D.gray-man T




「・・それより、リンクは大丈夫ですか?」
「そうさ、知らねぇぞ鼓膜破れても」

リンクは、フフッと笑うと

「だから何です?」
「へ?」

「鼓膜は少々破れても再生するんですよ」

「は?」
「ちょっ、リンク何言ってるんですか?」

三人が顔を引き攣らせてリンクを凝視した。リンクはハッとしたように口をおさえ、

「ま・・まあ、そういう事なので心配してません」

ごまかすように、咳ばらいを一つした。ラビは胡散臭げにリンクを見て、

「もしかしてさぁ、リンク・・ちょっとそれ狙ってる?」
「え?何、どういう事よ」

リナリーが首を捻る。

「だって、もしミランダが耳掃除でやらかしたらさ、あの性格ならリンクほっとけなくね?」

頭を掻いて、ちらっとリンクを見た。アレンはピンときたように頷く。

「なるほど、ミランダさんを独占できますもんね」
「まあ、医療班の技術ならたいしたことないわね・・」
「なっ・・わ、わたしは別に・・!」

リンクはテーブルをドン!と叩くが、その顔は真っ赤になっていて、彼の考えを物語っていた。

「なんつーか・・捨て身?」
「ある意味、姑息ですけどね」
「て言うより・・哀しくない?」
「う、うるさいっ・・!」

リンクはキッ!と三人を睨みつけるのだった。






師匠の用事が終わり、その科学班からの帰り道。聞き覚えのある心音に、マリは歩みを止めた。

「ラビ?」
「うぃーっす」

ども、と軽く手を上げて。廊下の壁にもたれるように立っていたところを思うと、どうやら自分を待っていたらしい。

「どうかしたのか?」
「あー、なんつーかさ」

頭を掻いて、

「マリさぁ、ミランダの『お願い』断ったろ?」

一瞬、何の事か思い当たらなくて怪訝な顔をすると、ラビは曖昧に笑いながら

「ほら、耳掃除」
「・・な、なぜそれを」

マリの顔が赤くなった。

「その流れで、メンドクサイ事になってきたのをお知らせにきたんさ」
「なに?」
「いやまあ、オレらの言い方もアレだったかもしんねぇけど」

独り言のように、呟いて。突然、姿勢を正すと、

「その耳掃除をリンクが志願いたしましたっ」

ビシィと敬礼する。

「は?」

訝しげに眉を寄せた。

「いや、ハハ・・リンクって、ある意味スゲェよな」
「・・つまり、ミランダがリンクに耳掃除を?」
「練習台さ、オレらも頼まれたけど・・すんませんとお断りしました」

両耳を押さえた。

「・・・・・」
「すべてはマリの為だろ?愛されてんじゃーん」
「・・・耳掃除、するのか」

マリは複雑な顔で、頭を掻いた。ミランダの気持ちは嬉しいが、やはり耳掃除をしてもらうのは・・怖い。
しかし、彼女の気持ちを考えれば、そこは受け入れてやるべきなのかもしれない。

(リンクが・・・)

苦い顔で、その彼を思う。以前からミランダへの好意を隠そうともせず、二人が恋人同士になってからも、殺意のこもった視線をマリに向けていた。

ミランダにリンクの耳掃除をするな、と言うのも明らかに嫉妬しているようだ。
自分は断ったくせに・・という思いもある。

(・・・・・)

難しい顔で考えていると、

「そろそろ・・談話室ではじまるかな」

ラビが時計を見た。

「・・・そうか」
「いいの?」

ラビが顔を覗き込む。

「・・それは・・」
「マリ、思いつかねぇ?」
「何がだ?」
「耳掃除と言えば、もいっこ大事なアイテム忘れてんだろ」
ラビがニヤ、と笑
ったのを感じた。

「アイテム?」

マリの鼻先にビシ、と指をさして。

「ひ・ざ・ま・く・ら!」

「!?」

雷に打たれたような衝撃が、体を駆け巡る。

(なんてことだ・・)

咄嗟に頭を手で押さえ、そんな大事を失念していた自分に腹が立った。

「談話室だな?」
「おう、まあでもアレンもいるから二人っきりじゃ・・あっ、おーい!」

話の途中で駆け出したマリに、ラビは気のない声で呼びかけつつ、これから起こる事態を想像して、不謹慎にも顔は笑っていた。




リンクとアレンが談話室室へ行くと、ミランダは待ちかねたように扉を開けた。

「あの・・私なんかの為に、ごめんなさいね」

リンクとアレンに笑いかける彼女の頬は、
バラ色に染まり、声はいつもより弾んで聞こえる。

「いえ、お待たせしましたか?」
「いいえ、ちっとも」

首を振って、談話室に招き入れる彼女の背後に、既に耳掃除の道具がセットされてあるのを見て、リンクの胸はときめいた。

(わたしのために・・)

