D.gray-man T






食堂の喧騒が遠くなり、修練場へと続く長い廊下へ出ると、ようやくリナリーは、神田の腕を放した。

「その・・ごめんね、神田」
「いてぇんだよ、っとに馬鹿みてぇな力で引っ張りやがって・・」

舌打ちしながら腕を摩り、じろとひと睨みして。スッと親指と人差し指を出すと、リナリーの額にでこぴんをした。

「っ!?・・いたいっ!」
「人をだしに使うんじゃねぇよ」
「わ、悪かったわよっ・・あーもうっ!いたいっ」
「んなチマチマあの馬鹿から逃げてどうすんだよ、阿呆か」

リナリーは図星をさされて顔が赤くなる。

「なに・・か、神田ってば気付いてたの?」

神田は、大きくため息ついて

「・・オメェら、一遍死んでこい、何をいまさら・・いっとくが、俺を巻き込むんじゃねぇぞ、色ボケは身内に一人いりゃ充分だ」
「色ボケ?・・ああマリね。なんか巻き込まれたの?」
「うるせぇ・・いいか?絶対、巻き込むなよ」

その言い方になんだかムッとして。

「そこまで言うと巻き込まれたいんじゃないの〜?」

からかうように言うと。

「おいコラ、今度は額に穴開けてやろうか?」

また、でこぴんされそうになったので慌てて額を押さえた。

「・・わ、わかったわよっ」

ぷいとそっぽを向く。

「・・・・」
「な、なによ」

神田は舌打ちして、何やら面倒そうにため息をつくと

「らしくねぇだろうが」
「え・・?」
「あの馬鹿ごときに、何をジタバタやってやがる」

リナリーがぱちぱちと瞬きをしながら。

「神田・・大丈夫?熱あるんじゃない?」
「あ?なんだとコラ」

すかさず指をでこぴんの形にもっていくので、慌てて首を振った。

「ごめんごめん!冗談だってば」
「ありがと、神田・・」
「チッ」

忌ま忌ましげに舌打ちして。神田はそのままリナリーに目を向けず、修練場へと歩いて行った。

(逃げてどうすんだ・・・か)

わかってるわよ・・でも、ラビの顔を見ると・・・

こんなに顔が熱くなってしまう。

ああもう。

こんな風に避けていても仕方ないのは、分かっている。このままでは、二人きりの任務でもあったら大変だ。

(ちょっと前までは、うまくごまかせていたのに・・)

口を尖らせる。
最近はもう、思い出すだけで胸が苦しくて、ため息がもれてしまう。

顔を見れば、赤くなり。話しをすれば、支離滅裂になってしまう。

(だからって・・)

ふと、食堂での事を思い出した。
あんな態度では、ラビに嫌われてしまうのではないか。もっと普通に接したいのに意識しすぎて、あれではラビに不審に思われても仕方ない。

リナリーは修練場の道を引き返し食堂へと歩いていたが、まだラビがいるかもしれないと思い、足が止まった。

(こんなに自分が弱虫だと思わなかった)

なんだか泣きそうな気持ちになって俯いていると、誰かの足音が食堂の方から聞こえて、リナリーは顔を上げた。

「リナリー!」

足早にこちらへ向かって来るのは、赤い髪の彼。

「!!」

心の準備が間に合わず、リナリーの顔が真っ赤に染まる。
顔を隠すように押さえて、リナリーはラビから背を向けると、慌てて近くの部屋へと逃げだした。

そこは修練用の武器や防具などを収納する小部屋で、リナリーは咄嗟にこの部屋へ入った事を後悔した。暗く狭いこの場所は逃げ場がないから、このままではラビと二人きりなってしまう。

「ちょっ!リナリーどしたん・・」

案の定、ラビはリナリーを追って部屋へ入って来て、リナリーはムッとした顔を作ってラビを見た。

「どうしたのよ、ラビ」
「それはこっちの台詞さ、リナリーなんで逃げんだよ」
「はあ?な、なんで逃げなきゃならないのよ」

軽く片眉を上げて、腕を組む。

「わ、私は・・この前忘れたダークブーツ用の強化靴下を取りにきたのよ」
「・・強化靴下・・?」

怪訝な顔で見る。

「ラビこそ・・何しに来たの?」

探すふりをしながら、ラビから背を向けて聞いた。

(薄暗い部屋で良かった・・)

顔が赤いのが、バレずに済むから。

「・・・・・」

ラビは防具の棚に背をもたれると、ため息をつくように。

「なあ、リナリー・・嘘はやめようぜ」

そのラビの言葉にリナリーはドキリとして、手を止めた。

「・・なにがよ」

振り返る事なく、静かに応える。
背後から足音が近づいて来て、リナリーの真後ろにラビの気配を感じた。

「そのさ・・なんか悩んでたり、する?」
「は?」
「いや・・最近リナリー変だから」

声が、頭の後ろから響く。今、絶対振り返れない。

(きっと、私・・ヒドイ顔している)

「・・何も悩んでないわよ」
「・・・・・・」

ラビのため息が聞こえた。

・・呆れられちゃった?

