D.gray-man T




『貴女を思うと胸が締め付けられ、姿を見ると胸が高鳴り。私は日常の些細な時にも情けない程、貴女の事を考えてしまうのです。そして、出来ることなら貴女の恋人として、いつもそばにいたいと思ってしまうのです』


(あれをどう勘違いされるというのか)

ミランダへの手紙を思い出す。

自分なりに考えて、あまり捻らずストレートに想いを綴ったつもりであったが、それでも伝わらなかったと、こう現実を突き付けられると。リンクは落胆しながらもあれをどう解釈したのか、彼女の思考が気になって仕方なかった。

けれど。

「恋人として想ってくださるのですか?」

の問いに

「もちろんです、ハワードさん」

と答えたのは何故だ。
ちら、とアレンの背にのるミランダを見て。

(聞き間違え・・とかじゃないだろう)

確認で二度も言ったし、手紙にも書いたから。

(恋人の意味を知らないなんて事は・・ないよな)

知らなければ、頷くはずは無い。
考えれば考えるほど、出口が見えないこの感じは、まるで迷路に迷い込んでいくよう。

なんだかひどく疲れていくのを、リンクはその身に感じていくのだった。





麓へと近づくにつれ天気が崩れてきて、リンク達が町までたどり着く頃には雨まじりの雪が降っていた。

目的地にはもう一山越えなければならなかったが、(ミランダの)体力温存もかねて今日はこの町に宿を取ろうと、一行は宿屋を探すことにした。

ピレネーは古代から温泉地で有名な為、遠路からやってくる客も多く、天候が悪いのもあり宿屋はどこも混んでいて、人数分の部屋を取るのが大変であった。

雨まじりの雪が本当の雪に変わる頃、ようやく一軒の宿屋に部屋取る事ができ、一行はホッと安堵のため息をもらしたが、今度は部屋割で少しだけ揉める事になる。

人数分と言っても二人部屋を三部屋しか取れなかったので、一部屋はミランダが単独で使うとして。
二人部屋を三人で使わなければならなくなるので、誰かが床で寝る事になる。結局運試しという事で、籤引きで決める事になったのだ。

「あ〜・・僕こういうの苦手なんですよね」

ため息まじりに、あみだ籤に名前を書き込んでいく。

「たしかに、アレンて幸薄そうさ・・はい、書いたぜ」
「しかも、あみだって・・リンクでしょ考えたの」
「これならイカサマは出来ませんからね」

言いながら、キエに紙を渡す。
ミランダが手洗いに行っている間に決めておかねばならない。彼女は間違いなく自分が床で寝る、と言うに決まっているから。

「では全員書きましたね」

リンクが紙をテーブルに置くと、ペンで「ラビ」と書かれた文字に円を書いた。

「では、ブックマンJr.からまいります」
「やべ、なんか緊張してくんな」

一同が注目するなかリンクはスイスイと文字網を辿り、答えをめくった。

「残念、ベッドでしたか・・」
「おい、残念ってなんだよ」

でもやったね!とラビはガッツポーズを作る。

「・・よかったですねラビ」
「や、なんかその笑顔恐いんですけど」

引き攣る顔のラビは放っておいて、今度は「アレン」に円を書いた。

「次はウォーカー行きますよ」
「・・・・リンク」

リンクは眉間に皺を寄せると、

「・・何を考えているか分かりませんが、私は君と違ってイカサマはしません」
「なら、いいんですけど」
ニッコリ笑う。

(この・・腹黒少年め)

