D.gray-man U






一瞬目が合うと彼の目に明らかな動揺が見て取れ、頬が熱くなる。胸の鼓動がさらに早まり、期待とためらいの入り混じった瞳でリーバーを見上げた。

「は、班長・・あのね」
「だめだろリナリー、そんな格好でいたら風邪ひくぞ・・寝るんならパジャマを着ないと」
「え?」
「着替えてないならそう言えよ、驚くだろ」

咎めるような言い方であったが、背けた顔の頬が薄く染まっているのが分かる。この期に及んでまだ距離を置こうとする彼に、リナリーは焦れったくてたまらない。リーバーの手を握ったまま放さず、ゆっくりと上半身を布団から起こした。

「ちょっ、なにやってんだ!ダメだろそれは。ほら、手を放すんだ、俺が一旦部屋から出るから・・」
「なんでよ、別にいいじゃない。だって私達付き合ってるんでしょう?恋人同士なら、こういうのダメじゃないじゃない」
「・・た、確かにそうだが・・いや、ダメだ。リナリーは未成年なんだぞ?そ、そういうことはもっと大人になってからじゃないとダメだっ」

腕にすがりつくリナリーを見ないようにかたく目を閉じて、リーバーは首を横に振る。
ここまでして本人にきっぱり言われては、もうどうしていいか分からず、情けなさと恥かしさと悔しさでとうとうリナリーは泣き出してしまった。

「じゃあ、いつになったら『大人』って・・認めてくれるのよ」

泣くなんて子供のすることだって自分でもわかっているけど、溢れるものは止められない。

「リナリー?」
「そうやって、いっつもいっつも・・私達、もう半年近く付き合ってるのよ?なのに班長はいつだって大人ぶって、私は子供扱いで・・いつになったら対等に扱ってくれるの?」

枕を抱えて顔を埋める。これ以上泣き顔を見せたくないのもあるが、彼が困った顔を見たくない。困らせているのは自分だと、どうしようもなく実感してしまうから。

少しの沈黙の後、ふいに頭を撫でられる感覚がしてリナリーは僅かに顔を上げる。すぐ目の前にリーバーの顔があって、びっくりしてつい目を逸らしてしまった。

「な、なによ急に・・顔が近いっ」
「・・・もしかして、それが『悩み事』?」
「えっ」
「ほら、さっき言ってたろ?神田に相談していたっていう話」

額と額がとっても近くて、今にも呼吸が触れそうなほどの距離のなか目が合う。握っていたはずの手は握り返されていて。
頭を撫でていたリーバーの手はリナリーの後頭部へまわり、ぽんぽんとあやすように叩かれると、そのまま枕ごと優しく抱きしめられる。ホッとしたのと恥ずかしいのとで、涙はいつのまにか止まっていた。

「だって・・だって班長ったら全然なんにもしてこないんだもの。普通付き合ったらもっとスキンシップっていうか・・その、もっとくっついたりするんじゃないの?」
「くっついてるだろ、ほら今だって抱っこしてるし」
「抱っこじゃなくて抱きしめるって言ってくれない?そういう小さなトコから、班長は私を子供扱いしているって思うの!」
「いや、だけどリナリー」
「『だけど』とかはいらないの、私がそうして欲しいの!なんで分かってくれないの?昨日も言ったけど班長は鈍いわ、鈍すぎるわよっ。これ以上恥ずかしいこと言わせないでよっ、もう!」

ひとしきり文句を言うと、今度はリーバーの反応が気になった。言い過ぎたかもという心配と、ここまで言ったのだからという期待もある。
抱きしめられたままだから、彼がどんな表情をしているかリナリーは見えない。急にそれが不安に感じ、そっと体を起こしてリーバーを見た。

「班長・・?」

見覚えのない、眩しいような切ないような目でこちらを見下ろす彼に、リナリーは首を傾げる。
「どうしたの」と声をかけようとした時、かぶさるようにリーバーの顔が迫ってきた。ほんとうに突然の口づけだった。

(・・・・えっ?)

いつもの触れるだけのキスではない、いわゆる大人のキス。深く深く求められる唇の感触に頭の奥がぼうっとして、目眩がする。
後頭部を押さえられ逃げることもできないまま、リーバーの舌に侵入される。下唇を甘く咬まれ、歯列をなぞり、リナリーの小さな舌に届く。初めて感じた他人の粘膜は、温かくて生々しかった。

「んっ・・はぁ・・っ」

息継ぎがうまく出来なくて苦しい、絡みつく舌は食べられているよう。どくんどくんと自分の心臓の音だけが頭に響き、指先が震えた。
ちゅぱと音を立てて唇がはなされる。許された呼吸にリナリーの息が荒くなり涙目になったが、リーバーはそのまま唇を首筋へと移動させていた。

「は、はんちょ・・?え、あのっ・・」

覆いかぶさって、リナリーの体はベッドへと倒される。布団を捲られて件の勝負下着があらわにされ、視界の片隅にリーバーがネクタイを外すのが見えた。シャツからのぞく首筋に、背中がゾクリと震える。

(わっ、うそ、どうしよ)

こうなることを望んでいたはずなのに、いざとなると怖気づいてしまう。心の準備は万端だったと思っていたが、想像していたよりも実際はずっと刺激が強かったのだ。
のしかかるリーバーの体の重みや、匂いや視線。触れた肌の熱さまでは想像もしていなかった。さきほどの濃厚なキスのなごりもあり、ほてった体は色々と敏感になっている。
嫌ではない、嫌ではないのだが、これ以上の展開は自分の受容力を越えている気がした。

(うわっわわわっ、うわぁぁ〜っ!)

体中の細胞が色めきたって落ち着かなくて。やっぱり無理と打ち明けようと思うが、自分から誘っておいてその行動はさすがに虫がよすぎるだろう。どうしようどうすればいいのだろう。そう迷って躊躇っていると、再びリーバーの顔が近づいてきた。
またさっきのような大人のキスが来ると身構えたリナリーだったが、予想に反して触れるだけの優しいキスだった。

「ん・・」

ふくらみと柔らかさを確かめ、唇で唇を撫でられるようなキス。緊張がゆっくりとほぐされ夢見心地へと変わったころ、リーバーの唇は静かにはなれる。

「・・・っと、危ない」
「?」
「はい、おしまい」

突然の終了宣言にリナリーは驚く。なにを言われたかもよく分からなくてそのまま見上げていると、リーバーがきまり悪そうに苦笑いした。

「いや、ちょっとやり過ぎた。自分ではもう少し自制できると思っていたんだが・・ごめんな、リナリー」
「えっ?」
「あー・・うん、ちょっと驚かすくらいで止めるつもりだったんだけど、いざとなるとこれがなかなか難しいもんで・・正直危なかった」

はー、とため息をつきながらリーバーは身を起こす。その顔は気がとがめながらも、後ろ髪をひかれているようでもある。視界に入れないようにリナリーに布団をかけると、再びベッドサイドに腰掛けた。
どことなく気まずい沈黙が流れるなか、リナリーは少しホッとしていた。あれ以上先にいかれたら自分はどうなっていたのだろうと思うと、ちょっと怖かったのだ。

「あのな・・その、リナリーに魅力がないとかじゃないからな」

リーバーは頭を掻きながら、ぽつと漏らす。



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