D.gray-man U






全員が話を聞かれていたらしい事に、気まずくなり黙り込む。

「な、なんでしょうか」
「うん、実は君達の事でミランダから相談を受けてね」
「えっ・・・」

一斉にミランダを見るので、当人は困ったように後ずさった。
ティエドールはそれを護るようにミランダを手で庇う。

「ミランダはね、君達が争うのは自分のせいではないかと悩んでいたんだ・・自分が悪いんだとね」
「そんな、違いますよ!ミランダさんっ」
「また下らねぇこと考えてんのか、馬鹿かおまえは」
「なんて言い方するんですか、ミランダさん気にしないで下さいね?どうみても馬鹿は神田ですから」
「あ?何だとコラ」
「誰が見ても同意見でしょう、バ神田ですし」
「こら、おまえら!いいから離れてろっ」

マリが睨み合うアレンと神田を引き離すと、ミランダへ顔を向けて。

「すまないミランダ・・しかし、あなたのせいではないんだ。何か誤解させたのなら申し訳なかった」
「い、いえ・・マリさん、あの・・」

ミランダは頭を下げるマリを気遣うように、首をぶんぶんと振る。オホン、と咳ばらいが聞こえるとリンクがそんなマリの前に立ちはだかり、

「卑怯です、ノイズ=マリ」
「?・・何がだ」
「そうやって周りを踏み台にして、あなたはいつも他人より一歩前に出る」
「どういう意味だ、わたしは・・」
「今もウォーカー達を踏み台にして、自分をアピールしていたじゃありませんか?」
「馬鹿らしい」

リンクの嫌味な言い方に、マリは不愉快そうにため息をつく。何か言ってやろうかと思ったが、師匠やミランダの前なので我慢した。

「そこまでだよ」

パンパン、とティエドールが争いを締めるように手を叩く。全員がハッとしたようにミランダを見ると、彼女は泣きそうな顔で四人を見ていた。

「君達は・・ミランダが好きなんだね?違うかい?」
「・・・・・」
「そして、皆でミランダを奪い合っているんじゃないかい?」
「・・・・それは」
「違う?」

問い掛けられた全員が、それを肯定するように無言で俯き。やがてマリが重い口を開くように、掠れた声で答えた。


「・・・・・・違いません」


しん、と静まり返ったまま誰も口を開く事なく、ミランダの鼻を啜る音だけが聞こえた。
ティエドールは「なるほどね」と呟き、考えるように口髭を撫でると。

「ミランダは、君達四人に仲良くしてもらいたいんだ。そうだよね?ミランダ」
「は、はい」
「でも・・この状況じゃ難しそうだねぇ」

どうしようかねぇ、と悩むように呟きながら四人を交互に眺めて、最後にくるりと振り返りミランダを見た。

「ねぇミランダ、皆にチャンスをあげてはどうだろうか?」
「?・・チャンス?」
「そうだよ、仲良くなるチャンス」

にっこりと笑うと、ティエドールは四人を向きやや厳しい口調で言う。

「君達四人。しばらくの間、ミランダと接するのは禁止」
「えっ!?」
「ど、どうしてですかっ!?」
「四人が仲良しになって、喧嘩しなくなる迄の間・・ミランダとは離れていなさい」

眼鏡をキランと光らせ腕を組む様子は、戦場での厳しい元帥。いつもの柔和なティエドールではない。
その場にいる全員がゴクリと生唾を飲み込む。

「ミランダの事が好きなら、できるだろう?」
「でも元帥・・そうは言っても、ルールを守らない人間もいますよ」

アレンがちらと神田を見る。

「そりゃテメェだろうがよ、イカサマ野郎が」
「こら、神田」

神田を注意するマリを、リンクは疑わしげに見て。

「ウォーカーのイカサマはわたしが見張りますが、ノイズ=マリあなたの耳の良さは心配ですね」
「どういう意味だ」
「まわりを出し抜くには持ってこいの能力じゃないですか」
「こらこら」

