B akuman


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黙っている蒼樹に焦れたのか、平丸は掴んだ肩をそのままソファーへ押し倒す。両脚を開き、今にも挿入しそうな格好で覆いかぶさってくるので蒼樹は驚いて胸を押した。

「ひ、平丸さん?なにを・・」
「せっかく大きくしてもらったので、しようかと」

その口調の冷たさに、どきりとする。見下ろす彼の目は明らかに怒っていて、それは先ほどの行為が端を発しているのだと分かった。

「待って、違うんです。私は、あの・・あの」
「違う?違うってなにが?ああ、いつも清楚で可憐なあなた自身が?」
「そんな、ひどい・・そんな言い方許せませんっ」
「ひどいのはどっちだ。こんな手慣れたことをするなんて誰に教わったんですか?・・何も知らない清純な顔をして毎度僕を翻弄していたくせに」
「翻弄なんて・・いたっ!」

唐突に、平丸の指が秘所に沈められ体が跳ねる。初めて感じる異物感に眉間にしわが寄り、下唇を噛む。
指は徐々に律動し微弱な電流を起こす。最初は浅く、次第に深く。親指で敏感な突起を探し平丸が回すように撫でると、淫靡な水音が聞こえ始めた。

「やっ・・んんっ!」
「こんな可愛い顔を他の男にも見せたとか・・ますます許せない」

平丸は眉尻を上げる。その瞳はやや血走って、たまに垣間見せる偏狭さが滲んでいた。
蒼樹は誤解を解きたくて話をしようとするも、平丸はそれを拒絶と取ってさらに力を強めて圧し掛かる。普段どこにこんな力を隠していたのかと思うほど、抵抗しても動じなかった。

「挿れますよ?・・ねぇユリタン、僕だってもう限界なんです」

耳元で囁く声に苛立ちと焦燥を感じると、蒼樹は急に力が抜け悲しさが込み上げてきた。
片足を持ち上げられ、秘所に彼の先端があたる。じりじりと沈められ裂けるような痛みが走った時、蒼樹は耐え切れず泣き出してしまった。
こんなはずではなかったという気持ちと、誤解されたことの悔しさと悲しさ。理不尽な彼の言い方への憤りとそれでも分かって欲しいと思う感情が、胸を締め付けて涙が溢れた。

ふと、下半身にあった痛みが消えている。平丸は覆いかぶさったままだが、沈めた先端を抜いてくれたようだった。おそるおそる蒼樹の頬に触れて、彼も泣きそうな顔をしている。
それを見て蒼樹もまた涙が溢れた。どうしてか分からないがホッとして、体中の力が抜けていった。
平丸はバツ悪そうに顔を下に向けて、小さな声で呟く。

「ごめんなさい・・・・ついカッとして・・」
「平丸さん・・」
「本当に、本当になんて言っていいか・・ごめんなさい・・ごめんなさい」

青白い顔をさらに青くし、縋るように蒼樹の肩に頭をつけた。叱られた子供のようだと、頬にたれた涙を拭いながら思う。
本当に子供のようだ。単純で、騙されやすくて、いじらしくて、放っておけない。ぼんやりと天井を眺めながら、蒼樹はそっと平丸の頭を撫でた。

「もう、こんなふうなのは・・いやですよ?」
「はい。もうしません、絶対しません」

本当かしらと、少しだけ疑ってしまうのは内緒。頭を上げた彼は、すぐにホッとした顔でこちらに笑いかける。
こういう時に感じるのだ『ずるいなぁ』と。裏なく笑いかけられては、こちらも許さないわけにいかないから。まだ言いたいことも怒りたいこともあるのに、この顔を見ると言えなくなってしまう。
けれど、今日は許す前にひとつ言っておかなければならない。自分にかけられた誤解を解かなければ。口を尖らせて平丸をじいと睨むと、そんな蒼樹に怯んでか顔を僅かに引き攣らせた。

「平丸さん、一つだけ言わせて下さい」
「は、はい」
「私は・・前にも言いましたよね?お付き合いする方は平丸さんが初めてだと」
「あ・・はい」
「ですから・・あの・・さ、さっきの、その・・さっきの・・」

口でした行為を何と言えばいいか困って、顔がどんどん赤くなる。

「さっき・・口で・・したのは、咄嗟というか、思わずというか・・ち、知識としてはあったので。で、ですから平丸さんが勘違いされているようなことでは、ありませんからっ」
「あ、はい。そうですよね!ほんとにスミマセン!」

かなり勇気を出して言ったにもかかわらず、平丸があっさりとそれに肯いたのを見て蒼樹は怪訝な顔をする。さっきあんなに疑っていたのに、と納得いかない気持ちでいると、平丸がそれに気づいて嬉しそうに笑った。

「血がついてたんで、勘違いだって分かりました」
「血?」
「はい、さっき抜いた時に。僕のについてて」

何のことかと首を傾げたが、次の瞬間蒼樹の顔は真っ赤の染まる。悪びれない様子に信じられない思いでいると、彼は許されたことで気が楽になったのかため息まじりに呟く。

「だからカッとしちゃったんですよ・・冷静に考えたらユリタンの口、あんまり上手くなかっ・・いっ!?いたっ、たたただっ!」

咄嗟に平丸の両頬を思い切り抓った。悪気がないのは分かっている。いや、悪気がないからなおさら腹が立つのだ。
こっちだって好きでしたわけではないのに、よかれと思ってやったのに。確かに上手でもなかったかもしれないけどもっと言い方があるだろうに。蒼樹は悔しさと苛立ちを込めて平丸の頬を抓り上げると、パッと手を放した。

「もう絶対しませんからっ」
「えっ、そんなっ」
「絶対、絶対しませんっ」

涙目の彼に言い放ち、蒼樹は体をソファーから起こすと乱れた服を直す。平丸はその横で、この世の終わりのようにガックリとうな垂れ肘掛に顔を埋めていた。鼻水をすすりながら、彼はチラチラとこちらを窺う。

「あの・・絶対だめですか?」
「だめです。あんなこと言われてしたいなんて思いません」
「そんな・・あの、次はちゃんと優しくしますから。シャワーに入ってからにしますから。大事に大事にしますから」
「どうせ私は下手ですし、そんなことを言われても・・え?」
「ん?」

なにかおかしい。お互い顔を見合わせて眉をひそめる。
蒼樹は口での行為についての発言だったが、彼はそうではなかったらしい。それに気づいて恥ずかしそうに口を押さえる蒼樹とは逆に、まるで頭に電球が点いたかのようにパアッと表情を明るくした平丸は、蒼樹の手を握り締めた。

「大丈夫。横になってくれるだけで、あとは僕がしますから!」

「だからお願いします」と、真剣な瞳でこちらを見る彼に蒼樹は顔を引き攣らせながら考える。


ここはやはり拒絶すべきだろうと。




END

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BAKUMAN


(bakuman....)





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