D.gray-man U
3
(どうしたというんだ・・・わたしは)
腕の中の彼女を、本能のままに求めたい・・。そんな獣のような欲望が体の奥を疼かせる。
恐ろしい、そう思いながらもミランダを、解放することをマリは躊躇った。
「マリ、さん・・」
ミランダのかすれた声がして、胸に暖かい吐息を感じる。
ガタンと風が戸口を揺らす、恐ろしげな風の音が気持ちを不安にさせているのかもしれない。
「・・・・・ミランダ」
「・・・・・」
見上げるミランダの視線に、いつもは感じない熱がある。奇妙な期待がマリの胸を過ぎった。
彼女も少しは同じ気持ちでいるのだろうか、だとしたら・・・マリは気づかれぬよう唾を飲む。
血の巡りの良くなった頬に触れる、ぴくと反応したがミランダは嫌がっていない。
触れたい、その肌に触れてみたい。吸い寄せられるようにマリの唇は彼女の頬へと落ちていく。
懐にあるミランダの手が微かに震える。瞼をきゅっと固く閉じるのが分かり、その仕種にマリの動きが止まった。
(・・・駄目だ)
頭の中で誰かにそう言われた気がして、マリは顔を上げる。
残っていた理性が働いたのかもしれない、自嘲ぎみに口の端を上げるとブランデーを取り出し、ぐいと呷った。
「すまん・・酔ってしまったらしい」
「・・・・」
ミランダは小さく首を振ると、微かに笑った。それはホッとしたようでもあり、気のせいでなければ・・少しだけ、残念そうにも思えて。
口腔に残るアルコールが胸から腹へと落ちる。マリは熱を吐き出すように、は、と息を吐く。
(そうだ、酔っているんだ)
この状況に。
雪山で二人きりだという、この場面に。自分は酔ってしまったのだ。
吹雪の中、取り残されているような心細さがそうさせたのだ。だから明日になれば、山を下りれば、全ては元に戻る筈だ。
(・・・元に、戻る?)
言い聞かせたその言葉を、当のマリ自身が空しく感じた。おそらく無理な事が分かっていたから。
懐に入れた手や頬に触れた髪、ミランダの甘い匂いが既に記憶に深く残っている。抱きしめた腕の感触も覚えている。
この記憶は、事あるごとにマリをミランダへと誘い導くだろう。
そうしていつか、どうにもならない場面へとマリを連れていくのではないか・・・。
そんな見通しのつかない予測を覚え、マリは静かにミランダから体を起こした。
轟々と鳴る吹雪の音に、近いものを己の胸に感じながら。
End
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