D.gray-man U






その体勢に少し面食らいながらも、逸らした視線をミランダへ戻すと。

「・・マリとは、いつからつきあってるの?」

そう、これが1番聞きたかったのだ。

ミランダは、最初キョトンと目を見開いたがみるみる顔が赤くなり、

「えっ・・え、えええっ?」

両手を頬にあて、1オクターブ高い声で叫んだ。

「な、な、何を・・リナリーちゃん?」
「だって、私が任務に行く前はマリとは別に普通だったでしょう?」

口を尖らせて、聞く。

「つつつ・・付き合うだなんてっ!そんな、まさかっ・・」

ミランダは首をブンブン振り、今にも湯気が出そうな程顔が赤い。リナリーは首を傾げながら、

「・・え?付き合ってるんじゃないの?」
「そそそそんなっ・・恐れ多いわっ・・マ、マ、マリさんにしし失礼よっ・・!」

力いっぱい首を振るミランダに、リナリーは信じられないと瞬きをする。あれだけ周囲にハートマークを飛ばしていて、付き合ってないなんて嘘だ。
しかし、ミランダは嘘をつく人間じゃない事はリナリーはよく知っている。

ミランダは落ち着こうと紅茶を飲むが、手に持ったカップとソーサーはカチャカチャと騒がしい。

(嘘でしょ、あれで本当に付き合ってないの?)

二人を見る限り、互いを想い合っているのは一目瞭然だったのに。

「・・でも、マリの事は好きでしょ?」

確認するように聞くと。

「へ?・・えっ、ええとっ・・あの、そのっ」

真っ赤な顔で俯き、スカートをもぞもぞと弄り。

「・・・・・ぇぇ」

ほとんど聞き取れないような、小さな声で認めた。

「ねぇミランダ、ちょっと聞くけど・・マリのどこが好きなの?」

こんな事聞くのは失礼だし、大きなお世話だろうけどやっぱり気になる。ミランダは赤い顔のまま、恥ずかしそうにそっとミランダを見て。

「あの・・笑わないでね?」
「え?もちろん」

頷くリナリーに、ミランダは少しだけホッとしたようだが、やはり言いづらそうに俯き。

「マ、マリさんて・・・魔法使いみたいで」

ぽつ、と言って、マリを思い出したのかミランダの瞳に熱がともる。

(は?)
魔法使い?

予想外の答えに、リナリーは目を丸くした。

「ま、魔法使い・・・」

絵本に出てくる、黒いとんがり帽子のマリを想像し、吹き出しそうになったが我慢した。

「リナリーちゃん、マリさんて・・凄いと思わない?」
「え?」

どのへんが?

「あのね、私が転ぶ前に、マリさんにはそれが分かるみたいなの」

すごいわよね、と両手を合わせうっとりと祈るように指を組む。

「・・・・」
「この間は、迷って地下室まで行っちゃったら・・助けを呼ぶ前にマリさんが来てくれたのよ」

思い出したのかミランダの頬が緩み、嬉しそうに微笑んだ。

「助けも呼んでないのに?」
「そうなの、凄いわよね」

瞳をキラキラさせながら、ミランダは頷く。

「そ、そうね」

(・・・・・)

もしかしたら。マリはずっと前から、ミランダが好きだったのかもしれない。
以前からミランダの一挙一動に気を配っていたのでなければ、ミランダが転ぶ前に気付いたり、助けを呼んでもいない迷子に気付くなんて、普通ないだろう。
いくらマリの耳が良くても、よほど気に留めている相手じゃなければ、そこまで出来ないだろうから。

「なるほど、ね」

ぽつ、と独り言を呟いた。

(じゃあ、やっぱり二人は両想いなのね)

リナリーはクッキーを一つ口に放り、すうと鼻から息を吸う。目の前のミランダは、マリの事を告白したからか、どこと無くスッキリしたように見えなくない。

「・・・・・・もしかして」
「え?」
「ミランダ・・けっこう前から、マリの事好きだったとか?」

何となく、急に接近した二人に腑に落ちなくて。

「えっ、あ、きゃっ!」

ミランダは図星をさされたようで、手に持ったカップをカチャンと倒す。中にあった紅茶はほとんど空だったので、テーブルに小さな水溜まりを作る程度で済んだ。

「そ、そうだったの?いつ?いつから?」
「それは・・あのその・・え、江戸で・・」
「江戸!?」

そんな前から?

