D.gray-man U





今度は上半身裸で馬乗りになっているテワクは、硬直しているリンクの額にキスを浴びせる。繰り返し。

「おっ、おまえは!なにをっ、またっ!ふっ、服はどうした?着たんじゃないのかっ!」

「子供じゃないんです、嘘の一つもつきますわ」
「だからいい加減に・・んぐっ!?」

またも唇を塞がれる、けれどさっきの押し付けるようなキスと違い、今度は柔らかく甘く。
ぺろと下唇を舐められて、まるで猫のようだと思う。ドキドキして止まらない。頭の芯が痺れてぼうっとしてしまう。
両頬に添えられた手が微かに震えている。胸に感じる重たさが狂おしい、リンクの頭の中で警告のサイレンが鳴った。ダメだ、危険だ、と。


シーツを握り締めていないと、テワクを抱きしめてしまいそうだった。


「ん・・っ」

ちゅ、と離された唇はつややかで。見てはいけないような気分になりリンクは目を逸らす。気まずかった。

「・・・抵抗なさらないの?」
「なにがしたいのだ・・こんな真似をして」

そっけなく言うが、かすれた声は誤魔化せなかった。
テワクは下唇を軽く噛み、何かを言いたげに視線だけをリンクに向けていたが、ふいとそれを逸らし、拗ねたように呟く。

「したいんじゃありませんわ、して・・欲しいんです」

伏せた睫毛が影を落とす、白い頬をばら色に染めて。それは本当に綺麗だった。

「テワク・・」

どうかしてしまいそうになる。鼓動が速まって苦しい。
そうして、まるで何かに誘われるようにリンクはテワクの頬に唇をよせていた。

「ハワード?」

目を見開き、何かを期待するような瞳でリンクを見つめる。それに応えてしまいたくなる、なんなのだこの感情は。

「そ・・そういうことは、婦女子がみだりに口にしてはならん。あらぬ誤解を生じることもあるからな・・うん」

「・・・・」
「とにかく、服を・・服を着るんだ。このままでは話もできない」

赤い顔で咳払いをしながら、テワクから顔を背ける。いろいろと精一杯で倒れそうだ。こんなに疲れたのは久し振りだ。
半裸の少女に押し倒されたのもキスされたのは、リンクの人生では初めての経験だった。理性を保つのがこれほど難しいことだと実感したのも。

(なんだか3年ぶんくらいは年を取った気がする)

テワクの力が弱まったすきに起き上がり、ベッドへと腰掛けると背中を丸めため息をつく。背後からシャツをくいっと引っ張られ、振り返ることなく「なんだ」と慎重に返事した。

「今のキスは、どういう意味なんですの?」
「・・・・ん?」
「ですから、どういう意図があったのかと」
「ど、どういう?・・・・それは・・」

自分でも分からないのに、人に説明出来る筈がない。あの瞬間、酒に酔ったように頭がぼんやりとして、無性にそうしたくて堪らなかった。
ただ触れてみたかった、それだけだ。しかしそんな理由を言えるわけがない。

「し・・・親愛の情だ」

言ってからきまりが悪くて顔が熱くなる、そんな訳はないのに。下心とでも言った方が良かったか、いやそれの方がどうかと思う。
背後からくす、と笑みが聞こえた。さらに居た堪れない気持ちになりながら、リンクは俯く。

両脇からすうと細い手が伸びてきたのに気づく。それを拒絶することも出来ず、背後から抱きしめられた。

「本当の愛は・・唇ですわよ?」
「・・・だ、だからそういう話はだな・・」
「さきに親愛を出したのはあなたです」
「・・・・・」

背中に感じる体温が温かい、細い腕がぎゅうとリンクを抱きしめる。その手を解かねば、思いつつもリンクは実行できなかった。
混乱していた、自分の気持ちが分からなかった。流されてしまいそうになる、この空気に。

テワクにあらぬ想いを抱いていると、思ってしまいそうで。

「・・・い、いいから早く服を着るんだ。そ、そうだ、ほらマダラオの用事があったんだろう?」
「あ、そうでしたわ」

はた、と気づいたようにテワクの手が放れる。それにホッとしつつも名残惜しい思いになるのは、気のせいだ。

「次の任務の件であなたにお話があるので、アレン=ウォーカーと二人呼んできて欲しいと・・」
「なに?わたし達に用だったのか?」
「ええ、そうですわ」

その詳細を聞くより早く、廊下から聞きなれた声がして。
ガチャリとドアノブが回される。ノックもせずに無遠慮に入ってくる人物は一人しかいない。この部屋のもう一人の住人だ。

リンクがハッとして扉の鍵が掛かっていないことに気づいた時、事態は既に遅しだった。


「リンクー?ここですかぁ?・・・・・・・あ」


白髪の少年は、ベッドの上にいる男ともう一人の半裸の少女に顔を強張らせる。同じくリンクも顔を強張らせ立ち上がった。
「これは失礼」と慌てて部屋から出て行こうとするアレンの肩をがしりと掴み、ぶんぶんと首を振る。

「ちっ!ちちちち違うっ・・」

「だ・・大丈夫ですよリンク、僕こういうの師匠で慣れてますから」
「だからそうではなくて、誤解なんだ!」
「分かってますから、みんなには内緒にしときますから。口はそれなりに堅い方なんで安心してください」

ドアの向こうへと行こうとするアレンを必死で引き止める。冗談ではない、昼日中から婦女子を部屋に連れ込んだなどと思われるのは心外である。

「違うのだ、そういうことは・・」

「なにが違うんですの?」

背後から不機嫌そうな声がして振り返る。テワクはあからさまに否定するリンクに怒っている様子だ。脱いだ装束を胸元にあててベッドの上から睨んでいる。

「キス、されましたわ。あなたから」
「なっ・・・!?」
「否定できて?」
「・・・っ、そ、それは」

かああ、と全身が赤くなる。否定できない、確かに自分からテワクの頬に唇を寄せたのは事実だから。このやり取りにアレンの口元がにやと緩んでいる。腹立たしい。

「それじゃ僕は失礼して・・」
「ちょっと待てウォーカー!だから違うと」
「なんですか、往生際が悪いですよリンク。女の子に恥をかかせるなんて最低です、キスしたんでしょう?」

「そっ・・・・」

うろたえ、目が泳ぐ。ちょうどその時ドアの向こう側にアレン以外の人影が見えて、それが誰か分かるとリンクの全身から血の気が引いた。



「・・・・・キス・・?」


表情を見せないその顔に怪訝な色を浮かべて立っていたのは、妹を捜しにここまで来た、マダラオで。

その瞬間リンクは、3年どころか10年分の疲労を覚悟したのだった。










END

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