D.gray-man U




なんで、こうなっちゃうんだろう。


リナリーは俯き、泣きたいような気持ちでその場にしゃがみ込む。目の前のラビから拗ねるみたいに目を逸らし、顔を膝に埋めた。


おろしたてのクリーム色のワンピース。
マーガレットの刺繍、袖口と胸元にオーガンジーのレースと小さなリボン、生地はちょっと地厚なコットン。

昨夜磨いた爪はツヤツヤして、形だってヤスリで整えた。
靴は、イノセンスを外すわけにはいかないから我慢するとして、代わりに普段履かない女の子っぽいレース編みのニーソックスなんか履いてみたり。

鏡の前で何時間もファッションショーをしながら決めたコーディネート。
ワクワクしてたまらなくて朝が来るのが待ちきれなくて、すごくすごく、楽しみにしていた。


なのに。



(・・・なんで、こうなっちゃうの?)





◆◇◆◇◆




デートがしたい。

ラビとリナリーは付き合って一ヶ月になる恋人達だが、その関係を周囲に秘密にしているため男女としての進みはかなり遅い。
そもそも二人には難関が多いのだ。コムイもそうだがラビの師匠ブックマンも、ラビがリナリーに接触するのをいい顔をしない。
科学班のメンバーも、リナリーを妹のような気持ちで見ていて、表立って邪魔することは無いが、目を光らせているのは感じていた。


デートがしたい、そう思っていても実際は簡単ではない。二人で外出するのが困難なのだ。
リナリーの外出届は兄のコムイへ直接提出しなければならず、その際『いつ、どこへ、だれと』をハッキリ明記しなければならなかった。

しかし、若い二人はおおっぴらにイチャイチャしたい。誰かの視線を気にせず愛情の交流をしたいのだ。
買い物した後にカフェでお茶をしたり、手を繋いで公園を歩いたり。普段教団では出来ない事をしてみたい。


そんななか思い付いたのが、ダブルデートである。

二人ではなく四人なら、あまり疑われる事もないだろう、というやや単純なものだが、これは意外と功を奏した。


「お芝居を観に行きたいの」
リナリーはそう四枚のチケットをコムイ見せる。

正直玉砕覚悟であったが、共に行くのがマリとミランダの二人であったのが良かったらしい。
とくにマリの信用が高く、リナリーは呆気ないほど簡単にラビとの外出を許される事となったのだ。

「楽しんでおいで」

ニッコリと送り出してくれる兄に、ちょっとだけ後ろめたさを感じながらもリナリーの心は弾んだ。





◆◇◆◇◆




お芝居を観て四人で食事をしたら、別行動。

前もって決めていた通り午前の部の芝居を観終わって、四人は近くのカフェへと入る。
マリとミランダは、若い恋人達を応援するつもりで今回の申し出を受けたのだが、本人達も楽しんでいる様子だ。
芝居の感想や、見えないマリの代わりにミランダが衣装の説明を一生懸命伝えていて、見ていて微笑ましい。

お芝居の最中ずっとウトウトしていたラビが、急に元気になる様子にリナリーは苦笑しながらメニューを見せた。

「ねぇラビ、なに食べる?」

「あー、そうさね・・ん?なんか随分軽いもんばっかしじゃん、肉とかねぇの?」
「んもう、言っとくけどカフェなのよ?大衆食堂じゃないんだから」

「そっか、んじゃ・・えーと、このペスカトーレってのとフライドチキンとポテトにすっかな」

そう言ってメニューをパタンと閉じ、リナリーに渡す。
リナリーはそれを開き、今度は自分の注文を考えていると、ふと目の前のマリとミランダに目が留まった。


「ミランダ、何か食べたいものはあるか?」

マリはメニューをミランダに向けて開きながら、二人で何を食べるか相談している。

「ええと・・どうしましょう。マリさんは何を食べますか?」
「そうだな、少しは腹にたまるものにしないと後が辛いから・・魚貝を使った料理はあるかな」

「魚貝ですね・・ええと・・あっ、シーフードのドリアやピザがありますっ」
メニューを握りしめ、役に立つのが嬉しくてたまらない風にミランダが言うと、マリは頷きながら、

「じゃあ、私はシーフードのドリアにしよう。ミランダは腹は減っていないのか?」
「私は・・そうですね、グラタンが食べたいんですけど・・キノコとエビのかチキンとポテトので迷ってしまって」

「グラタンか、それも美味そうだな。二つ頼んだらどうだ?」
「そんな・・もったいないです。食べ切れませんし・・」

困ったように眉を八の字にするミランダに、マリはとびきり優しく微笑んで、

「では、私がキノコとエビのグラタンを頼むから、ミランダはチキンとポテトを頼めばいい。二人で半分ずつ食べれば一石二鳥だろう?」

「えっ?でもマリさんはドリアを・・」
「グラタンの話をしていたら、無性に食べたくなってしまったんだ。駄目だろうか」

ミランダの頬が赤く染まり、恥じらいながらも嬉しげに微笑む。
そんな二人の様子を見ながら、リナリーはちらと隣のラビに目をやった。パラパラとさっき観た芝居のパンフレットを読んでいる。

(もうちょっと、色々話ながら決めてもよかったな・・)

何を食べるか二人で相談して決めている様子を、ちょっと羨ましく思いながら、リナリーはメニューを見た。


「ラビとリナリーは決まったか?」
「えっ、あ・・ちょっと待って」

まだ決めてなくて、どうしようかと迷っているが、ラビはマリみたいに助け船を出すことはなく、パンフレットを読み続けていた。

「クラブハウスサンドイッチと、ミルクティーにしようかな。ラビは飲み物はいいの?」
「んー?別にいいや」

「・・そう」

あっさり返事をされ、リナリーは物足りなさを感じながらメニューを閉じる。
芝居の最中は眠そうで、観てるんだか観てないんだが分からなかったラビだが、パンフレットは何故かじっくりと目を通していて。リナリーは不審そうに首を傾げた。

「ずいぶん読み込んでるけど、さっきのお芝居気に入ったの?」

「んにゃ、そうじゃなくって広告見てんさ」
「・・・広告?」

ほら、とパンフレットの後ろにズラッと並んだ協賛会社を指差した。

「なんでこんなの見てるのよ」
「さっきの芝居、衣装とかセットとかエライ凝ってたろ?だからスポンサーも、景気いいとこなのかと思って」

ラビは面白そうに、書いてある会社を指でさしながら、

「そしたら、ここの会社とここの会社は資本はドイツで、両方とも軍の仕事を請け負ってるとこなんよ」

「・・ふうん」
「景気良さそうなとこみると、近いうちにドイツでまーた何かあるかもしれねぇな」

「・・・・・」

なにそれ。

リナリーは口を軽く尖らす。初めて一緒に観たお芝居の感想がそれなのかと。
もっとストーリーとか音楽とか色々あるだろうに、どうしてここまで来てきな臭い話をしなければならないのか。

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