「みんなが方舟から戻ってきた後、マリさんがみんなに優しく声をかけてて・・」

素敵だなって思ったの、と。
小さな声で言うミランダに、リナリーはびっくりして口をぽかんと開けた。

「ほ、本当に?」
「・・ええ」

両手を頬にあて、恥ずかしいのかミランダはキュッと目をつむる。

「え、江戸って・・」

リナリーは驚いて、言葉がつづかない。

『それ、ほとんど一目惚れじゃないの?』

そう言いたかったけど、何となく喉が渇いた気がして、リナリーは紅茶を飲む。
自分のいない間じゃなく、ずっと前から二人はひそかに想い合っていたのだ。

(じゃあ、何で今までは進展しなかったのかしら・・)
ふと、首を傾げて考える。

(・・・・・・・・・・・あれ?)

もしかして、私のせい?

考えたらミランダが教団にいる時は、たいていリナリーと一緒だった。食事の時もお茶の時間も・・。
方舟を使うようになって、以前のような長期の任務は殆どなくなったから、今回みたいな一ヶ月本部を離れるのは、久しぶりだった。

だからその間に二人が急接近したなら、それは間違いなくリナリーがいなかったからだろう。

(つ、つまり・・そういう事なの?)

マリに邪魔されたと思っていたけど、本当に邪魔していたのは自分だったのだ。リナリーは手に持った紅茶を飲まずに、カップを下ろしミランダをそっと窺う。

「・・・・・・」
「どうしたの?リナリーちゃん」
「あ・・うん、あのね・・・あ、やっぱりいいわ」

手を振って、えへへと笑ってごまかすと、ミランダは心配そうに眉を寄せながら。

「やっぱり、何か悩み事でも?私なんかじゃ力になれないかもしれないけど・・よかったら」
「ううん、違うの!あの、えーと今何時かなって思っただけだから」

キョロキョロと時計を捜すフリをすると、ミランダも気にして。

「・・あの、リナリーちゃんこの後何か用事でも?」
「う、ううん、大丈夫」

リナリーは曖昧な笑顔をつくりながら再び紅茶のカップを取ると、くいっと一気に飲み干す。
紅茶はとうに冷めていたから、溶け残った砂糖が口の中に残る。甘いはずなのに、なぜか苦いような気持ちで、リナリーはゴクンと最後の液体を飲んだ。









「どうかしたのか、リナリー」


隠れていた訳ではないが、リナリーはなんとなく出づらくて。扉の陰からバツ悪そうに、顔だけのぞかせると。

「・・やっぱり気付いてるわよね」

ミランダと別れたあと、予想通り修練場にいたマリを見つけたものの、やっぱり声をかけづらく。リナリーは扉の前で何と声をかけるか、考えている最中だった。

マリは一休みするようで、タオルを取り汗を拭う。汗の感じからして、かなり熱心に修練していた様子だ。リナリーはその様子を見ながら、

「・・マリ、科学班からいつ戻ったの?」
「科学班?」

マリは一瞬怪訝な顔をしたが、ミランダについた嘘を思い出したらしく。

「・・・あ、いや、ついさっきだ」

やや早口で答えるが、その汗からして一時間以上は修練していたのは、まる分かりだ。

「ついさっき?」
「いや、もう少し前か・・」

ごまかすように咳ばらいしながら、ゴシゴシ汗を拭うマリが可笑しくてリナリーはクスと笑う。

(下手なウソ)