リンクはまたも網を辿り、答えの紙をめくる。

「・・・・・ベッドです」
「ああ、よかったぁ!」

ホッと胸を撫で下ろす。

「なぁ、マジでイカサマなし?」
「アハハ、ラビったら。その赤毛、目にも鮮やかな血の色に変えてやりましょうか?」
「ジ・・ジョークだってばさ」
「僕も冗談ですよ」

やだなぁ、と笑いラビの背中をポンと叩いた。

「では・・次は」

三人に緊張が走る、確率は三分の一だ。

「あの・・」

マオサが手を上げて。

「時間もないですし、三人いっぺんにやりませんか?」
「いっぺんに?」

リンクが軽く眉を上げた。

「おい、そろそろミランダ戻ってくんじゃね?」

ラビが心配そうに手洗い場の様子を窺う。

(それは、まずいな)
「わかりました。急ぎましょう」

リンクは残る二人を見ながら、紙を中央へ置く。

「じゃあ各々が、自分の答えを当てて下さい。行きますよ」
「はい」
「・・・」

三人の男が真剣な面持ちで、あみだを辿る姿はある意味シュールだな・・。
アレンはさっきまでその一人だった事は忘れて、安全な所からそれを見ていた。

その時、

「みなさん、何をしているの?」
「!」

背後から聞こえた声に、アレンは目を見開いた。

「ミ、ミランダさん?」

手洗い場はアレンの視線の先にあるから、ミランダの声が背後から聞こえるはずがない。

「あ、あれ?ミランダさん手洗いに行ってたんですよね?」
「それが・・迷っちゃって、結局グルグル回ってたみたいなの」

はあ、とため息をついた。
なぜ歩いて数歩の所で迷うのか・・。

同じ迷子体質のアレンでもその点は理解に苦しむ所だが、今はそれよりも、ミランダにあみだ籤の目的を覚られない事にある。

「えーと・・部屋割をどうしようかって決めてるんですよ」
「部屋割?」
「あ、ミランダさんはお一人ですから安心して下さいね」
「あ、あのねアレンくんその事なんだけど・・私も考えたのよ」
「?」

アレンは首を捻りながらミランダを見るが、あみだの勝負が決まったようで、視線を向けると予想通り、リンクがうなだれて悔しそうに紙を握り締めていた。

「あら?ハワードさん・・どうしたのかしら」
「いえ何でもないですよ、それよりミランダさん何を考えてくれたんですか?」

話を戻し、ニッコリ笑う。

「あ、あのね・・私の部屋二人部屋でしょ?一人で使うのもったいなくて」
申し訳なさそうに呟いて、小さくため息をつく。

「そんな、女性なんですから当たり前じゃないですか」
「ううん、それでね・・」

ミランダが何か言おうとした時、ラビが

「おお、ミランダ戻ってたん?用意がいいなら部屋行こうぜ」
「ええ、それでね部屋割ならやっぱり・・」
「ああ、ミランダは一人で使って大丈夫さ」

ぽん、と肩を叩きながらミランダに笑いかけると、階段をちょいちょいと指さした。

「いえ、だから私ならハワードさんと・・」
「あ!リンク、お前はやっぱアレンと一緒だろ?」

ラビは振り返りリンクに聞いた。

「・・・・・・」

リンクは答えるのも面倒そうに軽く頷くと、握りしめた紙をごみ箱に投げ捨てた。

「オレも一緒だからよろしくな!」
「・・・騒がしいのは勘弁してください」

ムッとしてそれだけ告げると、ミランダへ体を向けて。

「お疲れでしょう、大丈夫ですか?」
「あ・・あのハワードさんよければ、ですが」
「・・?」
「私の、部屋にいらっしゃいませんか?」
「・・・・・・は?」


ポカンとした顔で、ミランダを見る。

ミランダの言葉はリンク以外のメンバーも度肝を抜いたらしい、その場にいる全員が動きを止めて、二人に目を向けた。

「ミ、ミランダさん・・何言ってんですか?分かってます?」
「そうさ、部屋に誘ってるって・・誤解されてもおかしくねぇぞ」
「そうです!付き合っている男ならいざ知らず、リンクですよリンク!」

引き攣った顔でミランダを見るが、当の彼女は不思議そうに。

「えっ・・?だ、だって・・」

リンクをちらと見て、恥ずかしそうに頬を染めると

「私たち・・恋人ですよね?」





「・・・・・・・え?」

「・・・・・ええ?」

「・・え?ええ?」


「ええええええぇぇっ!!!!」

思わず叫び声を上げるリンクに、

「ちょっ・・なんでリンクが1番驚いてんさっ」
「そうですよ!僕等こそ叫びたいですよっ」
「そ・・・それは」

顔が真っ赤になりながらミランダを見ると、

「で・・ですよね?」

やや不安な顔でリンクを見上げていて。

「・・・・で・・です」

それだけようやく呟くと、ふらりと二、三歩後退りした。

「う、嘘だ」
「冗談キツイです・・」
「な、なんでリンクなんさ・・」
「か、考えられない・・」

衝撃ゆえに、四人の男達が身動き一つ取れずその場に立ち尽くすなか、

「み、みんな・・ど、どうかしたの?」

周囲の緊張が分からないミランダは、オロオロと不安げにリンクを見ている。リンクはめまぐるしく働く脳細胞をなんとか落ち着かせ、ゲホンゴホンと咳ばらいすると、

「ぃ・・い、行きま、しょう」

震えながら、ミランダの背を押した。




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