D.gray-man U





馬鹿じゃなかろうか。

思わず言葉がこぼれそうになったが、飲み込んだ。
自分の立場を分かっているのだろうか、エクソシストとは教皇の威信の象徴・ローズクロスを掲げた存在。特別な存在であるというのに。
たかがオムレツ一つ作り直してもらうのも躊躇うなど。その存在を、立場の有難みも全く理解していないではないか。

「あなたはご自分の立場を分かっておられるのか」

「え・・」
「この教団で、あなたのお役目はなんですか。仰ってください」
「それは、あの・・エクソシストとして戦うこと・・です」

おどおどと答えるミランダに、トクサはフンと軽く鼻で笑って。

「戦う、随分と簡単にお答えになられましたが・・その気概は口先だけのようですね」
「そ、そんなことは」
「満足に栄養も摂ろうとせず、どの口がそう言われるのか。イザと言うときにその細い体で何を守れると?」

「あ・・それは・・」

顔が赤く染まり、ミランダの目が潤む。隣で見ていたリンクは我慢ならないといった風にミランダ越しにトクサを睨みつけて。

「おいトクサ、何を絡んでいるのだ。嫌味な物言いをする奴だな、性格の悪さが言葉の端々に滲み出ている」
「別に当たり前のことを申したまで。神に選ばれ使徒になった方が、たかだかオムレツ一つも注文できないとは笑い話にもならない」
「その言い方が気に食わんのだ。もっと違う言い方ができるだろうに、昔から貴様はわざと辛らつな言葉で人を責めあげつらう奴だった」

「・・あのハワードさん、大丈夫ですから。その、言われたとおりですし」

なんとか泣くまいと顔を強張らせながら、リンクの腕を押さえるように手を置く。その健気な表情にも胸打たれたが何より触れられた事に、リンクの心臓は激しく鳴った。
じわじわと顔が熱くなり、何を言うべきか分からなくなる。相変わらずトクサの表情には苛立ちを覚えるものの、完全に気勢がそがれて口をつぐむ。

「トクサの言うとおりだと思いますわ、私も」

斜め向かいから刺すような言葉を放ったのは、テワク。

「なんだというのだ、お前まで」
「なんですの?別にハワードに話しているんじゃありませんわ」

ツン、とそっぽを向き視線はミランダへと向ける。手元の紅茶を一口飲み、ソーサーへ置くともったいぶった口調で話し始める。
ミランダは目の前の美少女が厳かな様子でこちらを真っ直ぐ見るので、緊張した面持ちでそれに応えた。

「先ほど転倒された時から思ってましたけれど、頭を下げるのは少し控えられた方がよろしいと思いますわ」
「は、はい」
「あれではあなただけでなく他の使徒の威厳にも係わってまいります。エクソシスト、という立場はそれだけで特別なんです。私が言ってること、お分かりになりまして?」

「・・はい」

しょんぼりとした顔でうなだれるミランダに、「どうぞ」とアレンが自身のカルボナーラをそっと差し出す。
彼はトクサが彼女に絡んでるあたりで何か行動しようか思っていたものの、先にリンクが噛み付いたのですっかり出遅れてしまったのだ。テワクに関しては女同士の会話に男が入ってはならないという紳士としての嗜みからである。

「ミランダさんカルボナーラ食べれます?いっぱいあるんで一緒に食べましょう」
「アレンくん・・」
「おでんとカルボナーラってちょっと食べ合わせ悪かったみたいで、ちょっと食べてくれると助かるんで・・ダメですか?」

「そんなわけないわ、ありがとう」

硬くなった頬の筋肉が柔らいで、嬉しそうにふわりと笑う。その表情が自分を通り越してアレンに向けられているのを、「どの口が『食べ合わせ』など・・」とリンクは悔しそうに呟いた。
普段バナナを食べながら納豆も食し「このネバネバが癖になるんですよ」などとのたまう悪食が、何を言うのか。

リンクは咳払いをし、自分のトレイの上にあるチーズケーキを手に取る、ミランダに差し出すつもりで。しかし彼女はちょうど体を逆のトクサへと向けてしまっていた。

「あの、あ、ありがとうございます」
「?」
「その通りだと思います、私・・言われないときっと気づくことも無かったと思うんです。だから・・」

申し訳なさそうに、けれどその瞳は先ほど同様にこちらの善意を微塵も疑っていないのが分かる。またも奇妙な居心地の悪さをトクサは感じた。
つづいてテワクにも同じ視線を向けたが、テワクは目を合わせることはせずプイとそっぽを向いたまま紅茶を飲み干していた。


ミランダはアレンから貰ったカルボナーラにフォークを入れ、くるくると回転させるが不器用なのかつるつると滑っている。本人は気にするふうでも無いが、トクサは気になっていた。
フォークを回転させなければならないのに、手首を回転させている。それでは麺を掻き混ぜているだけではないか。
気にしないようにしつつも目は彼女の手元に吸い寄せられてしまう、トクサは基本的にこういったお行儀のよくない行為には目をつむっていられない性質なのだ。

「使徒さまは、パスタを食べるのが苦手なんですか?」

「え・・あ、ええと・・はい。というかこういう麺の料理って、今まで住んでいた場所には無かったので・・」
「だからといってその手つきではお里が知れますね、スプーンをお使いになってはいかがですか。スプーンの上で麺を巻き付ければ練習にもなりますから」
「まあ、そうなんですか。ありがとうございます」

「言っておきますが、スプーンを使うのは子供の食べ方です。あくまで練習としてです」

ふわっと嬉しそうに微笑む、その表情に戸惑いそっけない物言いになってしまう。ふとミランダ越しに強い視線を感じる、リンクだ。彼は手にチーズケーキを持ったままトクサをじぃっと見ている。
その探るような問いかけるような視線を怪訝に思いつつも、似たような視線を感じて見るとテワクも同じようにこちらを見ていた。



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