D.gray-man U





「なんですか?」
「随分と、あなたらしくなくお優しいこと。どういう意味か知りたいですわ?」
「わたしも同じだ、性格の曲がったお前らしくないではないか。どういう魂胆だ・・まさか」

テワクに続きリンクが意味ありげに聞いてくる。何の事か分からず眉をひそめて首を傾げた。
我慢できなかったのか、リンクはミランダの背後から手を伸ばしてトクサの首元を掴みグイッと引き寄せる。急な行動にトクサが文句を言う前に耳打ちされた言葉の方が先であった。

「おまえ・・まさか、おまえもなのか?」
「?」
「トクサ・・おまえも、ミス・ミランダを?」

「は!?」

ギョッとしてリンクを見る。みなまで言わずとも分かる、この男の表情を見れば何を言わんとしているのか。
自分と同じように彼女に恋をしているのかと聞きたいのだろう、真剣な顔の中に戸惑いがのぞいていてトクサは顔が引き攣った。
そんな疑いをかけられた事よりも、かつてのライバルが恋によってここまで落ちぶれたかと、怒りと落胆がわき上がった。どうかしている、昔のハワード・リンクはこんな男ではなかった。

「がっかりですよ、ハワード・・まさかここまで落ちてしまったとは」

「どういう意味だ」

首元にあったリンクの手を振り解き、呆れたようにため息をつく。隣のミランダがキョトンとした顔でトクサを見る、その何も知らない顔に苛立ちを覚えた。
手で前髪を撫でつけ、口元を歪ませると蔑むようにリンクを見る。

「申し訳ありませんが、わたしはあなたと違って横恋慕などという不埒な行為は趣味ではありませんので」
「横恋慕だと?」
「ご存知ないんだとしたら・・ハワード、あなたはとんだ道化ですよ」

「トクサ、やめろ」

キレドリの冷静な声がして、トクサは口元に笑みを浮べたままそれ以上は言わなかった。
道化、といわれたリンクは納得いかない様子で2人を睨んだが、隣に居るミランダが驚いているのに気づき、何も言わずにチョコレートケーキを口に運ぶ。
ミランダは突然の不穏な空気に戸惑い、あぶなげな手付きでフォークに麺を絡ませている。そんな彼女をさっきからじぃっと見ていたマダラオは、ここにきてようやく口を開いた。


「で、実際はどうなのだ」

「・・・・えっ?」

自分に話しかけられているとは思わなかったが、視線がこちらを向いているのに気づきミランダは驚いて目を見開く。

「ハワードにチャンスはあるのか?」
「チャンス・・・え?あの、それは・・?」

「兄様?なにを・・」

テーブルに肘をつき指を口元の前で組み、真顔でミランダを見つめる彼に、妹だけでなく他の仲間も顔を引き攣らせる。

「だから、ハワードと恋人にな・・」
「マ、マダラオオオッ!!」

咄嗟にリンクは椅子から立ち上がり、真っ赤な顔でマダラオを睨みつけた。突然のことに心臓がバクンバクンと飛び跳ねる。

「お、おまえは何を急に言い出すのだっ!」
「?だめなのか?」
「ダメとか言う以前にデリカシーが欠けているのだ、なんなのだいったい」

「・・・・さすがに直接的すぎますわ、兄様」

妹の言葉に怪訝な表情を浮かべた彼は、もう一度ミランダを見る。彼女は目をパチパチとしながら、なんのことか理解できていない様子であった。

「あの・・ハワードさんがどうかしたんですか?」
「い、いえいえミス・ミランダ、なんでもありません。気にしないでください」
「え?でも・・」

「はっきり言ったらいいじゃありませんか、『好きだ』って」
「トットトトトクサッ!」

ドン!とテーブルを叩き、再び立ち上がりトクサを睨んだ。当の本人は涼しい顔でコーヒーを飲んでいる。
ミランダの反応が気になり恐る恐る視線を向けると、目をまん丸にしてこちらを見ていて。リンクは全身の血が沸騰しそうなほど熱くなるのを感じた。
くらくらと目眩がして、ミランダから目を逸らそうにも逸らせず、問いかけるような彼女の視線が自分を捉えているのに、不思議と気分が高揚した。

「ハワードさん・・」
「ミス・ミランダ、その・・わたしは」

こんなふうに自分の気持を知られるつもりはなかった、本当はもっとシチュエーションを考えていたのに。

「あの・・ごめんなさい、私ったら全然気がつかなくって」
「い、いえ。こ、こちらこそ・・急にこんな話に・・戸惑われたことと思います」
「そんな、ハワードさんの気持も考えずに・・あの、今からでもよければ・・」

