D.gray-man U






勢いよく開いた扉から男と女が二人、女は男に抱き抱えられた状態で、転がるように入って来る。
轟々と鳴る外の吹雪が、この粗末な小屋を揺らしていたが、雪を入れないよう急いで扉を閉め閂をかけると、男は女の頬を軽く叩きながら起こす。

「ミランダ、起きるんだミランダ!」
「・・・・っ、う・・」
「大丈夫か、しっかりするんだ!」

ミランダと呼ばれた女は、眠いのか瞼を重そうに薄く開け、ぼやけた目つきで男を見る。
焦点が合っていないのか怪訝な表情をしたあと、見知った顔に微かな安堵の吐息を漏らした。

「マ、リ・・さ・・?」

唇がうまく動かない、痺れていて開くのもやっとのようだ。
けれど声に力を感じたマリは、安堵の息を吐き腕の中のミランダを抱きしめる。
ポケットからブランデーの小瓶を出しミランダの口にあて、それを飲む様子に眉間のシワをやや緩ませた。

「ゆっくり飲むんだ、体が温まる」
「・・・っ、んっ」

コクンコクンと二口飲むと喉から胸へと熱い感覚が広がり、ミランダは軽くむせる。くせの強いアルコールがぼやけた頭の芯を確かにしていく。
マリは小屋の中に小さな薪ストーブを確認すると、彼女を壁に寄り掛からせ焚き付け用の枯れ枝を取り火を点けはじめた。
少々古いが普段から使われているらしく、手入れがしっかりされていたので、庫内は簡単に火が燃える。
マリは山積みの薪から小さめなのを取り、何本か焼べてストーブ窓を閉じた。

外の強い風により小屋はガタガタと揺れ、隙間から冷たい空気と共にヒューヒューと気味の悪い音がする。
マリはヘッドフォンに耳を集中させ、麓にいる仲間への連絡を試みるが吹雪のせいなのか無理であった。

「ミランダ、大丈夫か?寝てはダメだぞ!」

厳しい口調で言うと、彼女が微かに頷いたのを感じ、マリは近くにあった戸棚を開けてミランダを暖める物を探す。
恐らく狩猟用で休憩の為の小屋だろうから、毛布が有るはずだ。いくつか引き出し開けて、三段目に毛羽立った大きな布を一枚見つけた。







◆◇◆◇◆





フランスでの任務を終えたマリは、新しい任務の為その足でミランダと合流する事になった。

国境沿いの村に到着したマリを待っていたのは、混乱した様子のファインダー達だった。山越えの間に、同行していたはずのミランダが行方不明になったのだ。
急遽天候が乱れ猛吹雪となり、ミランダを囲むように下りてきた筈なのだが、気づいた時は彼女一人いなくなっていたらしい。

吹雪の中探索に入ろうとするファインダーを止めて、視覚に頼らず動けるマリがミランダを探しに山に入った時、日は既に落ちて風はさらに強くなっていた。
深く積もる雪に足を取られながら、ミランダの心音を頼りに登っていくと、風と雪の音に紛れ微かに弱まる心音が聞こえ、マリは焦った。

幸いな事に彼女のいる場所は、一合目を少し過ぎたあたりでマリのいる場所からそれ程離れていない。
おそらく下山の最中に吹き溜まりに足を取られたかして、逸れてしまったのだろう。
耳に感じる吹雪の凄まじさから、殆ど視覚や聴覚もきかなかったろう。気づかなかったファインダー達は責められまい。

雪を防ぐよう腕で顔を覆い、聴覚を研ぎ澄ましながら歩いていくと、雪の中にほぼ埋もれていたミランダを見つけ、マリは名前を呼び抱き上げた。

「ミランダ!しっかりしろ!」

ぐったりとして反応のない彼女にマリは生きた心地がしなかったが、心音はそれ程弱まっていなかったので落ち着きを取り戻す。
ここへ来る迄に現地のガイドから山小屋の場所を聞いていたので、マリはミランダを抱き抱え、そこへと歩いて行った。





◆◇◆◇◆





ストーブの火がパチパチと燃え始める、薪ストーブは温まるまで時間がかかるのが難点だ。
マリは火の様子を確かめ、さっき焼べた小さな薪が燃えているのを確認すると、今度は中くらいの薪を焼べた。
ストーブの窓を閉めるとバフンと空気が換気された音が聞こえ、上手く燃えているのを確認しマリはミランダの元へ戻る。

「大丈夫か?喋れるか?」
「は、はい・・あの・・マリさんは、どう・・して?」
「そんなことより、この団服を脱ぐんだ。雪が服に染み込んでいる、これでは凍死してしまうぞ」

マリ自身の指もかじかんでおり、ややぎこちない手つきでミランダの団服の釦を外していく。
指先が胸元に触れると、一瞬はっと躊躇ったがそんな考えを振り切るように全ての釦を外し団服を脱がした。

ミランダは凍ってごわつく布の感触から解放され、薄手のカットソー姿になると上から毛布のような布でぐるりと巻かれる。

「ミランダ、体は動きそうか?」
「え?は、はい・・」

「では団服の下も脱いだ方がいいだろう・・さすがに私がするのはマズイだろうから」

言いながらミランダの靴を脱がしているマリは、気まずそうに顔を逸らしている。
その言葉の意味をじわじわと覚ったミランダは、恥ずかしそうに俯きパンツのベルトに手をかけた。

(あ・・)

しかし指の感触が殆どなく、ベルトに手が触れていても分からない。

「どうした?」
「・・すいませ・・ん、手が・・」

マリがその手に触れると氷のように冷たくて、凍傷になっているのかと心配になった。

「・・ミランダ、失礼するぞ」

返事を待たず、マリはミランダのベルトに手をかけると、硬く滑りが悪くなったパンツを脱がせる。
当たり前だがその下はショーツ1枚な訳で、見えないと分かっていてもミランダは動揺してしまう。

マリもまた、己の指が彼女の冷えた太ももに触れているのに、一瞬だが不埒な思いにかられた。いまさらだが、ミランダも一人の女性なのだと意識してしまう。



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