可愛いげないわよね、私。前みたいに、笑ってなんでもないって言わないと。

(でも)

目をキュ、とつむる。

緊張しちゃう。ドキドキしてどうしようもないよ。今、顔を見られたら・・絶対気付かれちゃう。

「・・・なんで、そんな泣きそうな顔してんの?」

ラビが覗き込むように、リナリーの顔を見ていた。

「!」

ハッとして、慌ててラビを押し退ける。

「な、なによっ・・あっち行ってったら・・」
「リナリーがそんな顔してんのに、俺がほっとける訳ねぇさ」

優しい声で頭をぽん、と叩かれた。

「・・・・・やめてよ」
「んん?」
「・・やめてったら・・」

頭に置かれた手を退かす。

「リナリー・・?」

ラビは困ったように頭を掻いて

「なあ、俺・・リナリーになんかした?」
「・・・・」

首を振る。

「じゃあ・・最近、なんで俺だけに冷てぇんさ?」
「冷たくなんて・・・」

「リナリーに嫌われたかと夜も眠れなくて、食事も喉を通らなかったさ・・」

大袈裟にため息をついた。

「そういうの、やめてよ」
「・・そういうの・・?」
「そうやって・・気があるみたいに言わないでっ!」

リナリーの声が狭い部屋に反響して、口を閉じた後も音が耳に残った。

「リナリー?どした・・」

ラビが心配そうに顔を覗き込むと、逃げるようにリナリーは顔を背ける。

「だから!やめてよ、そういうの」
「リナ・・」
「そんな事されると、誤解しちゃいそうなのっ!」
「誤解・・」
「ラビは軽い気持ちかもしれないけど、のせられて本気になる私は馬鹿みたい!」

近くにあったグローブを投げ付けた。ラビの驚いた顔が目に入って、リナリーはハッと息をのんだ。

「ご・・ごめん・・」
「リナリー、なあ・・」
「わ、私もう行かないと・・」

ラビから逃げるように顔を背けたまま、出口へ向かうと、

「・・待てって」
「!」

ぐい、と手首を掴まれ引っ張られる。そのまま、倒されるようにして、気付くとラビの腕の中にいた。

「ラビ・・」
「あのさ、それって・・・」

一呼吸置いて、ゆっくりと。

「俺を・・好きって、聞こえるんだけど」

耳元で、囁く声にリナリーは顔が赤くなる。

「・・正解?」
「・・・・・」

迷って、困ったようにラビの肩に額をつけた。ぎゅう、と腕の力が強まるのを感じて

「正解・・で、いいんだよな?」

確認するように聞いてくるので、リナリーは観念したように小さく頷いた。

「リナリー」

額を擦り合わせるように、見つめ合うと、ラビは、今まで見たことないくらい嬉しそうに笑っていた。

大好きな翡翠の瞳が、いつもより少し潤んでいる気がして、リナリーは胸が痺れるように、熱くなっていく。

「・・・・・・・す・・好き」

震えがちに、囁いて。
リナリーはもう一度、ラビの肩に額をつけた。

「やべぇ・・ちょっ、嬉しくて震えてきた」

そんなラビに言葉を返そうとしても、声が出ない。リナリーもまた、同じく震えていた。うれしくて。

ラビはリナリーの髪に頬をあてて、

「・・俺は、はじめっからリナリー命なんさ・・好きすぎて、いつでも口に出さずにゃいられんのよ」

そう独り言のように言うと、まるで夢じゃないのを確認するみたいに、ラビはリナリーの体を強く、抱きしめた。





うららかな昼下がり。

「リナリーっ、ど、どこ行くんさ!」
「どこって・・神田に付き合って座禅しようかなって」

キョトンと首を傾げる。ラビは頭を抱えて

「だからーっ、なんでユウなんさ!俺でいいじゃん」
「つーか、テメェら来んなよ!帰れ!」
「なによ、冷たい神田!」

ぷうっと脹れると

「ダメダメ!そんな可愛い顔、他の男に見せない!」
「もうラビ、うるさい」

肩を竦めて、ため息をついた。







そんな様子を見ながら、双眼鏡を覗く男が二人。


「し、室長・・・大丈夫じゃないすか?」
「・・うーん、おかしいなぁタレコミの情報と違うなぁ」

情報ではラビとリナリーが恋人同士になったと、あったのだが。

「・・・・・・・」

コムイは肩から下げていたマシンガンを、一先ず下ろした。

「リーバーくん、まだ張り込みは続けるよ。はっきりシロと確定していないからね」

じゃ、よろしくと席を立ったので

「室長、仕事に戻るんすか?」
「ううん、こないだ作った盗聴機取って来るだけ」
「そ・・そっすか・・」

引き攣った顔で上司を送り出し、リーバーはため息をつきつつ、双眼鏡を構えた。



ラビの受難まで、あと1時間。










End

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