相変わらず、こういう事には向いてないようだ。

「・・・・」
「リナリー、何かあったのか?」
「あ・・うん」

リナリーは扉から離れ、マリに近づくと。

「さっきは、ごめんなさい」

ペコッと頭を下げる。

「さっき?何の事だ」
「ほら・・二人の邪魔しちゃったでしょ?」

バツ悪そうに苦笑いして、リナリーは肩を竦めた。

「邪魔?・・そ、そんな事はない」

動揺からか顔に赤みがさし、それを隠すようにマリは水呑場へと移動する。

「ねぇ、マリ」

リナリーは指を口元にあてながら、窺うようにマリを見ると。

「いつからミランダの事好きだったの?」
「!?」

さらに動揺したのか蛇口を思い切り捻り、勢いよく放出された水がマリの顔を濡らす。

「ちょっと、マリ大丈夫?」
「な、何を言うんだ、リナリー・・」

タオルで顔を拭きながら、振り返るマリの顔は茹でタコのように赤い。

「え?だって、好きなんでしょ?ミランダの事」
「なっ・・そ、それは・・」
「違うの?」

マリは追い詰められてたじろぎながらも否定はせず、いや、その、まあ、と呟きながら最後に頷いた。

その困ったような赤い顔のマリに、リナリーは目を見開く。

(マリもこんな顔するのね)

新鮮な驚きだ。

「もしかして、かなり前から好きだった?」
「リ、リナリー、あんまりからかわないでくれ・・」

本当に困っているようで、マリはリナリーから二、三歩後ずさる。
あの大きなマリが、少年のような純情さを見せたのが意外で、リナリーはついからかいたくなる。

「やっぱり、さっきお邪魔してゴメンね」

ウフフと笑った。

「い、いや・・それはいいんだ」
「どうして?だって本当はミランダと二人で過ごしたかったんでしょ?」

少しだけ刺を含ませながら言うと、マリは赤い顔で頭を掻きながら。

「いや、本当にいいんだ」
「?」
「ミランダは・・リナリーと一緒にいると、楽しそうだから」

ミランダを思い出したのか、マリは穏やかに微笑して。

「楽しそうな二人をみてると、わたしも楽しいんだ」

そして、見えないはずの瞳はとても優しくリナリーを見ていた。

「・・・・・・」
「リナリー?」

黙り込んだ自分に、マリは不思議そうな顔を向ける。

「な、何でもない」

ずるい、と思う。やっぱりマリにはかなわない。
そんな風にさらりと言われてしまったら、もう何にも言えなくなる。

大好きなミランダ。

(でも・・)


(私、マリのことも好きなのよね)

白旗を上げるように、リナリーは笑った。

「ねぇ、ミランダに告白したら?」
「い、いや、まだそれは・・」

とたんに動揺し始めるマリが可笑しくて、リナリーはクスクス笑いながら。

「どうして?何かあるの?」
「何か・・というか、ミランダはまだ慣れてないようだから」

ぽつりと、呟きながら頭を掻く。

「慣れてない?何を?」

キョトンと首を傾げて、マリを見上げた。

「いや、わたしはこの風貌だから・・ミランダはまだ緊張しているらしくて」
「え?」
「側へ行くと・・彼女の心音は速くなるんだ」

少し沈んだ声をして、マリは呟いた。

「・・緊張・・?」

リナリーはパチパチと瞬きをしながら、マリを見る。

(・・・それ・・)

恋してるからでしょ?

口には出さず、リナリーは呟いた。
どうやら二人の最大の「邪魔」は当人達の中にあるようだ。傍から見ていれば、二人は両想いだとすぐに気付くのだが。
リナリーはそれを告げようかと一瞬悩んだが、すぐに止めた。どうせいずれ遠くない時期に、分かる時が来るだろうから。

(それよりも・・)

かなわないのは分かっているけど。
まだもう少しだけ、ミランダを独り占めしたい気持ちがあって。


(ごめんね、マリ)


そう心で呟きながら、リナリーはイタズラっぽく笑うのだった。
















End

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