D.gray-man U









◆◇◆◇◆






ごめんなさいと言われて納得できるわけがない。リーバーは白衣をはおり、自室を出ると迷うことなくミランダの部屋へ向かった。

理由を知りたい、別れまで決断するにはそれなりの理由があるはずだ。ミランダが出て行った後に自分でも考えてみたが、これといって思い当たることはなかった。
分からない。ほんとうに分からない。喧嘩をしたわけでもなければ、やましい秘密を持ったわけでもない。リーバーはミランダを本当に大事に思っていたし、将来のことも考えていたのだ。

(まいったな・・本気じゃないよな)

廊下を歩きながら頭を掻く。人通りの少なさに夕飯時であったのを思い出した。ミランダも食堂に行っているかもしれない、だったら困ったなとため息をつくと、ふと出会ったばかりの頃を思い出し立ち止まった。


食堂へ行く途中に迷子になった彼女を、リーバーが見つけたのが1番最初の出会い。

見知らぬ人間しかも女。最初はどこかの班の新人かと思ったが、リナリーが無線で教えてくれた新しいエクソシストの特徴に似ているのに気づいた。声をかけるとよほど驚いたのかその場で10cmは飛び上がり、怯えた顔でリーバーを見上げた。
科学班の人間だと自己紹介をして「よろしく」と手を差し出すと、おろおろしながら両手で握りかえし「よっ、よろしくおねがいしますぅっ・・」と床に頭をつきそうなほどお辞儀をした。

第一印象は「大丈夫だろうか」という心配だった。痩せて背はひょろりとし、顔色も悪かったせいかとてもエクソシストが勤まるとは思えなくて。弱々しくて不安そうで、とてもじゃないが戦地へ安心して送り出せるタイプには見えなかった。

任務へ行くたび、無事帰ってこれないのではないかと心配だった。けれどそんなリーバーをよそに、ミランダは教団で少しずつ逞しくなって。
無事を確認するたび、ほかのエクソシスト達の帰還以上にホッとすることに、リーバーが後ろめたさを感じるようになるのはそう遅くはなかった。

自覚した恋心に、正直リーバーは戸惑った。職場恋愛がご法度というのではない、自分が抱いていた理想の女性像とミランダはかなり違ったからだ。もともと男女差のあまりない環境で育ったせいか、昔から惹かれるのは気の強い女性だった。現に今まで付き合ってきた恋人達もそういったタイプだ。
けれど一度芽生えたものが花開くと、戸惑う気持ちもすぐに消えて。困ったような笑顔を浮かべる彼女が愛しくなった。ちょっと間が抜けた失敗も可愛く思えて、ミランダが傍にいると癒されることに気づいた。

恋人となっても遠慮がちな彼女を少し物足りなく思っていたけれど、徐々に慣れてくれればいいと思っていたし、そんな控えめな様子もミランダらしくていいと思っていたのだが・・。

(わかんねえな、女の気持ちってのは)

歩き出してミランダの部屋まで来ると、そのまま扉の前で立ち止まる。
ノックをしようとを軽くにぎった拳を扉にかざすと、急ににガチャリと扉が開いたのでリーバーはそのままのポーズで固まった。

「・・!」

驚いて目を見開いたミランダは、咄嗟に扉を閉める。目の前で再び拒絶されてしまったことにリーバーは少し落ち込んだが、気を取りなおして扉越しに声をかけた。

「ミランダ、ちょっと話さないか?ここを開けてくれよ」

返事がない、しかし聞こえているはずだ。もう一度声をかける。

「さっきの話だが、あんな一方的じゃ納得できないだろ?ちゃんと話そう、そうしないと俺にはミランダの気持ちが分からないよ」
「・・・・・・・」
「聞こえているんだろ?頼むよ、ここを開けてくれ」
「・・・ごめんなさい・・」
「だからどうして謝るんだ?俺に謝らなければならないことがあるのか?違うだろ?話がしたいんだ、聞いてるか?なあミランダ」

ごめんなさい、ごめんなさい、と扉の奥で繰返すミランダに微かに苛立ちを覚える。謝ることでリーバーを拒否しているのか、それとも実際謝らなければならないことを彼女がしたのか。どちらにしても話し合いすら受けないミランダに失望した。

「本気なのか?本気で・・・別れようと思っているんだな?」
「・・・・はい」
「どうしてだ?理由を言ってくれないと俺だって同意できないよ」
「だから・・もう好きじゃないんです」
「その理由が信じられないから、ここまで来て聞いているんだ」
「・・・・」

扉の向こうで黙り込んだ彼女がもどかしくて、リーバーはこのまま強引に扉を開けようかと思う。もちろんそんなことはしないが、そういう感情が自分にわいたことに驚いた。

頼りないな、と心の中で呟く。それは自分自身のことだったがミランダのことでもあった。頼りない、もっと確かなものだと思っていた。自分の心の安定も、二人の関係も、彼女の気持ちも。こんな簡単に関係を解消されてしまうとは思ってもいなかった。
いや、リーバーがそう思い込んでいただけなのだ。思えば、彼女は一度も自分の感情をぶつけてきたことなどない、いつでもリーバーに任せて困ったように微笑んでいるだけだった。無理をさせていたのだろうか、本心では別のことを考えていたのかもしれない。

(にしても・・呆気なさすぎるだろ)

ため息をついて、扉に額をつけると瞼を閉じた。別れるつもりはない、ミランダを想う気持ちを諦められない。けれど胸に芽生えた失望が影を落していったのは間違いなかった。

「ミランダ、最後に聞くぞ・・・・本当に、それでいいのか?」

扉の奥で鼻水をすする音がした。彼女の沈黙は僅かな希望をリーバーに抱かせたが、それも長くは続かなかった。


「もう、無理・・なんです」


涙声でそう言うのが聞こえると、リーバーは体中の空気を吐き出すようなため息をついて「そうか」と肯いた。
「わかった」とは言えなかった。それを言うのはまだ想いが残りすぎていた。扉から放した額を手で押さえ、は、と軽く息をつくと、リーバーは来た道を戻って行く。



このまま終わるのか、こんな呆気ないものなのか。胸に大きな穴が空いたような感覚に、苛立ちから壁を殴った。






END

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