D.gray-man U
3
翌日の昼、アレンが食堂へ行くと不思議な光景を目にする。
食堂の中央のテーブルに向かい合うように座る、コムイとミランダ。ニコニコと恋人同士のように食事する二人の間には、なぜかリナリーが嬉しそうに座っていた。
そして、そんな二人いや三人を不思議そうに遠巻きに眺める団員達。
「あれ?ラビ」
「んー?」
ラビは面白くなさそうに、テーブルに肘をついてその光景を見ていた。
「たしか・・リナリーを誘うとか言ってませんでした?」
「あー・・言ったねぇ、うん、言ったわ」
やさぐれたように頬杖をついてアレンを見ると、
「それがさ、いざあの二人の姿見るとどうも『取られた気がする』って」
「取られた?って・・コムイさん?」
目をぱちぱちと瞬きしながらリナリーを見る。ラビは首を振って、
「いんや、両方。コムイもミランダも・・で、あの二人の間にいると」
「へ、へぇ。なるほど」
まるで両親に挟まれた小さな子供のように、リナリーはニコニコしていて。アレンはなんとなく肩透かしをくったような気持ちになったが、
(リナリーが幸せそうだから、いいか)
と、肩を竦めながら笑った。
「ところで・・なんでラビはそんな面白くない顔してんですか?」
「は?アレン、おまえ気付かねぇの?」
ラビがキッとアレンを睨み付ける。
「え?リナリーにフラれた事ですか?」
「ち、違う!そっちじゃなくてっ」
アレンは面倒そうにため息をついて、なんですか?とラビの隣に座った。
「俺ら、いや団員の男どもは・・もうミランダと仲良く出来ねぇてことさ」
「え?・・・あ!」
はた、と気付きアレンは目を見開いた。
そうだ。
本人の自覚は無くてもコムイがミランダを恋人だと思っているなら、うっかりミランダに近づき過ぎればどんな事になるか、いやどんな目に遭うか。
「そ、そうだっ」
アレンは頭を押さえてラビを見る。
「リナリーばかりにとらわれて大事な事を忘れてたなんて・・!」
「そうさ・・これからはリナリーと同じように、ミランダにも気をつけにゃならんのさ」
ラビがアレンの眉間に人差し指をビシッと突き出した。
例えば、食後にのんびりミランダと二人でお茶を飲んだり。図書室で偶然会ったミランダと、隣同士なごやかに本を読んだり。
そんな幸せも、これからは気をつけなければならない。リナリーは妹だが、今度は「恋人」だからさらにコムイの目は厳しくなる。
「ああっ、俺らのバカッ!」
頭を抱えるラビを見ながら、アレンは大きくため息をついた。
「ホントですっ。でも、こんな簡単に二人がくっつくとは思わなかった・・」
ただでさえ女っ気の少ないこの教団で、不可侵な存在をもう一人作ってどうする。リナリーへのシスコンが弱まっても、ブラコンが強まればなんの意味もない。
「「・・・・・」」
アレンとラビは、妹と恋人(?)に囲まれ幸せそうに笑うコムイを見た。これぞ両手に花と、キラキラ眩しいそこは何という羨ましい光景か。
しかし相手が相手なだけに、二人は手だしが出来ない。
ある意味コムイ自身が、絶対不可侵な男だから。
恐らく二人と同じ事を考える男が多いのか、
そんなコムイを悔しそうに、苦々しい顔で見ている団員達が食堂の中で何人も見つけた。
(ア、アレン・・昨日の事は・・)
(分かってます・・絶対に秘密ですよ)
もし、バレたら自分達の命が危ない。
これ以上薮を突く事はないと、二人は悔しそうにそこから目を背けたのだった。
「その、ミランダは僕のどういった所が・・す、好きなのかな?」
「?そうですね・・責任感があって、お仕事を頑張ってる所が尊敬してます・・」
ミランダは考えるように言って、ニッコリ微笑んだ。コムイは耳まで顔を赤くしながら、
「そ、そう?じゃあこれからも仕事頑張んないとなぁ!」
アハハハー、と笑いながら頭を掻いている兄を見ながら、リナリーはくすぐったいような気持ちで笑う。
(兄さんたら、どうやら本気みたい)
ミランダはまだ気付いていないみたいだけど、それでも兄に悪い感情はないようだから、見込みがない訳じゃなさそう。
(兄さんの恋が叶うまで・・)
リナリーは手に持ったコーヒーを一口飲んで、
(私の方は、お預けね)
リナリーは本来の目的は忘れ、ウフフと大好きな二人の間で幸せそうに微笑んだ。
End
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