D.gray-man U





「本当のところを言えば、最近はとくに・・・危ないな、と思うことが多々あってつらい」
「?どういう意味?」
「前はちゃんと自重できたのが、リナリーと気持ちが通じ合ってからは・・つい手がで出そうになるんだな、これが」
「・・うそでしょ?だってさっきも言ったけど、班長ったら私のこといつだって子供扱いしてるじゃない」
「だから、そうしておかないと・・・危ないんだって、いろいろと」

苦しげにそう言って、リーバーは怪訝な顔をする恋人を見る。
こっちの苦労も知らずに遠慮なく懐いてきて、手を繋ぎたいやらお休みのキスが欲しいやら、果ては夜中に薄着で現れるという無防備ぶり。まだ若いリナリーに合わせてゆっくり二人の関係を築いていこうと思っている彼にとっては、じっと我慢の日々であった。
しかしリーバーも20代半ばの健康な男であり、さすがに下着姿で誘惑されてはもう限界点ギリギリで。一か八かで『大人の濃厚キス』でリナリーの意欲を削ごうとしたものの、危うくこちらの本能に流されるところであった。

「リナリーは『もう』半年って言うけど、俺にしては『まだ』半年なんだ」
「・・・・・」
「出会った時から6年、まだまだこれからもリナリーが成長して、立派な女性になるのをしっかり見届けたい。出来ればずっと傍で」
「班長、それって・・」

リナリーの頬がポッと染まり潤んだ瞳をこちらに向ける。それを切ないようなもどかしいような目で見て、リーバーは咳払いをして気を落ち着かせる。

「だからな、そういった・・その、恋人的な行為も・・いずれはしたいと思っているから」
「うん・・」
「あ・・・・あんまり、その気にさせないでくれ」
「え?」

黒いレースの下着をちらつかせながら小首を傾げる恋人に、リーバーはひっそりとため息をついた。見るからに新品のその下着はリナリーの意気込みを物語っていたが、今の彼には目の毒である。
なるべく見ないようにしながら、さっき解いたネクタイを結びなおして立ち上がる。本音を言えばまだここにいたいが、まだ彼は仕事中だった。きっと今頃科学班はちょっとしたパニックだろう、それを考えると早く戻らなければならない。

「あ、ねぇ班長。ちょっと・・・・一つ聞いてもいい?」
「?どうした?」
「うん・・あの、ね?えーと・・・私って・・えと、匂いとか・・気になったりする?」
「匂い?」

いきなり何の事かとリーバーがポカンとしていると、リナリーがほのかに顔を赤らめて心配そうに見上げてくる。

「いや・・とくには」
「本当?」
「ああ、それより何の話だ?匂いって・・香水でも買ったとか?」
「違うの、ほらさっき神田と言い争いしたって言ったでしょ?その時に言われたのよ『匂う』って!」
「・・・神田に?」

胸を撫で下ろすリナリーとは逆に、少々ひっかかることを聞いてリーバーの胸がざわめく。恋人の自分でも気づかない匂いを幼馴染の神田が知ってる・・それは由々しきことである。

「リナリー、ちなみに神田はどんな匂いだって?」
「そ、そんなこと言えないわよっ。恥ずかしいし・・」

顔をカアァッと赤くして怒ったように口を尖らせるのが、さらに気になる。

「いや、ほら、その点を教えてくれないと俺もちゃんと判断がつかないし。思い当たる匂いかどうか、その情報の一つとして教えてくれないか」
「・・・えー・・でも、ちょっと言いづらいな」
「でも、そこはなるべく正確に教えてくれないと。科学班の班長としてエクソシストの体調は気になる事だし、匂いもまた重要な判断基準だと思うから」

かなりこじつけだと自分で分かっているが、気になるものは気になるのだ。
リナリーは困った顔で「えっと、うーん・・でもなぁ、やっぱり」と、言うのを躊躇っていたがリーバーの真剣さに圧され、やがて恥ずかしそうに口を開いた。

「・・・・ケ・・ケモノって言われたわ」
「ケモノ?」

獣の匂い?どんな匂いだそれは。リナリーの匂いはほのかに甘くて石鹸の香りのいい匂いである。そんな荒々しいイメージではないのだが・・・リーバーは眉を寄せたが、次の瞬間ハッとあることを思いつく。

(まさか、アンドロスタジェノン?)

アンドロスタジェノンとは、いわゆる女性のフェロモン物質である。様々な知識をその脳につめこむリーバーは、博識がゆえにその情報に思考を左右される。

(リナリーのフェロモンに、神田が反応したと?つまりそれは・・まさか・・神田はリナリーを?)


「・・・・・」

眉間にシワを寄せて考え込む恋人に、リナリーは声を掛けようとしてやめた。何を考えているかは分からないが、こうして真剣な顔を見ていると胸が熱くなってため息がもれそうになる。
ああ、やっぱりカッコイイなぁ・・とひそかにウットリしているのは内緒。さっきはああ言ってくれたけど、間違いなく自分の方が想いは強いと思う。それを知られるのも悔しいし照れくさいから、胸をときめかせるだけにしておくけど。


(はやく素敵な女性になって、班長に『その気』になってもらわないとな)


目の前の恋人の思考も知らずに、少女はそう決意しながらキラキラした瞳にハートを宿すのだった。








END

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