厳密に言えばマリの為なのだが、リンクの脳内では自動変換される。背後にいるアレンは、醸し出されるピンクのオーラに、リンクの考えが手に取るようにわかって、乾いた目で曖昧に笑った。

「あの、宜しければ・・これをどうぞ」

リンクが手土産のチョコレートシフォンを差し出すと、

「まあ・・すいません」

ミランダはにっこりと笑って受け取る。

「ハワードさんのケーキ、とっても美味しいから。ねぇ、アレンくん?」
「そ、そうですね」

突然の振りに、やや驚きながらアレンは笑顔で返した。リンクは軽く咳ばらいをしながら、

「その・・・それで、どうしたらよろしいですか?」

ほんのり染まった頬で、聞く。
アレンはミランダからチョコレートシフォンの箱を受け取りながら、隅の長椅子へと移り、リンクの邪魔にならないよう一人ケーキを食べ始めた。
色魔の師匠を持ったせいでこういった際、気配を消すのが上手い事に今更ながら自画自賛である。

ミランダは、耳掃除の道具をセットしたテーブルに手を添えて、

「では、ここでいいかしら?」

傍の長椅子をリンクに勧めた。

「は・・はい」

カチコチと、緊張から硬い動きで長椅子へ腰掛けたが、ふと。ある疑問を思い付いて再び立ち上がった。

「あの・・」
「はい?なんでしょう・・」
「その・・わたしはどういった体勢をとればいいでしょうか」
「・・・」

ミランダはきょとん、と不思議そうにリンクを見て。長椅子に自分が腰掛けると、スカートを軽く整えて

「どうぞ」

膝を軽く叩いた。

「は・・」

一瞬、何の事か理解できず怪訝な顔をしたが。次の瞬間、リンクの体に電流のようなものが走り抜けて、その意味を悟った。

(ま・・まさかっ)

これが噂に聞く

(ひざ枕・・!?)

あまりの衝撃に、微動だにできず。リンクの視線はただ一点、二山の聖域に注がれている。

(こ・・こんな)

耳掃除に、オプションでひざ枕がついてくるとは。

(い、い、いいのだろうか)

ゴクリ生唾を飲み込む。

「ハワードさん?」
「はっ、はいっ」

上擦った声で返事をして、リンクは恐る恐るミランダの横へ腰掛けた。
ぎゅう、と膝の上で拳を握りしめ。

「しし失礼しますっ・・」

そのまま、倒れるようにリンクの頭はミランダの太股に沈んだ。

ふにゃ。

(!!)

あまりの柔らかさに、ビクリと震え。反射的に顔を上げると、そこで見たのはヒマラヤ山脈の如き、聖なる山。

ミランダの胸だった。






「きゃ、きゃあああっ!!」

ミランダの叫び声に、アレンは口の中のケーキを吹き出しそうになり、驚いて、背後の二人を振り返った。

「ミランダさ・・えっ?」

アレンが見たのは。
ミランダに頭を抱えられた状態で、のぼせたような赤い顔に鼻血を垂らしている・・

「リ・・リンク?」
「どどどうしましょうっ・・と、突然っハワードさんっ」

ミランダはハンカチでリンクの鼻を押さえている。リンクは意識が朦朧とした様子で、ミランダの腕の中にいた。
アレンはため息をついて、頭を押さえながら

(情けない・・男の子でしょう?・・リンク)

「どうしたんでしょうね、具合でも良くなかったのかなぁ」

アハハと笑って、ミランダの腕からリンクを肩に担いだ。

「具合?わ、私のせいかしら・・無理言っちゃったから、あの・・」

青い顔で、オロオロと泣きそうになりながらアレンを見る。アレンは首を振って、頬を掻くと

「いやー・・というより元気が良くなっちゃったんでしょ」
「え?」
「あ、いやいや・・なんでもありません」

手を振りながら、天使の微笑みを見せた。


「ミランダっ・・どうした!」

ガタン!と勢いよくマリが談話室に入って来たので、ミランダは驚いて目を見開く。

「マ、マリさん?」
「今、ミランダの叫び声が聞こえたが・・」

マリは、室内を確認するようにヘッドフォンに手をあてた。

「あー、大丈夫ですよ、マリ」
「?・・アレンか」

まだ緊張が取れずに、マリは厳しい顔でアレンを見る。アレンは、よっこいしょ、とリンクを担ぎ直して。

「どっちかと言えば、危険はなくなりましたから」
「なに?」
「じゃ、僕はリンクを医療班に連れていきますね。では失礼しました」

ニッコリ笑って、扉を閉めた。



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