Little Darling





 ホントのコト言うと、最初はすっっ、ご〜く、キライだった。

 うーん……。ナンて言ったらいいんだろ?

 わがままですごくエラそうで誰のコトも信じないって、人を見下した目をいっつもしてて。

 笑ってたら楽しいよ?

 笑ってたらイイコトいっぱいあるよ?

 1回きりしかない人生なのに、ツマンナイ人生なんか送ろうとして、そんなのナニが楽しいんだろって、もったいないコトしてるなあって、だから……。キライって言うか……うん、ニガテなタイプ?

 こんなヤバそうなヤツとマトモに関わったりしたら、アタシの人生までツマンナイものになっちゃうって、そう思ってた。

 でも、アタシはあの日、見ちゃったんだ。



 ドコからどう見てもオチャメで可愛いオンナノコなアタシも一応、ネスツって言ううさんくさい組織の生体兵器だったりして。でも他の……K型とかM型とか、いかにも〜な名前で呼ばれてる存在とは違って、カラダのどっこも改造されてなんかないし、“ホンのちょっとだけ”フツーのオンナノコより腕力があるってカンジ。だから月に1回だけある、様子を見る為の監査っていうのも、気難しいカオで白衣を着たゼンゼン面白みのないオヤジの「調子は?」って質問に「ん〜、まあまあゲンキ」ってテキトーに答えたらカンタンに済んじゃう。それ以外は部屋での〜んびりしたりするだけの毎日だった、んだけど。

 確かに監査自体は、すぐ終わるんだよ。でもその代わりって言うか、アタシの前に監査を受けるK9999の調整次第で開始予定の時間が、あんまりないけど早くなったり、1時間も遅くなったりとかするのはザラだった。

 その日は監査の開始予定時間を3時間過ぎてもお呼びの声がかからないから、ゴロゴロしてたアタシもいい加減、退屈になって来て自分から監査をやってる部屋に出向いたりした。

 ちょうど部屋から出て来たK9999はアタシに気づいた様子も全然なくって、幽霊みたいにフラフラとした足取りで歩いてく。

「ちょっ、ちょっと〜、ダイジョーブなの、キミ?」

 ホントにこのコも生体兵器なワケ?

 ココってそんなに人材が不足してんの?とか見かける度にそう思っちゃうくらい、K9999は小さくて白くて。さすがに心配になって初めて声をかけてあげたのに、K9999は振り返りもしない。アタシは好意を無下にされたのが気に障って気に障って、腰に手をあてながらクチビルを尖らせた。

「カッワイクな〜い」

「うるさい!」

 K9999はいきなり癇癪を起こしてアタシを怒鳴りつける。アタシはもう完全にアッタマ来て、1発や2発くらい殴っちゃってイイかな〜って思ってK9999の右肩をつかんだ。

「あっ……」

 思わず小さな声が上がる。

 冷たい汗がじっとりと浮かんだK9999のカラダ、震えてた。咄嗟に手を離したアタシを見るK9999の金色の目が、何かを必死に訴えてる悲しいものに見えたのは気のせいなのかな。

 K9999は逃げるように、バタバタと走り去ってすぐ見えなくなった。カオは見えなかったケド、遠ざかる背中は確かに泣いてた。

 あ……そっか……。

 多分、そう、なんだ。

 わがままですごくエラそうで、人のコトを見下した目をいつもしてないと……怖くて心がツブされそうになっちゃうから。アタシが、笑ってたらいいって思ったのと同じように、アナタは強がってたらいいんだって、そう思ったんだ。

 それからアタシのココロには強がってばかりな王様の姿が、気がつけばいつもいるようになって。

 ……ねえ。

 アタシが隣でいっぱい笑ってたら、笑ってくれるようになるかなあ?

 笑ってた方が、ずっと……。イイコト、あるよ。



 屋上に続く、ぶ厚くて重たいドアに全体重をかけて開くと、途端に強い風が吹き込んできてアタシの髪を舞い上がらせた。

 アタシは下っ端だから何にも聞かされてナイけど、生体兵器なんて物騒なモノを造ったりするこの組織にはトーゼン、軍事目的なんて物騒なウラがあって、シャトルの発車口やヘリポートとかがある屋上には、普段はだあれもいない。そこに、何の為にあるのかアタシにはよく分かんないドラム缶の上に座ってる人影を見て、クチビルがほころぶ。

 風になびく真っ赤なマント。それは炎が揺らめいているようで、アタシはちょっとだけドキドキしたりする。

 ナンとかと煙は高いトコロがスキだって言ったりするけど、部屋に行ってもいないトキ、K9999はいつもココにいる。前にそれを言ったら、カオを真っ赤にしてすごく怒ってたけど。アハハ、そうだよね。K9999はバカなんじゃなくって、まだオコサマなだけだもんね。

 K9999は何も言わずに空を見上げたまま。

 アタシは、そんなK9999の横顔を眺めてるといつも何か、泣きそうな気持ちになる。

 空に、行きたい?

 誰の手も届かない、自由な世界に行きたい?

