D.gray-man T
耳をすませば・・
今回の任務は、空振りだったな・・・
マリは、任務報告のため室長室でコムイを待っていた。
共に任務にあたっていた神田は、コムイが遅いため痺れを切らしたようで先に食堂へいく、と消えた。
(しかし、遅い、な。)
マリはかれこれ1時間以上待っていた。出直すことも考えたが、ここまで待っていまさら、という感もある。
(あまり、こういう事はしたくないのだが・・・)
マリは、教団内にいるコムイの声を拾おうと、耳をすました。 しかし、拾ったのはコムイの声ではなかった。
「ミス・ミランダ、少しよろしいですか」
リンクの声だ。
「あ、ハワードさん、こんにちは。なんでしょう?」
愛しい恋人の、ゆったりとした柔らかな声にマリの頬がゆるむ。
「実は、これをあなたに試食していただきたくて」
「まぁ!すごい・・とってもおいしそう」
「シャルロットポワールです、お口に合うかわかりませんが」
リンクの声音に、ミランダへの好意が滲み出ているのを、マリは感じ取った。
「この間の洋梨のタルトも美味しかったです、ほんとうにリンクさんてスゴイですね」
(ん?どういうことだ?前にもあったのか?聞いていないぞ)
気持ちがざわつく。そうしていると、違う声が聞こえた。
あれは、アレン。
「あれ、リンク何してるんですか?僕の事監視してなくて大丈夫なんですか?」
「!アレン・ウォーカー!・・わ、わたしは君の手洗いを待っていただけだっ」
「やだなぁ、リンク。とっくに終わりましたよ、いないから僕が探しちゃったじゃないですか・・
あ、ミランダさんこんにちは」
「こんにちは、アレンくん」
「あれ、ミランダさん何もってるんですか?」
「な、なんでもいいだろう!い、行くぞ!・・失礼、ミス・ミランダ」
リンクがアレンを引っ張って行く音が聞こえる。
(いいところに来てくれた、アレン・・)
うむ、と小さく頷く。
そのまま、ミランダがいる付近に耳をすます。
ミランダは急いでいるようだ。 走ってはいないが、歩き方がいつもより速い。転びそうで、聞いててヒヤヒヤする。
「あ、ミランダ!」
この声は科学班のロブだ
。
「は、はい。あ、こんにちはロブさん」
びっくりしたのか、ミランダの心音が上がった。 ロブはなにやらごそごそとポケットを捜して
「これ、この間街にいってきたからミランダにあげようと思って」
「まぁ・・」
「ラベンダーの香り袋、眠れない夜に枕元に置いておくといいよ。ラベンダーの香り、大丈夫だった?」
「大丈夫です・・ありがとうございます・・すごく、嬉しいです」
ミランダは感激したように、声は震えていた。
(ちょっとまて・・ミランダ、その反応では相手が誤解するのではないか?)
マリは焦る。
「そんなに喜んでくれると、こっちも嬉しいよ」
案の定、ロブの声から期待のような、自信のようなものが滲んだ。
「それで、その・・ミランダ、今度ゆっくり食事でも、どうかな・・」
マリは全身の血が引いていくのを感じた。ミランダの返事に耳を集中させる。
「はい。素敵ですね」
(な・・なに!?)
「そ、そうか?じ、じゃあ来月、どうかな」
ロブは興奮を抑え切れない。
「はい!じゃあ、みんなに聞いてみますねっ」
「みんな・・?」
「えっと、新しい人達とまだまだコミュニケーション、とれずらいですものね、中央庁の方達も・・」
「・・・・」
「引っ越してちょっと時間たってしまったけど、親睦会ですか?すごく素敵だと思います」
ミランダの声は一点の邪推もないようだ。
「じ、じゃあ科学班にはオレが聞いてみるよ」
哀れ、ロブの声は明らかにトーンダウンしている。マリは同じ男として、ロブの気持ちを思い遣やり、心の中でそっと眦を拭った。
(しかし・・まったく・・危ないところだ、心臓にわるい)
ミランダとロブはそのまま別れたらしく、ジョニーがロブを呼ぶ声がした。
「ロブ、どうだった?渡せたの?」
「・・渡せた、けど」
「?どうしたんだよ、落ち込んじゃって・・」
「ハァ・・・別に」
「渡せたんなら良かったじゃないか、ここ数日張ってたんだろ?マリが任務の間にって、頑張ってたんだから」
「そ、そうだな」
「やったな、ロブ!」
二人のやりとりに、マリは頭痛がしてきたのだった。
マリとミランダの関係は恋人同士であるが、とくに公言もしていなかった。秘密にしていたわけではないが、とくに言う必要もないと思っていた。
(・・自分がいない間にミランダに悪い虫が寄ってくるのをセーブせねばな)
それにしても、こんな様子では心配で任務に行くのも辛い。自分がいない間、牽制するものがないので恐らくいつもこんな状態なのだろう。
そう、マリは任務に出ていないときはなるべくミランダに注意を向けているので、まわりもそれがわかるのだろう。
マリはまたミランダのいる付近へ耳をすます。 また、誰かに声をかけられているようだ
マリは少しムッとする。
(むぅ・・・誰だ)
「ミランダ、どこいくんさ?」
ラビだ。マリは咄嗟に腰掛けていたソファーから立ち上がる。
ラビは、まずい。 普段からミランダにたいして好意を隠すこともない。
それでもマリがいる時は「なーんちゃって」などとごまかすが、いないとなると・・・。
マリはミランダのもとへと駆け出した。
その時
「いや〜、ゴメンゴメン!ずいぶん待たせちゃった?」
(コムイ・・!)
報告のあいだ自分は恐ろしい顔でもしていたのかコムイの顔は引き攣っていた。報告はものの10分程度で済みマリは、はやる気持ちを抑え切れず室長室を出た。
すぐに耳に意識を集中する。
(ミランダ・・)
「マリ、さん」
すぐ傍らから、声がした。ふと、声の方へ向く。
室長室の入口で、ミランダはちょこん、と立っていた。
「お帰りなさい、お疲れ様でした」
彼女がふわん、と笑ったようで空気がほぐれる。マリも自然に笑顔になる。
「ただいま、ミランダ」
10日ぶりの再会。
「マリさん、ケガしてないですか?」
「大丈夫だ。ミランダは、ちゃんと眠れていたか?」
「・・は、はい大丈夫です」
彼女の声音ですぐ嘘がわかってしまう。
マリが任務の時はいつも、心配で眠れないことをマリは知っていた。
彼女の手にはリンクからもらったケーキの箱と、ロブからもらった香り袋。そしてなぜか、ラビのバンダナが真っ二つになって、あった。
「ミランダ、これは?」
ラビのバンダナに手をやる。
「あ、さっき廊下でラビくんに会って、お話してたんですけど・・」
「・・・」
「手相、っていう東洋の占いをしてもらっていたら・・神田くんがちょうど通って・・」
(手相・・・ラビめ・・。)
「なんだか神田くんがラビくんに怒っていて、それで・・・」
バンダナの切り口に触れると、見事な斬り口だ。
(六幻を抜いたのか・・)
「バンダナは落ちていたので、直してあとで届けようと思って・・」
「そ、そうか。」
「あ、そういえば神田くんからマリさんに伝言があったんだわ」
「?」
「『紐でもつけとけ』って言ってました」
どういう意味なのかしら、とミランダが呟いたがマリは神田の意図することがわかり、苦笑した。
弟弟子なりに、心配してくれたのか。神田はああみえて敏感なところがある。
自分とミランダの関係も知っているのだろう。
ふぅ、と小さく息を吐き、マリはミランダの手荷物を片手で持つ。
そしてもう片方の手で、ミランダの手をつないだ。
(紐、というわけではないが)
「さ、部屋まで送ろう」
「は・・・は、い・・」
ミランダの手は熱い。緊張が、指先につたわる。 その様が、さらに愛しい。
(せいぜい見せ付けて歩くか、科学班、食堂、あと・・)
考えると愉しい気持ちになっていった。
「マリさん?どうかしたんですか?」
知らずに笑っていたらしい
「いや、なんでもない」
「今日は、このまま一緒にいようか・・」
ミランダは返事をするように、キュ、と一度。強めに手を握った。
関係ないが、この日からコムイがエクソシストの報告には急いでかけつけるようになったという。
end
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