているようなルールと共闘を勧めるようなルールとが混在しており、彼らを含む参加者を全滅させたいのか生き残らせたいのか目的がはっきりしない。 アッシュのダイヤのK。 シェンのクローバーの2。 デュオロンのスペードの10。 マークも数字もバラバラなこれらは文字通り様々な意味でのキーカードとなるのだろうが、3人揃っても解除法は不明な辺り作為的なものを感じる。 「で、どうするんだ?」 「どうするって?」 「これから?」 「そんなの決まってるじゃないか」 質問に質問を返すやりとりを繰り返した後でアッシュはこともなげに言う。 「ボクたちに何をさせたいのか分かんないけどさ、でも首輪をどうにかしないと爆発しちゃうって言うんなら何とかするしかないでしょ」 PDAを見つめるその目は、狡猾な老人のそれのように底冷えのする光を放っていた。 | |
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