D.gray-man U






夕食後のひととき、デザートを持って談話室に女子が集まるのは、恒例といっていいかもしれない。
話題は、流行のファッションや新しくできたアクセサリーショップ、任務先で食べた美味しいケーキ、占いや噂話。フェイやキャッシュが参加する時はそこに仕事の愚痴も入り、クラウドが参加する時は悩み相談、ジェリーの時は簡易料理教室と楽しい時間を過ごしている。

この日は集まりが悪くミランダとリナリーそしてエミリアの3人だけだったが、ジェリーの特製チョコレートケーキの差し入れもあり、いつもどおりの楽しい夜のお茶会になっていた。


「ねぇ、エミリアって・・・ここに来る前、恋人とかいたりしなかったの?」

ケーキを一口食べ、熱い紅茶をふうふうしながらリナリーが聞く。彼女も年頃の乙女、恋愛話は大好物なのだ。

「えっ?なによリナリー急に」
「だって、ほらパリに住んでいたんでしょう?パリってなんとなく恋人達の街っていうか、そんな感じがするじゃない」

その夢見るような瞳に、エミリアは首をぶんぶんと振って答える。

「そんなの一部の人だけよ、私だって素敵な人との出会いを求めてきたけど・・見る目ないのかしら、全然実らない恋ばっかりだったわ」
「理想が高いとかじゃなくて?エミリアって面食いっぽいし」
「まあ、顔は確かに重要だけど・・やっぱり中身でしょ?でも実際ここの方が出会いはあるんじゃない?教団も男の人ばっかりだし、それにほら任務で色々行くじゃない。そこで素敵な美少年に出会って・・みたいなのとかないの?」

チョコレートケーキをおかわりしようと身を乗り出しながら、ワクワクした顔でリナリーとミランダを見る。
リナリーは「まさか」と肩をすくめ、紅茶を飲みながら首を振った。

「そんな夢みたいなことあるわけないじゃない、だって任務行ったらすぐAKUMA破壊よ?終わったら即効で本部帰還だし・・それに滞在中なんて誰が報告書書くかとか、そんなことばっかり話してるわ。ロマンスなんてないわよ」
「え〜、でもよく言うじゃない『吊り橋効果』?そういう危険な状況にいる男女は恋に落ちやすいって」
「聞いたことあるけど・・そんなこと言ったら私たちいっつも誰かと恋してないとならないわよ。ねえ?ミランダ」

指先についたクリームを舐めながら、リナリーが同意を求めるようにミランダを見ると彼女はフォークをケーキに刺したまま固まっていた。
その顔はどう返事していいのか困っているのが分かる。

「・・・・ミランダ?どしたの?」
「えっ、あっ、う、ううん、なんでも」

誤魔化すように視線を皿の上のケーキに移し、やたら小刻みにフォークを動かす姿は明らかに不審で。首を傾げるリナリーをよそに、エミリアは何かを思いついたようにパアッと顔を輝かした。

「まさかミランダさん・・・あったの?吊り橋効果!」

カチャーン!とミランダの手にあったフォークが落ち、皿に響く。図星と分かり易すぎるほど顔を赤く染めて、2人の視線から逃げるように俯いた。

「え・・ええええっ!?ほ、ほんと?ミランダ」
「きゃあ〜!やっぱり?やだもう、誰なの?誰?誰?」
「えっ、あの、そそそそ・・そういうわけじゃ、あの・・」

驚き興奮するエミリアとリナリーは、目を大きく見開き向かいに座るミランダに前のめりになる。当の本人は、おろおろしながら熱くなった頬を両手で押さえた。

「あ、あのね・・あの、好きというか・・ハッとしたっていうか・・あの」
「きゃあ〜!相手は誰?ねぇミランダさん、教えて、ねぇねぇ!」
「年頃で言ったら、やっぱりマリ?それともラビとか?まさか神田じゃないわよねぇ?」

口元に指をあてながら相手を予想するリナリーに、ミランダはどれも違うと首を振る。
いつも恋愛話は話題の一つとして上るのだが、ここまで具体的なのは初めてである。集まった人数が3人と少なめだった気安さもあってか、普段そういった話に参加しないミランダもいつもより口が軽くなっているのかもしれない。