 その世界に、アタシを一緒に連れてってはもらえないのかなあ。

 最近のK9999は、前からそういうトコロがあったけどそれ以上に、いつもイライラピリピリしてる。アタシのマル秘スパイ大作戦で仕入れた情報だと、KナンとかっていうヤツがK9999と同じようなチカラを持ってて、ソイツがネスツを裏切ったとか、K型兵器にマトモな完成体はないとか、イロイロ言われてるみたい。さっきも、アタシたちが今度出るコトになったKOFって大会のコトで幹部のオバサマたちにK9999だけ呼び出されてたから、上手くへつらってればイイのにK9999はそういうコトできないから、部屋から出て来るなり外で待ってたアタシに見向きもしないで行っちゃったもん。

 K9999は“K9999”で、他の誰でもなくって、もちろんK型兵器なんてワケの分かんないものじゃない一人のニンゲン。少なくともアタシはそう思ってK9999を見てるけど、K9999はそれじゃダメなの?

「よいしょ、っと」

 アタシはかけ声と一緒にドラム缶の上に手をついて、K9999の横に座った。今、K9999の目に映ってる世界は、アタシの目にこうして映ってる世界とはきっと違うんだろうな。

 ほとぼりがさめるまで一人にしてあげて、寂しくなる頃にちゃあんと来てあげるアタシのキモチってものにも、少しは目を向けてくれないかなあ。

「な〜んて、オコサマなけ〜ふぉ〜にゃいんには、まだちょっとムズかしいハナシかにゃ〜?」

「……て」

 隣にいるのに寂しくなりそうになってアタシが呟いたトキ、K9999がボソリとナニか言った。

「え、ナニナニ? ねえ、今ナンて言ったの?」

 アタシはK9999をのぞきこむ。干渉されるのが嬉しいクセに、スナオじゃないK9999はうんざりしたカオをするけど、ハナシを聞いて欲しいからもう1回ちゃんと言ってくれた。

「……K’の野郎もネスツも、俺を見下す奴は全部ぶっツブしてやる」

「うんうん。よく知らないけど、ケーダッシュとか言うヤツなんか、け〜ふぉ〜にゃいんに勝てるワケないよ。け〜ふぉ〜にゃいんのが、比べモノになんないくらい強いし」

 わざとらしいくらいに大きく頷きながら言うと、K9999は気をよくしたように笑う。タンジュンだなって思うけど、でもソコがK9999のいいトコロだとも思うんだ。

 それにアタシは、ケーダッシュの力がどれくらいの強さか知らない。まあ、普通に考えたらこんなにガリガリで小さいK9999よりは強いんだろうけど、興味とかも別にないし。アタシの王様は……やっぱりK9999しかいない、から。

「ネスツなんかどうなろうと俺の知ったことか。お前も、そう思うだろ」

「思う思う。ホ〜ント、ネスツなんかイラナイよね〜」

 ネスツなんかイラナイ。そう思ってるのはウソじゃないよ。アタシはK9999と一緒ならドコだっていい。それが今はグーゼン、このネスツなんだってだけ。

「だから俺と一緒に来るだろ」

「アタシはずうっと、何があってもけ〜ふぉ〜にゃいんのミカタだよ……って、ええっ!?」

 アタシの言葉が終わらないうちに割り込んだK9999の言葉に、アタシは目を見開いた。

 K9999、一緒に来いって言った?

「ねえ、もう1回、もう1回でいいから言ってよ?」

「うるせえ、誰が2度も言うか」

「ケチー。減るもんじゃないでしょ、ねえ、もう1回だけでいいから。イッショーのお願い!」

「うるせえ、誰が2度も言うか」

「あ、それは2回目だよ」

「うるせえ」

 K9999は言葉に困ると、すぐ会話を切りやめようとする。でも今だけは、絶対にやめさせたげないよ。だって初めて、K9999がアタシのコトを必要に思ってくれた。

 ドラム缶の上に乗ったまま、手を支えにして身体を離すK9999を、同じ動きでくるくる追いかける。ちょうど1周したくらいでK9999はぴたりと止まって、ふいにアタシのカオをじっと見つめた。

 アララ、コレって、もしかして……キスのヨカン?

 K9999は慣れてナイだろうから、こういうトキは黙って目を閉じてあげるのがK9999よりオトナなアタシの、レディーのたしなみかな?

「……」

 予想とは違ったけど、アタシはちょっとだけK9999のクチビルがふれた自分のオデコにそっと指を押しあてた。

 あったかい感触が指からカラダいっぱいに広がって、キモチまであったかくなって。そうしたら、自然と口の両端がほころんだ。

「もー、KOFでガンガンぶっツブしちゃおうね、け〜ふぉ〜にゃいん」

「誰にそんな口利いてんだよ」

「そだね。け〜ふぉ〜にゃいんはオウサマなんだもんね」

 そしてアタシは、わがままでエラそうでコドモで、でもホントは誰よりも寂しがり屋な王様がいる国のお姫様。

 ……ホラ、ね。

 笑ってた方が、ずっとずっと、イイコトあるよ。

END



昔書いたものの焼き直し。話としては2001の直前辺りまで、でしょうか。
個人的には受けキャラは相手が女の子キャラになってもやっぱり受けキャラというのが好きです。


20100209 UP






 

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