D.gray-man U
性夜の贈り物
黒いリボンを解きピンクと白の縞模様の箱を開けたミランダは、大きく目を見開いた。
「あ・・あの、これ・・」
「どう?気に入った?」
目の前のティキは、こちらが身構えてしまうほどニッコリと笑う。
一応、恋人と言っていいのだろう。
クリスマスイヴにちょっと小洒落たレストランで食事して、そのままこうしてホテルに来ているくらいだから。もちろん支払いはミランダだが。
クリスマスプレゼント、と渡されたその品物は婦人用下着。
色は白なのだが、かなりスケスケで、ブラジャーもショーツも紐で結ぶタイプである。
「ティキさん・・これ、ちょっと・・す、透けてませんか?」
恐る恐る聞いてみる、せっかく貰ったものにケチつける訳ではないが、ミランダが持っている下着類とは明らかに違う為、遠回しの確認でもあった。
ティキはシャンパンを飲みながら、やれやれと肩を竦めると、
「ったく、貧乏人はこれだから。それが『シルク』ってやつだよ、おまえ見たことねぇだろ?シルク」
「えっ、これがシルクなんですか?は、初めて見ました・・」
「いいか?シルクってのは大体がスケスケなんだよ、高級品ってのは繊細なもんなの」
確かに自分が持っているのは、どれも安物ばかりでゴシゴシ洗濯しても大丈夫なものばかりだ。
ミランダは恐る恐る下着を持ち上げる。これがシルクか、噂には聞いたことがあるが確かにスベスベしていて気持ちいい。
じわじわと嬉しさが込み上げる。
「ありがとうございます・・ティキさん」
初めてもらうプレゼント。まさかこんな高価な品をくれるなんて、夢にも思わなかった。
なんとなくいつも気持ちが一方通行な気がしていたけど、やっぱり彼も少しは自分を思ってくれているのかしら・・。
などと頬を染め下着を見つめていたが、あることに気づいてミランダはまた目を見開いた。
「・・・・・・・あの」
「ん?」
「テ、ティキさん・・・あの、これ・・その・・・」
言っていいものやら、ちょっと迷う。またもケチをつけるみたいで。
「なんだよ、早く言えよ」
「あ、はい・・あの・・・」
ミランダは躊躇いながらも、その部分を指でさした。
「や・・破れているみたいなんです」
ティキの前に広げた下着は、ブラジャーの両乳房とショーツの大事な部分がバッサリと縦に切られている。
どうしてか分からないが、多分お店側の手違いなのだろう。せっかくのティキからのプレゼントなのに、これでは着ける事が出来ない。
「で、でも大丈夫です。ちゃんと繕いますから・・あの、私裁縫は意外と普通に出来る方ですし」
「言っておくけど、元から切れてるんだけど。それ」
「だから嬉しさに変わりは・・・・・・えっ?」
何と言われたのかよく飲み込めず、ミランダは瞬きせずポカンとしてティキを見返す。元から?元から切れている?今そう言われたような気がしたが・・。
ティキはシャンパンを一口飲み悪戯っぽく目を細めると、しごく真面目な声を出して、
「あのさ、これが最近流行の実用下着なわけ。わかる?」
「実用・・下着?ですか」
「そっ、実用。股の切れ込みは便所行っても一々脱がなくてもいいようにだし。こっちのは、例えば赤ん坊いたら乳飲ませやすいだろ?」
「・・・・・」
もっともな口調で言われると、ミランダは成る程と頷いてしまう。確かに実用的だ。
そんな便利な下着が巷では流行っていたのか、知らなかった。しかも赤ん坊にお乳をあげる事まで考えられているなら、かなり長い間使えそうである。
(すごい・・こんなが下着売っているのね)
ミランダはあらためてスケスケの下着を見つめた。
第三者からは、どう見ても性的な実用性のみを思いつく品だが、ティキの言う言葉を聞いたミランダには、そんな実用性は浮かばない。
「気に入った?」
「はい・・ありがとうございますっ」
ほわほわと嬉しさに頬が緩む。いつも意地悪ばかりされているのに、今日のティキは優しい。
クリスマスだからだろうか。今日は一度も抓られてないし蹴られてもいない、まるで夢のようだ。
「ティキさん・・あの」
「なんだよ」
「あの・・えっと・・」
もじもじと指をすり合わせ、恥ずかしそうに顔を俯くと。
「わ、私、すごく・・幸せです」
顔を赤くしながら、下着を大事そうに胸にあてた。
そんなミランダの頭をティキはポンポンと叩くと、胸ポケットからタバコを出して火を点ける。
「・・しゃーねぇなぁ、今日は特別サービスしてやるよ」
「?」
「クリスマスだからな、たまには俺がマッサージでもしてやるよ」
「ええっ!?そ、そんなっ・・申し訳ないです・・こんな素敵なプレゼントまで頂いたのにっ」
首をブンブンと振って固辞するが、
「いいからいいから、昔ながらのリラクゼーションだ。縄で縛ってロウソクの熱でリンパの流れを良くする。癖になる奴もいるくらいだ」
「ロウソクですか?なんだか・・ロマンチックですね」
「だろ?クリスマスだからな、特別メニューだよ」
口にくわえたタバコの煙を燻らせながら、ティキはニッと笑う。
それはもう、この上なく愉しそうに。
End
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