D.gray-man U




(せっかくのデートなのに・・)

普段とは違う特別な日なのだから、今日だけはそんな話題はしたくないのに。
もっと楽しくて、もっと恋人同士みたいな会話がしたい。そう、マリとミランダみたいに。



注文した料理がテーブルに運ばれ、楽しくお喋りしながら食べていると、マリが思い出したようにラビを見て。

「待ち合わせを決めておこう、別行動をとるにしても教団には一緒に帰ったほうがいい」
「そうだな、えーと今何時?14時・・んじゃ17時はどうよ」

「ではその時間に、またこのカフェで待ち合わせようか」

「おう、了解」

マリとラビの会話に、リナリーは胸がドキドキしていた。

ラビと二人っきりになる。
嬉しいけど少し緊張してしまう、そっと隣にいるラビを見るが、彼はポテトを口に放りむしゃむしゃ食べている。
その姿に自分と同じ感情を読み取れず、リナリーは少しガッカリしながらミルクティーを一口飲むと、ふいに目の前のミランダに視線を移した。


「熱っ、きゃっ!」

熱さの残るホワイトソースがミランダの顎に付き、カチャンと音をたてフォークは床に落ちる。

「大丈夫か、ミランダ」

「ああっ・・す、すみません、私ったらフォークを・・今貰ってきますっ」
「それよりも火傷しなかったか?ほら、これで拭くといい」

マリは水でハンカチを濡らすと、顎についたホワイトソースを拭ってやり、近くにいた給仕に新しいフォークを頼む。
申し訳なさそうではあるが、ミランダは嬉しいのだろう。マリを見つめる瞳はうっとりとして熱っぽい。

(・・・・いいなあ)

そんな二人の様子が、リナリーは何だか羨ましくて。というより、マリがミランダを気遣う姿が羨ましいのだ。

(別に、マリみたいにして欲しいっていうのじゃないんだけど・・・)

マリがするようなレディーファーストとか、そんなのはいい。
だいたいラビがそんな事しても、ちょっと笑っちゃうし、されるこちらも柄じゃない。

リナリーが望むのはもっと簡単なもの、もうちょっと「気づいて」欲しいだけ。

頑張ってお洒落したら褒めてもらいたいし、お芝居を観た後は感想を言い合いたい、メニューも二人で楽しく決めたいし、食べている時は私の顔も見て欲しい。

(・・・いいなぁ、ミランダ)

比べちゃいけないのは分かっている。
元々、マリは世話焼きなほうだしミランダもどちらかと言えば、世話のかかる人だ。
自分とラビは恋人だけれどそういう雰囲気ではない、分かっている。
分かっている・・・分かっているけど、どうしても比べてしまうのだ。

目の前のマリはミランダの微かな反応にも気づいてあげるのに、隣にいるラビときたら、リナリーが今こんな風に不満に思っているのにも気づかない。
ペスカトーレのソースを口につけて、今朝の修練での神田とのいざこざなんかを、それは楽しく話している。

まるで教団の食堂で話しているみたいに。


(別に、それが嫌ってわけじゃないんだけど・・・)

リナリーは胸のモヤモヤを抱えたまま、ミルクティーの最後の一口を飲み干した。





◆◇◆◇◆




食後、お土産にコーヒー豆とクッキーとチョコレートの詰め合わせをそれぞれ買って、二組は店の前で別れた。

「では17時にな、あまり遅れるなよ?」
「わーってるさ。そっちこそ遅れんなよ」

「じゃあリナリーちゃん、楽しんできてね」

ミランダは優しく微笑むと、リナリーに軽く手を振りマリと共に歩いて行く。
どこへ行くのか相談でもしてるのか、二人の和やかな様子が背中からも見てとれる。

(・・・・)

マリの手にさっきカフェで買った、お土産の白い紙袋が揺れていて。リナリーは、同じのを持つ自分の腕が僅かに重く感じる。
ごく自然にミランダの荷物を持ってあげるのが、とても好ましく見えた。

別にラビに持ってもらいたいわけじゃない。
もし「持とうか?」と言われても、リナリーは自分で持つだろう。

(でも・・・・ちょっとくらい、気遣ってくれたっていいじゃない)

持ってあげようか、の一言があればそれでいいのに。それだけで嬉しいのに。


「そんじゃ、俺らも行こっか」

ラビがリナリーに向き直り、ニカッと笑う。

「・・そうね」
「どこ行く?腹もふくれたから、どっか歩く?」

「・・・・そうね」

「リナリー?どしたんさ、なんか元気なくね?」

いつもと様子の違うリナリーにラビは首を傾げ、顔を覗き込む。
それを拒否するように顔を背け、リナリーはずんずんと歩きだした。

「なになに?どしたんさ、なんかあったん?ちょっと・・リナリー?」
「別に、なんでもないわよ」
「そんなわけねぇじゃん、どっか具合でも悪いのかよ」

「どこも悪くなんかないったら!」

足を止め、リナリーは言う。
自分でもちょっとキツイ口調だと思い反省するが、ちっとも分かってくれないラビの顔に無性に腹が立ち、また顔を背けた。

「ラビって、優しくない」

「は?」
「ちっとも分かってくれないのよ、私のことなんか」

「えっとリナリー、とりあえずなんで怒ってんさ?」

ラビはとりあえずリナリーが怒っているらしい事に気づいたが、身に覚えがない為どうしたらいいか分からない様子である。

「ほら、今だって分かってないじゃない」
「んなの当たり前だろ、突然そんな態度されちゃ普通は分かんねぇって。ちゃんと言ってくんねぇと」

「違うわ、マリなんかミランダのこと分かってるわよ。ううん、分かろうと努力してるわよ」

「なんでここでマリが出てくんさ?それこそ分かんねぇよ」
ムッとして、ラビは腕を組みリナリーを見た。

「だって、マリはいつもミランダのこと大事にしてるものっ。さっきだってさりげなく荷物持ってあげてたし」

「は?荷物持って欲しいならなんでそう言わないんさ、別にそんなんいくらでも持ってやるよ。貸せって」
「そうじゃないのっ、別に荷物持って欲しいわけじゃないの、ちゃんと気づいて欲しいだけなのっ」

「なんだよそれ」

ラビが怒ったようにリナリーから顔を逸らしたのを見て、リナリーは感情の高ぶりから泣きそうになり、その場にしゃがみこんだ。

せっかくの初めてのデートなのに、どうしてこうなっちゃったんだろう。
自分はただ、ラビと楽しく過ごしたかっただけなのに。お洒落してお芝居観てカフェでご飯食べて、普通の恋人達みたいに過ごしたかっただけなのに。

(なのに、ラビったら)

「・・・せっかく頑張ってお洒落してきたのに、全然何にも言ってくれなかったじゃない」

そう言って、ラビを睨むと拗ねたような顔を膝に埋めた。

「お芝居だって半分寝てたし・・あれ私がチケット取ったのよ、二人で見るのすごく楽しみにしてたのに」

ラビが近づいてくるのが分かり、リナリーは顔を埋めたまま鼻をすする。泣き顔を見せたくなかったから、下唇を噛み我慢した。



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