D.gray-man U


認めません



爽やかな朝のはじまりは、やはり美味しい朝食である。

教団に来る前は基本的に苦しい生活をすることが多かったアレンは、現在の自分の状況をやはり恵まれていると思っていた。
もちろんいろいろと頭を悩ますこともあるし、体も酷使するエクソシストという立場もあるから一概には言えないが、基本的な生活は以前よりずっと安定していると思う。
なにしろ昔は師匠の借金のせいで逃げ回る日々、食うや食わずはもちろん。借金取りに追いかけられ家にも帰れず、近所の軒下で一夜を過ごすことも少なくなかった。

それが今は、任務のない日は暖かい布団で眠れるし食事なんてどれだけ食べても文句を言われない。
リンクという面倒臭い監視はついているが、これも考えようによっては専属のパティシエだと思えば全く苦にならない。

しかし一番、アレンが教団に来たことを感謝するのは・・。


「ミランダさん、おはようございます」
「まあアレンくん、ハワードさん。おはよう、よく眠れた?」
「ええもうグッスリと。ミランダさんは・・あれ?また隈ができてますよ、さてはまた夜更かしですか?いけませんよ美容の大敵です」
「そうよね、分かってるんだけど・・つい本を読んでいるうちに・・だめねホントに私ったら」

しょんぼりする彼女に優しく微笑みながら、アレンはしみじみとミランダと二人でいる幸せを噛み締める。

年が10も違うのに、それを感じさせない頼りない様子のミランダをアレンは姉のようにも妹のようにも感じ、愛しく思っていた。
なにより、沢山の男がいる教団で彼女がホッとしたような和らいだ表情を見せるのは自分だけだ。いつもおどおどして不安そうな顔をするミランダは、アレンを見つけると親を見つけた子犬のように駆け寄ってくる。
教団に来て環境の変化から、どんどんキレイになってくる彼女を気にしてる男達がいるのを知っているが、当の彼女は未だ男性自体が苦手なようで他の男には緊張した面持ちになっている。
それをアレンは満足していたし、あのふんわりとした笑顔に癒され、それを独占する優越感にも浸っていた。

「ミランダさん、一緒に朝食はどうですか?」
「あ、ごめんなさい・・もうすませてしまったのよ」
「そうなんですか?今日は早いんですね」
「え?あ、そ、そうかしら・・そんなことは・・」
「?」

なぜか動揺したミランダを不審に思いつつ、アレンは彼女の服がいつも着ている黒っぽいドレスではなく修練の時に着るカットソーとパンツであるのに気づいた。

「ねえミランダさん、もしかして今朝は修練場に行っていたんですか?」
「まあアレンくん、どうして分かったの?そうなのよ、ほら私ったら体力がないものだから今朝からトレーニングを始めたの」

「へぇ・・そうなんですか」

胸の前でこぶしを握って、やる気を見せるミランダに微笑みながらアレンの頭は別のことを考えていた。

「ちなみにそのトレーニングって・・・誰かと一緒だったりしませんか?」
「えっ!」
「やっぱり。まさか神田とか言わないですよね?」
「ち、ちがうわ・・あ、でも神田くんも一緒ではあるんだけど・・」

言いながら、ミランダの頬が薄く染まる。なんとなく嫌な予感を覚えながら、アレンは予想する人物の名前を口にする。

「じゃあ、マリですか?」
「あ・・ええと。そうなの、体力に自信が無いって言ったらトレーニングに付き合ってくれるって・・・優しい人よね、マリさんて」

その瞳に微かではあるが見慣れない熱を感じる。アレンにも見せたことのない「女」の目だ。
ふと、昔師匠が連れてきた女達がこういう目をしていたと思い出す。それはとても不快な気分であった。

アレンはにっこりと天使のような笑顔を作り、優しくミランダの手をとると、

「じゃあ僕もお手伝いしますよ、明日の朝お付き合いしてもいいですか?」
「え?そんな・・悪いわ、アレンくんにまで・・」
「全然苦にならないですよ、それに僕も最近体がなまってるんで。あ、でもミランダさんのお邪魔になるんなら・・」
「まさか!そんなわけないでしょう?アレンくんと一緒なら私も頑張れそうな気がするし、なにより嬉しいわ」

