B akuman


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「ひゃっ・・わっ、ひ、平丸さんっ・・」

ぴちゃぴちゃと犬のように、平丸の舌は蒼樹の首を舐めていく。耳から顎先、そして喉。濡れた唾液が輪のように首を覆う。
鎖骨をちゅうと吸われると、それがスイッチのように体は徐々に熱を帯びはじめる。いつものように。
平丸の手が蒼樹の背中に伸びて、ブラのホックを外す。解放感とともに羞恥心がわいて、顔が熱くなった。長い指はそのまま感触を味わうように背中を撫でて、こそばゆくも弱い快感を発する。

「ぁ・・っ、くすぐったい・・」
「すみません、でもこうして触ってるだけで・・もう、気持ちよくって」

切なげな声が耳元に響く。蒼樹の口から淡いため息がこぼれた。
ベッドヘッドにあった背中はじりじりと崩れて、今は枕を下に平丸を見上げている。こちらを見下ろす彼の目は微かに血走っており、ゆるく開いた唇からは乱れた吐息がもれて。蒼樹の鼓動は速まった。

「じゃあ、いきますよ」

パチン、とチョコレートシロップの蓋を外す。ジュースをこぼすみたいにトロリとした液体が蒼樹の胸へと落ちるのが見えた。

「えっ!・・きゃっ、冷たいっ」
「あ、動かないで。動いたら零れますから、少しの間ですから・・ちょっとだけ我慢してください」
「でも・・やっ、ちょっと待っ・・やっぱりだめぇっ」

乳房の先端と谷間にたらされたチョコレートを、平丸の舌先がつうと掬う。冷たさのなかの生温かい感触に、むずむずとした。

「甘い」

ぺろりと唇を舐めて、平丸はうっとりとした表情でまた舌を動かしていく。両手首を押さえ抵抗を封じ、シロップを丹念に舐め吸う。
それは愛撫というにはもどかしい動きで、乳房をゆっくりと舐めながらも乳首へは届かず。ずず、ぴちゃ、ちゅう、と聞こえる擬音だけが妙にいかがわしく耳に残った。
敏感な先端が徐々に硬くなり、物欲しげなため息を我慢して下唇を噛み締める。そんな蒼樹に気づいてか、平丸は欲しい場所へ舌を這わした。

「!・・は、んっ」

乳首への愛撫は、口づけのように情熱的に。甘く。
吸って、噛んで、舐めて。何度も何度も繰り返されて、とけてしまいそう。いつのまにか手首は解放されていたが、蒼樹は抵抗する気力は失っていた。

「ユリタン、キスしたいです・・キス」
「ん、はぁ、あ・・」

唇にチョコレートをつけたまま、平丸の唇が重なる。ぬるりとした温かい唾液と甘いチョコレートが口腔に流れてきて、目眩がした。
平丸は蒼樹の唇にうつしたチョコレートをぺろぺろと舐め取る。くすぐったいけれど、なぞるような舌使いが食べられているみたいで。今日はいつもにまして執拗だ。

平丸は淡白そうで意外とそうではない。普段は少し頼りないというかアッサリしているのだが、ベッドの上では粘着質だと思う。
頻繁に会えないというのもあるが、いざ行為が始まるとこちらが勘弁して欲しいと言ってもなかなか許してくれない。変わった行為をしたがるというのもそういう性質の延長なのかもしれない。

指を1本1本舐められ脇の下まで舌を這わす彼が、蒼樹は少しだけ怖い。自分でも知らない感覚が呼び起こされてしまうから。
最初はくすぐったいだけだったのに、近頃は粟立つような感じを覚えてしまった。

「!・・っ、はぁん」

再び注がれるシロップは、腹部まで流れ平丸は舌でそれを追う。同時にショーツを下されて、するりと足から抜かれた。
恥ずかしいと思うよりも待ち望んでいた気持ちが大きくて、つい腰を浮かしてしまう。そんな蒼樹に気づいてか、平丸は嬉しそうに指でチョコレートをすくい内腿に擦り付けた。

「ああ、すごく濡れてる」

足を持ち上げて感嘆するように呟く。けれどすぐにはそこに触れず、内腿のチョコレートを舐め取ってから平丸は秘所へ顔を埋めた。
温かいはずの彼の舌が冷たく感じるほど、そこは熱くなっていて。やわい襞を舌先が開き、敏感な場所を吸われると衝撃から膝が震えた。

「あぁっ、はぁっ・・!」

蒼樹はシーツを握りしめ、大きく息を吐いた。
与えられる快感は電流のように体を痺れさせる。平丸の口は、貪るようなという形容が嵌る動きで蒼樹の精神を蕩かす。溢れる蜜は入口だけの刺激では足りないと、主張しているのかもしれない。

「やっ、いや・・あぁん、はぁあっ」

チョコレートの香りは媚薬のように、蒼樹の理性をゆるやかに解いていく。いつもよりも甘く喘いでしまうのが恥ずかしくて声を抑えようと口に手をあてた時、ふいに平丸が口惜しそうな顔で起き上がった。

「くっ・・ダメだっ、もう無理です」

苦しげに眉を寄せて、覆いかぶさる。

「?・・ひらま、るさん?」
「いいですね?しますよ?ほんとはもっと色々したいんですけど・・そんな可愛い声聞いたらもう、無理です。限界ですっ!」
「えっ、あ・・っ!?」

平丸は性急な動きで下半身を秘所へと宛がうと、襞を広げて徐々に沈める。先端をゆっくりと動かして潤いを自身に馴染ませ、蒼樹の奥へと貫く。

「はぁ、あんっ・・!」

待ち望んでいた刺激に鳥肌が立つ。背中が弓なりに跳ね、眉を寄せた。
しがみつくように蒼樹を抱きしめ、平丸の腰は律動を繰り返す。荒い息が耳にかかり頭の奥が痺れてきた。

「っ、はっ・・ユリタン・・」
「ああっ、はぁんっ・・あっ!」
「気持ちいいですか?・・っ、教えてください、気持ち・・いいですか?」

そう言って蒼樹を窺う平丸の顔は、僅かに嗜虐の色が見える。
蒼樹の潤んだ瞳は追い打ちをかける快楽の波にのまれ、揺れて、震えていた。普段の理知的な光は既に消えて、あどけない少女のような色が映る。

「は、いっ・・」
「気持ちいいですか?僕として・・気持ちいいですか?」
「っ!あぁっ・・き、きもち・・いいですっ」

そう小さく叫んですぐ、平丸は蒼樹の足を肩にかけさらに深く腰を動かす。ガクガクと揺さぶられて体の奥がさらに熱くなった。
いかがわしい水音が動かされるたびに漏れ聞こえる。耳元で蒼樹の名前をうわ言のように呼ぶのは彼の癖の一つで。どこか恍惚とした響きは、もしかしたら無意識なのかもしれない。
長く黒い髪が揺れて頬にかかる。切なげに眉を寄せる平丸が無性に愛おしくて、蒼樹は口づけを求めるように彼の頬を手で包んだ。

「ああ、もう・・可愛すぎます。ユリタン」

ため息まじりに、うっとりと呟きながら平丸の唇が近づいて。蒼樹も添うように唇を寄せる。
柔らかく味わうように絡む舌は、全身を支配する官能をさらに高める。乱れた呼吸と湿った体温が重なり、昇る白い絶頂の予感に胸が震えた。

すがりついて衝撃に耐える、その瞬間。口腔の感じた平丸の唾液は、確かに甘くて。
チョコレートみたいに刺激的な味だった。





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BAKUMAN


(bakuman....)





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