D.gray-man U


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チリン、と鈴が鳴る。軽やかで小さな音。
マリは手の平の上にあるロザリオに触れる。人差し指で十字架をなぞると、コインの上のベルがもう一度鳴った。

多体面にカッティングされたウッドビーズは模様が入っているが、それほど主張せず落ち着いた印象を受ける。
マリの目には見えないが、どうやら銀色らしい。



クリスマスも直前、持っていたロザリオをミランダは失くしてしまったらしい。
面と向かって彼女が言ってきたわけではないのだが、マリはため息や独り言ですぐに分かってしまう。
クリスマスには教団の大聖堂でミサもあり、ミランダは困っていた様子だが、失くした事を教団には言えないようだった。


(やはり、余計な世話だろうか・・)

手の中でロザリオを遊ばせながら、マリは迷う。師匠の用事で街まで行った帰り、足が教会へとのびフェデリコ司祭を訪ねた。
つい口から「ロザリオを作りたいのだが」と出たことにマリ自身が戸惑った。


躊躇いつつ、扉を叩く。

「ミランダ、わたしだ」

マリがミランダに仲間以上の気持ちを持っているのは、自分自身分かっている。
そしてミランダも・・多少の自惚れもあるかもしれないが、憎からずは思われていると思う・・・多分。

けれど扉をノックして開くまでの間、恋人でもないのにロザリオを贈るなんて、勘違いしている男のようで気まずくなる。

「まあ、マリさん?どうかしたんですか?」
「突然すまない、その・・今少し話せるか?」
「はい、あの、どうぞお入り下さい」
「いいや、もう夜だ。ここでいい」

平静を装っているが、さっきから緊張してどう切り出せばいいか分からない。ロザリオを渡すだけなのだが、いきなり渡すのも妙だ。
失くしたことも知らない相手からのプレゼントは、よく考えたら少々怖くないか?

「・・・・・・」
「マリさん?」
「あ、いや、その・・だな」

色々考えても仕方ない、もう目の前にミランダはいるのだ。キョトンと不思議そうな視線でこちらを見ているのが分かる。

「・・・ミランダ、これを」
「?」

ミランダの手を取る。ドクンと彼女の胸が跳ねて、それを聞いたマリの胸も同じく跳ねた。
シャランと微かな音がして、ロザリオはミランダの手の平に収まる。そのまま軽く握らせると、マリの手は放れた。

「差し出がましいとは思ったが・・失くしたものの代わりに」
「え・・」
「では、夜分に失礼した」

ミランダが握った手の平の中を確認する前に、マリはやや急ぎ足でその場を去る。
照れ臭ささもあるが、自分の行動の矛盾点に今更ながら気まずさを感じたからだ。

(・・ミランダ)

背後から、ミランダがロザリオを確認する気配がする。
シャラリと持ち上げ、フワリと柔らかい空気を感じた。彼女の微笑みだと悟ると、マリは深い安堵と共にじわじわと顔が熱くなっていくのが分かった。

よかった、と口には出さず呟いて。僅かに口元が緩んでいた。



◆◇◆◇◆




なんて綺麗なロザリオ。

繊細な装飾、十字架の上のコインに小さなベル。チリンと鳴る鈴は耳に優しい。
けれど、どうして自分がロザリオを失くした事を知っているのだろうか。

「・・・・」

不思議に思いつつも、ミランダはそれも嬉しかった。
マリはいつもそうだ、いつも一歩先を行くようにミランダの気持ちを理解して助けてくれる。

まるで魔法使いみたいに。

大事そうにロザリオを胸にあて、ミランダは部屋へ戻る。明かりをもう一度点けて、鏡の前に立ちロザリオを胸にかざした。
本当になんて綺麗なんだろう、こんな素敵なもの貰っていいのだろうか・・。

(?・・ちょっと待って。わ、私ったらお礼を忘れているわ・・!)

ハッとし、慌てて追いかけようとドアノブを握ったが、思い直して手を離す。

(・・ダメっ)

時計を見ると、夜も9時を過ぎた。時間がない。
ミランダは急いで机の引き出しを開ける、中にはさっきマリが来て慌てて仕舞った毛糸が、窮屈そうにそこにあった。

黒い毛糸で編んだマフラー。もちろんマリへのクリスマスプレゼント。
本当は帽子を編みたかったのだが、上手くいかずやり直している内に1番簡単なマフラーになってしまった。
もう少しで完成なのだ、一晩徹夜すれば出来上がると思う。これを持ってお礼に行きたい。


先日、任務が一緒だった時にマリがこぼした何気ない言葉。

『冬の任務は体が冷えるな』

考えたら、マリはミランダよりもずっと任務をこなしている。経験も豊富だし、一人で任務に赴く事も多い。
寒い地域にも行くだろうし、雪や風が強い場所へも行くだろう。そんな時に彼を助けてあげたい、そう思って編み始めたのだ。

「ええと・・いち、に、さん、よん・・あらまた目を落としてる」

編み棒を抜いて糸をスルスルと解く、失敗している場所まで戻ると棒を差しやり直す。
自分としては、上手く出来ている方だと思う。マリに恥ずかしいものは着けて欲しくないから、ミランダは一生懸命だ。

(それにしても・・)

机の上に、さっきマリから貰ったロザリオを置くと、見ているだけで頬が熱くなる。
どうして彼はいつもこんなにも良くしてくれるのだろうか、嬉しいけれど内心ちょっと不安。

期待してしまいそうだ。彼も、自分を想っているのではないか・・と。

そんなはずない、分かっているけど。
男性との免疫があまりないせいか、ちょっと優しくされるだけで勘違いしてしまいそうで。

「・・・あっ、いけない、編まなくっちゃっ」

また余計な事を考えてしまいそうになり、思考を振り切るように首を振る。
今は編む事だけを考えよう、明日の朝に渡したい。クリスマスまでに仕上げないと。

(マリさん、巻いてくれるかしら)

そうしてくれると嬉しいけど、無理強いはしたくない。でも一度でいいから首に巻いた姿を見たいな・・。

(マリさんの首に・・このマフラーが?)

想像だけで顔が赤くなって、指が止まる。今編んでいるこのマフラーが・・なんだか間接的にマリに抱き着いているような気持ちがした。


「わっ、わ私ったらっ・・!バカバカ!」


頭をゲンコツでポカポカと叩く。鼻で大きく息を吸い、吐き出すと、ミランダは再び編み棒を動かしていく。

目の前のロザリオが明かりに反射したのか、キラリと光ったような気がした。






End

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