「す、好きって言っていいのかしら・・ちょっとおこがましいんだけど・・・ドキドキするっていうか・・これって、やっぱりそういう感情なのかしら」
「その人の傍にいるとドキドキするんでしょ?なら決まってるじゃない、それは恋よミランダ!」
「リナリーちゃんもそう思う?じゃあ、そうなのね・・やっぱり」
「で?で?相手は誰?教えてよミランダさんっ」

興奮して目を輝かせる2人を前に、ミランダはもじもじと指を目の前で擦り合わせ真っ赤な顔で俯く。言っていいのかしら・・と小さく呟き、聞こえるか聞こえないか程の声で告白した。


「・・・・・・・・・・ソカロ・・・元帥」


「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・え?」

キラキラウキウキとカラフルだった少女達の表情が、急速に色を無くしていく。思ってもみない相手に我が耳を疑った。
ソカロ、と言った。確かにそう聞こえた。リナリーとエミリアは咄嗟にお互い目を合わせる。それが聞き間違いではないと無言の確認をすると、さらに念のために本人を見た。

「あ、えと、ミランダ・・・ソ、ソカロ元帥って言った?」

ミランダは赤く染まった頬に両手を添えながら肯く。その姿はどう見ても恋する女である。

「へ、へえ〜・・そうなんだ」
「な・・なんか、あ、ううん・・あの、そうなの」

意外過ぎてどう反応していいか分からず引き攣った顔で2人は笑ったが、内心の動揺は隠せない。リナリーはカップを持つ手が震え、エミリアはケーキを口に運ぼうとして顎に刺してしまった。

(ソカロ元帥?)と2人の頭に「?」マークが無数に浮ぶ。今までミランダがソカロと接触したことはあったろうか、任務でも一緒になることは殆どなく教団にいるときも一緒にいる所は見たことがない。ソカロはいつも仮面をしているし、こう言ってはなんだが女性受けするタイプとも思えない。
幼い頃から知ってるリナリーですら任務以外で2人きりになるのは少々苦手だ。ミランダがどうしてあのソカロに惹かれたのか甚だ謎である。本当に恋しているのかしら・・不審に思うも、目の前の彼女の姿をみればそれも余計な心配だと思う。
リナリーは落ち着こうとティーカップのお茶を飲み干して、小さく咳払いをした。

「あの、あのねミランダ、気を悪くしないでほしいんだけど・・・・・えと、ソカロ元帥のこと・・・・・ど、どのあたりが好きなのかしら」
「えっ」
「ちっ違うのよ!別に元帥がどうとかじゃなくって、だってほら今までミランダと元帥って交流が無かったと思って。あ!ほんとよ、別にソカロ元帥が意外すぎるとか、そういうんじゃないからっ!心配・・ううん好奇心よっ」

隣にいるエミリアが咎めるような表情でリナリーの脇腹を肘でつつく。ちょっと不自然だったかしらと心配したが、当のミランダはまったく気にしていないようだった。ティーカップの取っ手を指でいじりながら、恥かしそうに笑う。

「じ・・・実は、まだお話したことないの」

「「えええっ!?」」

思わず重なる驚きの叫びに、ミランダはビクッ!と体を跳ねさす。

「そ、そんなに驚くこと・・?」
「あ!ゴメン・・だ、だってビックリするじゃない」
「ミランダさん、あの、まさか・・・・それって、一目惚れみたいなかんじ?」
「それは・・」

ミランダの顔が湯気がでそうなほど赤くなり、2人の視線から逃げるように俯くと「そうかも」と小声で呟いた。

「あ、そ、そうなんだぁ・・」
「で、でも素敵よね。一目惚れって・・うん」

リナリーもエミリアもまさかの答えに動揺するがなんとか思考を働かせ、必死で乙女思考へと向きを変える。
ミランダが恋をした、素晴らしいことだ。思いもよらない相手ではあったけど、考えを変えればちょっと(?)ヤンチャな人が好みだっただけ。人は自分とは正反対の人に憧れるというではないか、ワイルドなソカロに惹かれたというのも無理な話ではない。
2人とも互いに目配せし、エミリアがお茶の葉を入れ替えながらきわめて自然な笑みをミランダに向けて聞く。

「ねえミランダさん、ソカロ元帥のこといつから好きだったの?」
「それはその・・ついこの間から・・・」
「この間?ってミランダ、元帥と任務で一緒だったことあった?」

「あ、任務がきっかけじゃないのよ。ほんとつい最近なの・・・」


そう言って、ミランダは小さな声でその「きっかけ」を打ち明けた。





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