またも険しくなる空気に、ティエドールはパンと手を叩きその場を収める。

「大丈夫だよ、誰も近づけないよう僕がミランダの側にいるから」
「師匠・・」
「だからいいかい?喧嘩はしちゃダメだよ?仲間なんだから」
「・・ティエドール元帥」

ここまで親身になってくれるティエドールに、四人は何も言えなくなる。ミランダも感激した様子で、ハンカチで涙を拭っていた。

「師匠・・すみませんでした」
「いや、いいんだ。皆が仲良くしてくれるのが1番だから」

言いながら首を振り、ティエドールは後ろのミランダを見る。

「さ、ミランダ行こうか・・おやおや大きな瞳から涙が溢れてるよ、おいで拭いてあげよう」
「あ、ありがとうございます」

ミランダは恥ずかしそうに微笑み、ティエドールがハンカチで涙を拭ってやる。
その手を彼女の背中へ移し、支えるようにして階段を上った。

その後ろ姿を見ながら、四人は自己中心的な自分達に反省と後悔を感じ、お互い顔を見合わせる。1番大切なものを悲しませて、いいはずが無かった。


(もう、ミランダを泣かせないようにしないとな)

(そうだよ、ミランダさんの幸せが1番なんじゃないか)

(・・仕方ねぇな)

(確かに・・大人げなかったかもしれません)


各々が心の中で反省会を開いている間に、二人は階段を上りきり談話室へ歩いて行くのが見えた。
それを見送る自分達の前で、ティエドールは一瞬だが四人を振り返り、笑った。

「え」
「・・・・ん?」
「・・・・・おい」
「まさか」

思わず目を擦る。信じられない光景に、全員の時が止まった。
それは確信犯といった微笑み。あれは間違いなく勝者のもの。

勝ち誇った、と形容するのが相応しい笑み。


「「!!!!!!」」」



気づいた時は、時既に遅し。

衝撃に全員の体に強い電流が走る。


やられた、してやられた。こんな所に新たな強敵がいようとは思いもよらなかった。
アッサリと目の前でミランダを奪われただけでなく、全員がしばらく彼女に近づく事も許されない。

「まさか・・・ティエドール元帥も・・?」

リンクがガクンと崩れ落ち、膝が地面を打った。

「こんな・・嘘だ、信じられない」
「し、師匠が・・?」
「嵌めやがったな・・あのジジィ」

アレンは頭を押さえうずくまり、マリは眩暈からよろめき背中を打つ、神田は吐き気がするのか口を押さえた。


「だから・・あのジジィは嫌いなんだっ!」


吐き捨てるように言った神田だが、隣で聞いていたマリもさすがにそれを諌める気持ちにはなれなかった。
今回ばかりは神田の気持ちが分かる・・しかしそれだけではない。

その声は、まるで喧嘩に負けた犬の遠吠えを思い起こされたからだった。














◆◇◆◇◆



(15時か)

ふああ、と欠伸をしながらラビは食堂へと向かっていた。
朝食を食べそこなった後、まだ疲れた体は休息を求めていて。結局この時間になるまでラビは布団の中にいたのだ。

さすがに空腹でこれ以上は布団にいられない、まだぼんやりする頭を叩きながらラビは食堂へ向かう。

(お?)

時間帯から空いた食堂の中、すぐに目に留まる一団がいる。首を傾げながら眉を寄せて彼らを見る。おかしい、何か妙だ。
彼らは今朝、ラビの目の前でミランダを争っていた例の四人。アレンとリンク、マリと神田である。
朝の様子ではかなり険悪な様子だったのに、どうしたのだろう今は四人仲良く、ケーキを食べているではないか。

(・・・なにあれ)

どうも信じられず、疑わしげな視線でまじまじと見る。あの四人が仲良く・・というのはおかしい。
何か裏があるはずだ、きっと。多分。

ラビは柱に隠れるように近づいて行くが、偶然耳に入った単語に足を止めた。

(え)

ぼそぼそした声に紛れ、『ノコギリ』や『夜』『油』などと聞こえる。
何の事かは分からないが、近づいた四人のオーラの禍禍しさに、ラビは顔から血の気が引くのを感じた。

(ひ、ひぃぃぃっ・・!?)

何か分からないが凄く怖い。

ノコギリって何?油?しかもなんで皆んな俯き加減で話してんの!?
危険だ、とにかく危険だ。なんだかとてつもない嫌な予感がする。これは久しぶりに感じる死の匂い。
昔、神田を「ユーくん」とからかい抜刀された時以来の恐怖感がラビを襲う。


「・・ラビ、何やってんですか?」


「!!」

ビクーン!と体が跳ねる。よりによってアレンに見つかってしまった。
死んだ魚のような目で笑うアレンを見ると、ラビは無意識の内に全力で走り出していた。



何があったのか知らないし、知りたくもない。

とにかく逃げよう、逃げるんだ。ラビは一心にそれを思い足を走らせるのだった。









End

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