そういっておもむろにカルボナーラスパゲッティの皿を差し出したミランダに、リンクだけでなくその場のサード全員が固まった。
これはいったいどういうことだ、とお互い視線を行き来させ、食べかけの皿と申し訳なさそうなミランダを交互に見やった後、彼女の思考が違う方向に走っていったのだと悟る。
アレンだけはおでんの煮汁を飲みながら、そっちにいきましたか、と独り言を呟くだけでとくに動じた様子はなかった。

「あの・・そうじゃないと思いますわ」

「え?」
「ですから、ハワードが好きなのはこのスパゲッティでは」
「い、いいのだ、テワク」

テワクの言葉を遮り、リンクは差し出された皿を取ると「ではお言葉に甘えて」とフォークに麺を巻く。力が抜け、けれどどこかホッとしたようにも見えるその姿は物悲しくもみえる。

どこをどう勘違いしてここに行き着いたのかは疑問だが、これでよかったのだ。リンクは卵とクリームがよく絡んだパスタ麺を口に運ぶ。
考えたらこれは彼女との間接キスでもある、凄いことではないか。フォークは違うが同じ皿の物を食す、たとえそれが元はアレンが食べていたものだったとしても、だ。

スパゲッティを食べるリンクの横顔をやや同情的に見ながら、トクサはふとこの頭の緩い彼女が本当に誰かと恋人同士なのだろうかと疑問を覚える。
目撃証言だけではイマイチ信用できない、とにかく思考のネジが2,3本抜けているようだから。

「使徒さま、ひとつお聞きしてもよろしいですか?」

「?はい、なんでしょうか」
「今朝、黄山とレフカスの部隊の見送りにいらしたようですね」
「ええ、マリさんにお話することがあったので・・あの、どうしてそれを・・?」

マリ、という名前にリンクが弾かれたようにミランダを見る。
初耳だったのだろう、飲み込み忘れたパスタで頬を膨らませたまま、その顔には『どういうことだ』の文字が浮き出ていた。

「かなり長く、そのノイズ・マリとお話されていたようですが。差し支えなければいったいどんな話を?」
「えっ?で、でも・・」
「何かこの場では言いづらいことでもあるのですか?」

さりげなさを装いつつ問い詰める。ミランダは困ったように視線を泳がせ「え・・ええと、困ったわ」と呟きながら頬を染めた。
どう見てもその様子は色恋絡みに見えるので、やはり恋人同士なのかとトクサはひそかに胸を撫で下ろした。リンクの動揺はさておき。

「言っていいのかしら・・あの、実はマリさんに元気になってもらいたくて。なんだか悩んでいる様子だったものだから」

「え?あのマリがですか?」
アレンが思わず会話に入る、昨日マリと会ったがそんな素振りは全く見えなかったので。

「ええそうみたいなの、ハッキリとは言ってくれないんだけど・・どうも誰かに何かを取られたらしいの」
「取られた?何をですか?」
「さあ・・ただ『気づかぬうちに引かれていたんだ』って言っていたから、たぶんそう大きな物じゃないと思うのよ。引くっていうくらいだから・・お財布かしら」

「引かれて?」

口元に指を宛て真剣な表情のミランダを見ながら、アレンだけでなくリンクほかサード全員が心の中で突っ込みを入れる。



引かれて、じゃなく『惹かれて』の間違いだろう・・・・と。



「ちなみに・・ミランダさんはマリに何て言ったんですか?」
「お役に立てるか分かりませんが、一緒に探してみます・・って言ったんだけど『また今度でいい』って。でもいつもお世話になっているし、今朝もう一度言ってみたけど・・駄目みたいで」

「・・そ・・・そうですか」

気づかぬうちに惹かれていたんだ、とマリからミランダへの告白だったのだろう。それをどうして盗難被害にあったと思うのだろう、確かに気持は盗まれているのかもしれないが・・いや、そういうことではない。
告白したマリの気持を思うとアレンは、切なくやるせない思いに冷たくなったフライドポテトを口に放り込み噛み締める。リンクもまた同様で、ベーコンの塩味がいつもよりキツク感じた。

全員が同じ感想を持っているなか、

「鈍いな」

そう呟いたマダラオは相変わらず空気の読めない男であったが、誰もそれに突っ込むことはなかったのだった。







END

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