ぎゅっと手を握り返してくれるミランダに「よかった」と笑いかける。彼女は姉が弟にするみたいに握った手を優しくさすると、相槌をうつように微笑んだ。

「じゃあ明日の朝、僕迎えに行きますね」
「あら、それなら私が行くわ。多分アレンくんより早起きだと思うから」

イタズラっぽく言う彼女に「まいったな」と照れたふうにアレンが言うと、ミランダはクスクスと笑い「でしょう?」と畳み掛ける。

「分かりました、じゃあ明日の朝待ってますね」
「ええ。必ず迎えに行くわ」

そう言うと、ミランダはその場から去ろうと目の前の階段に目を向けたので、アレンは握っている手を少しだけ強める。

「ねえミランダさん」
「?なあに?」

「ミランダさんは、年下ってどう思います?」

「え?」

キョトンとした顔でアレンを見る。質問の意図が分からないというように。

「恋愛するのに年の差って関係あるのかなって、思うんですけど。どう思います?」
「どうしたの?アレンくん、急に」
「いえ後学のために聞いておこうかと思って、ミランダさんは年の離れた男女が恋人同士になるのってどう思います?」
「そ、そうねぇ・・」

ミランダは口元に手を宛て考えるように眉根を寄せる、アレンからの問いに真剣に考えているようだ。やがて答えが出たのかスッキリした表情で。

「本人たちが幸せなら、いいと思うわ」

「そうですか、良かった」
「?こんな答えでよかったのかしら」
「ええ、充分ですよ。ありがとうございます」

アレンも満足した様子でミランダからの手を放す。相手が望む答えが出たのが嬉しかったのかミランダも満足げに笑い「じゃあね」と機嫌よく階段を上っていった。










「どういうことだ、あれは」

しばらくして、ずっと後ろで二人のやり取りを観察していたリンクが口を開く。

「なにが?」
「君・・・いつからミス・ミランダにそういう感情を持っていたんですか?」
「そういう感情って、どういう意味ですか?僕はいつでもミランダさんが大好きですよ」

大真面目に言うアレンの言葉がイマイチ信じられないのか、訝しげにリンクは見る。
その視線にやれやれと肩を竦めると、さっきミランダが上って行った階段に目をやり「やだなぁ、何かっていうとそういう目でみるんだから」と呟いた。

「僕はねミランダさんが大好きなんですよ。とってもとっても大事なんです、ずっと守ってあげたいくらいに」
「それを恋情というのじゃないか?」
「だから、そういう低い次元で僕の気持ちを語らないでくれます?言っておきますけど男女間のいかがわしい感情と一緒にしないでくださいよ?あれはね師匠の時に腐るほど見ましたけど、けして善いものじゃないんですよ?ドロドロして醜くて感情の剥き出しあいなんですよ?泣いたり怒ったり、普通の人が普通じゃなくなるんですから。」

嫌そうに顔を顰めてリンクを見る。けれどリンクはやはり腑に落ちないという風に首を傾げる。

「じゃあ、なぜ年の差の恋愛話などするんだ。意味がわからない」
「そんなの僕がミランダさんの恋人になるに決まってるからじゃないですか」
「・・・・・・・・ウォーカー、君は自分が何を言ってるのか分かっているのか?支離滅裂だぞ」

は、と呆れたように息をつき、リンクは首を振る。

「あのねリンク、さっき言ったでしょ?僕はミランダさんを守ってあげたいんですよ、この世の穢いものからね」
「?」

「誰か余所の男に恋なんかして、ミランダさんが穢されるなんてまっぴらごめんです。絶対にあり得ない」

キッパリと言い捨てて、アレンは食堂に向かって歩いて行った。



(・・・・・・)


その後ろ姿を見ながらリンクは眉間にしわを寄せ考える、それを恋と呼ぶのじゃないだろうかと。










END

- 36 -


[*前] | [次#]








戻る


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -