D.gray-man T






ざわざわと、周囲が二人に注目しているのが分かる。ジョニーがやや心配気味に

「なんか、飲みくらべの勝負やるみたいだね」
「へぇ、おもしろそうじゃん」

キャッシュがビールを飲み干し、ミランダの様子を窺うと、ミランダは真っ青な顔で、マリを見つめていた。

「何、どした?そんなに心配かい?」
「え・・えっ、だ、だって・・」

テーブルの上に置かれているのは、火酒・テキーラだ。強いアルコールで喉をやられないよう、塩やレモンを舐めながら呑む酒。

(・・・・・・)

『あまり・・強くないんだ』

マリの言葉が頭を過ぎる。

(マリさん・・大丈夫かしら・・)

止めた方がいいのではないだろうか、そうは思っても、誰があのソカロを止める事ができよう。

(で、でも、なんでこんな事に・・?)

オロオロして、不安から動悸が治まらないでいると、ミランダの存在に気付いたように、マリが振り返った。

(!・・マリさん)

マリは何かを伝えるように小さく頷くと、見えない瞳でミランダを捉えて、そっと微笑んだ。

(え・・?い、今の・・もしかして・・)

ざわめく胸をミランダは押さえる。

(助けを、求めている・・?)

『恥ずかしいから、内緒だぞ』

そうだわ。

(マリさん・・お酒苦手なの知られなくないんだわ・・!)

だから自分なんかに助けを求めているのだ。

「・・・・・」

ミランダが深く頷くと、マリが安心したように目を伏せる。

(やっぱり!)

ギュウとスカートを握りしめて、

(な、なんとかしないと・・!)

周囲の様子を見るが、皆この状況を楽しんでいるようで、あまり側には寄らないが、近付いたり立ち上がったりして、注目している。

(誰も・・止めてくれそうな人は、いないみたい・・)

ソカロが小さなコップにテキーラと炭酸を入れると、口手をあててテーブルにたたき付け、そのままマリに差し出した。

「ショットガンかぁ・・ありゃ大変だわ」

キャッシュが苦笑いする。

「ショットガン・・?」
「ん?ほら、ああやって炭酸入れたテキーラを振るだろ、手で蓋して渡されるからそのまま一気呑みしないと服にこぼれんの」
「えぇっ・・!い、一気に?」
「あれねぇ、テキーラが無くなるまで続くから・・ほぼエンドレス」

キャッシュは手を合わせた。

(ど、ど、ど、どうしましょう!)

あんな強いお酒、一気呑みだなんて。ミランダの顔がますます青ざめて、立っていられずテーブルに手をつく。

(そ、そうだわ・・)

ふと、ある人物の顔が浮かんで周囲を見回した。

「いない・・・」
「何?なんか言った?」

ミランダはキャッシュの胸元をギュウ、と掴むと。

「ク、ク、ク、クラウド元帥って・・います、よね?」
「へ?さぁ・・任務じゃないだろうけど・・」

ミランダはそれだけ聞くと走りだし、食堂から出て行った。キャッシュは呆気に取られながらも、

(科学班行きゃ、無線ゴーレムで居場所分かるって・・・)

「ちゃんと・・分かってるよね?」

頭を掻いた。





任務の報告を終えて、神田は時計を見た。

夜の11時。舌打ちをして、ため息をつく。

(さすがに、蕎麦は無理だな・・)

今回の任務は山奥だった為まともな食事が取れず、丸二日近く神田は何も胃にいれていない。

(・・残ったパンでもありゃ、それでいいか)

くたくたに疲れているし、何か腹に入れてとっとと寝よう。
そんな事を思いながら食堂付近まで歩いていると、この時間には考えられない喧騒に、神田の足が止まった。

入口から窺うと、奥の席に人だかりが出来ているのが見える。ぱっと見たところ科学班の面子が多いから、定期的に行われる飲み会か何かだろう。
正直、普段から人が多いところは嫌いだ。
とくに疲れている時に、酔っ払いに話し掛けられるのは最も腹立たしい。

(ツイてねぇ)

舌打ちして、踵を返した時。

「おお!マリ、すごい」

聞き捨てならない名前に足を止めた。

(マリ・・?)

眉間に皺をよせて、もう一度入口から、食堂を窺った。よく目を凝らすと、マリは奥の人だかりにいるようで。

「・・・・・?」

別に神田にとって、マリがいようがいまいがこの場に留まる理由にはならない。
しかし自分の知る限り、兄弟子はこういった集まりには介抱役で参加はすれど、人だかりの中心になって何かをするタイプの男ではなかった。

時折聞こえるコップでテーブルを叩く音や、ひと呼吸置いて聞こえる控え目な歓声。

(何だ?)

迷いながらも足を踏み入れてしまったのは、任務の後で疲れていたからかもしれない。
人だかり、といっても人数にすれば5、6人で。それも科学班でよく知る顔なじみばかりだった。

神田が少し離れて様子を窺っていると、背後から肩を叩かれる。

「神田、帰ってきてたの?お帰り」

ジョニーがいつもの人懐っこい笑顔を見せた。

「おい、なんだありゃ」
「ん?ああ、なんかねソカロ元帥と飲み比べ勝負らしいよ」
「飲み比べ・・?」
「いやぁ、でもビックリしたよ!マリって強いんだね〜テキーラもう二本目だよ」

ジョニーが感心するように肩を竦めると、

「・・・・」

神田は何かを考えるように口に手をあて、ぽつり、呟いた。

「あいつ・・・呑めねぇぞ」
「え?」
「んなこと、言ってた気がする」

たしか、と独り言のようにこぼして。

「えっ?ええっ・・でもっ、だって」

ジョニーは急にオロオロとしだして、

「じ、じゃあ止めないとっ・・」

神田の腕を掴んだ。

「つっても、自分で呑んでんだろ・・知らねぇよ」
「そ、それはそうだけどさあ」

マリは酔った様子もなく、ソカロから渡されるまま酒をあおっている。どう見ても酒が呑めない人間とは思えない。

(何やってんだ・・あいつ)

神田は厨房へと足を運び、残りものらしいフランスパンを手に取った。
ため息をつきつつ兄弟子の様子を見るが、正直面倒事に巻き込まれるのは御免である。くるり、踵を返した時。

ちょうど、入口から誰かが入ってくるのが見えた。

「ずいぶん、賑やかだな」

クラウドが風呂上がりらしく、洗い髪を軽く纏めて歩いてくる。

「めずらしいな、マリがソカロと呑んでいるのか?」

ビアサーバーを見つけて、ジョッキに注いだ。

「あれ?元帥、一人?」

意外そうに、キャッシュが声を上げる。

「ん・・?ああ、ビールを呑みに来ただけだからな」

喉を鳴らしながら呑み出した。

「ミランダに会いませんでした?」
「?・・」

口元を拭いながら

「ミランダが、どうした」
「いや、さっき元帥の居場所聞いて出てったから」
「・・それは、いつの事だ?」

キャッシュが時計を見る。

「えーと・・1時間くらい前?」
「・・知らんぞ」
「えっ!じゃあ、どこ行ったんだろ」

クラウドが、神田を見た。

「おい、科学班にミランダいたか?」
「あ?知らねぇよ」
「・・・・・・」

ビールを呑みながら、つかつかと歩いていく。

「おい」

ソカロとマリのテーブルに飲みかけのビールを置くと、

「ミランダが、また迷子だぞ」

マリが呑もうとしていた『ショットガン』を奪って、一気に飲み干した。

「クラウド、元帥・・?」
「捜しに行ってやってくれないか」
「あ〜ん?なんだぁ、こっちはこれからなんだぜぇ」

仮面の下から鋭い眼光が覗く。

「・・ラウ」
「キキッ」

クラウドの肩にいたラウ・シーミンがテキーラの瓶を奪った。

「おい、何すんだ」
「誰もが、貴様のような限界知らずではない事を学んだらどうだ」

腕を組んで、睨み付ける。

「あん?何言ってやがんだ」
「わからんならいい。おいマリ、もういいぞ」
「は・・し、しかし」
「こんな所にいるより、ミランダを捜してやれ。そろそろ1時間になる」

マリはソカロを見て、戸惑いながら

「その・・宜しいでしょうか」

ソカロはラウ・シーミンから瓶を奪い返し、クラウドを見て舌打ちすると、

「・・続きはオメェが付き合えよ」
「ふん、いいだろう」

婉然と微笑んだ。ソカロはマリを手で払いながら

「ティエドールによく言っとけよ」
「は・・申し訳ありませんでした・・」

立ち上がり一礼すると、マリはテーブルから離れた。



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