D.gray-man U
3
ちょうどリナリーと膝をくつけるように、ラビもしゃがみ込んだ。
「泣かんで、リナリー」
「・・・泣いてなんかないわよ」
「だって今、鼻すする音してたさ」
「うるさい」
二人向かい合うようにしゃがんだまま、暫く黙ったままでいると、ラビがぽつんと「ゴメン」と言う。
それに返事をせずリナリーは膝とおでこをくっつけていると、もう一度、躊躇いがちな声が聞こえてきた。
「・・・・あのさ、ちょっとでいいから言い訳さして?ダメ?」
「・・・・・・」
そんな風に言われると頑なだった心が解れてきて、さっきまでのラビを責める気持ちは鎮まっていく。
感情的になった気恥ずかしさと、少し言い過ぎたような気もしていて、リナリーはゆっくり膝から顔を上げた。
綺麗な赤毛から覗く翡翠の瞳は、申し訳なさげにリナリーを見ているのだが、口元は若干緩んでいる。
「俺・・今日ずっと落ち着かなくって、ソワソワしちゃってたもんだから・・うわの空っていうか」
「どういう意味よ」
「それは、リナリーと二人になることばっか考えてたもんだから」
「なによ、それ」
文句を言いつつ、頬がじわりと熱を持ちはじめる。目の前のラビも同じらしい、照れくさそうに指で頭を掻きリナリーの頭にポンと手を置いた。
「だってさ、めちゃめちゃ楽しみだったんだぜ?おかげで興奮しすぎて・・・寝不足になっちまうし」
「寝不足って・・呆れた、それでお芝居の時にああだったの?」
「いやもう、ホント寝れねぇのなんのって。目ぇ冴えちゃって全然寝れねぇから、軽く運動してたらジジィに怒られるしさ」
ため息つきながら、リナリーの頭を撫でる。髪を撫でるみたいに優しく。
「・・・ばかね、ラビ」
「うん、わかってる」
目が合って、お互いに笑みがこぼれた。
さっきまでの刺々しい気持ちが消えていく、なんだったのかと自分でも思うほど。
こうやってラビと見つめ合うだけで、ただ嬉しいのに。
「・・・・・」
(ああ、そっか)
分かっていなかったのは、リナリー自身だったのだ。
自分はこういうラビが好きなのだ、ちょっと軽くてズルくて・・でも優しくて。
賢いくせに女心はあんまり分かってない、ちょっと鈍いとこが可愛いのに。
「ねぇ、ラビ」
「ん?」
「・・・まだソワソワしてる?」
ラビはリナリーの言わんとしてる事が分かったように、胸に手をあて大袈裟にため息をついて、
「うん、すごくしてる。だから早く仲直りしたくてたまんない」
「んもう!はい、じゃあ仲直り」
すっと握手を求めるように手を差し出す、ラビは嬉しそうに笑うとその手をきゅっと握る。
そうして、少し躊躇うように目線を地面に移すと、照れ臭そうに小声で呟いた。
「いまさらって思うかもしれんけどさ・・・リナリー、今日めちゃくちゃ可愛い」
「な、なによ急に」
「いや、ほら、さっきはマリ達がいたしさ。ちょっと言いづらかったっていうか」
「言うの遅いわ」
嬉しいのに、素直に喜べないリナリーはラビを軽く睨んだ。
ゴメン、と言いながら立ち上がるラビは、リナリーの手を放さない。
「んじゃ、行こうぜ。時間は短いんだから」
「行くってどこへ?」
「そうさね・・こうやって手を繋いでぶらぶら歩けるとこなら、俺はどこだっていいや」
「なによそれ」
リナリーはちょっと不服そうに言ったが、実のところ気持ちはラビと一緒だった。
繋いだ手の暖かさを、このまま感じていられるならどこでもいい。
特別なことをしなくても、これだけで十分しあわせだと分かったから。
End
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