D.gray-man T






もう、胸の鼓動がおさまりそうにない。

リンクはミランダから貰ったハンカチを、口もとにあてる。

これは期待してもいいのだろうか・・・。
目の前の彼女は、ハンカチを渡せてホッとしたようで、リンクのケーキに舌鼓をうっている。

(恋の女神が、微笑む)

二人っきりのこの空間。甘いケーキに彼女好みのお茶。
そして、彼女自ら刺繍したこのハンカチ・・。

想いを告げるのに、こんな完璧なシチュエーションはないだろう。リンクはゴクリ、喉を鳴らして口を開いた。

「あの・・・」
「ごちそうさまでした、とっても美味しかったです」

ミランダがニッコリ笑って、カップをソーサーに戻した。

「そ、そうですか」

出鼻をくじかれてリンクは焦るが、何とか立て直す。

「その、ミス・ミランダ・・あなたに、お話が・・」
「は、はい。何でしょう?」

キョトン、とリンクを見つめる。

「その・・・私は」
(・・・あなたが・・)

目の前の、黒曜石のような瞳に見つめられて、胸の奥に甘い疼きがおきる


「あなたが・・・好き、です」


微かに声が震えてしまう。
答えが怖くて、逃げるようにミランダから目を逸らした。

「ハワードさん・・」
「・・・」
「私もです・・」

キュ、と手を握られて。リンクは弾かれるように、ミランダを見た。

今、なんて・・?

信じられなくて、まるで凝視するように彼女を見つめた。ミランダは嬉しそうに笑って

「・・私も、ハワードさんの事、好きです」
「・・ほ、本当に?」
「もちろんです、仲良くなれて・・すごく嬉しいです」

ほんのりと頬が染まるのを見て、リンクは体中の細胞が沸き立つのを感じる。
彼女の手をそっと、取ると、

「・・ミランダ・・」

恋人を呼ぶように、甘く囁く。

「これからも、よろしくお願いしますね、ハワードさん」
「もちろん、これからも・・」
「・・ハワードさんみたいな素敵な方をお友達にできて、本当に幸せです」

ミランダの瞳はキラキラと輝いて。

「・・・は・・」
「あの、それで・・今度お菓子作り、教えて下さると・・嬉しいんですが・・」

ポッと頬を染める。

「・・・・・・」
「あ・・やっぱり、ご迷惑ですよね・・すみませんっ」
「・・・・・い、いえ」
「ほ、本当に・・?」

恐る恐る窺う。
リンクは、まばたきをしばたかせながら、

「わ、私でしたら・・いつでも・・」
「ありがとうございます」

花が開いたように笑うので、リンクはもうそれ以上何も言えなくなってしまった。

「今日は、こんなふうにハワードさんとお近づきになれて・・とっても嬉しかったです」
「そ・・そうですか」
「タルト、とっても美味しかったです・・ごちそうさまでした」

ぺこりと頭を下げると、ミランダはティーポットとカップを持って、

「・・これ、食堂に下げてきますね」

そのまま頼りなげな足音とともに、彼女は部屋から出て行った。

リンクは力が抜けたように、椅子へと落ちる。

(・・・あれは、わざとではないよな・・?)

リンクの気持ちを知っての行動だとしたら・・あまりに高度なテクニックだ。恐らく・・天然なのだろう。

ぐったりと肩を落とすなか、ミランダからのハンカチを見ると。ふと、ある事に気がついてハンカチを開く。

(こ・・これは・・)

名前の『Link』が『Rink』になっているではないか。
脱力感から、リンクの額はテーブルに直撃した。




☆蟹座のO型の彼と山羊座のO型のあなたの相性☆

『相性確率95%

素晴らしい相性です!優しい彼は真面目なあなたを広い心で包んでくれるでしょう。
お互い相手を思いやり、信頼しあえるベストカップルになりそうです♪』

「おお・・ベストカップルだってさ、マリとミランダ」
「なんか、これには納得せざる得ないですよね〜」
「ほんとあの二人早く、くっついちゃえばいいのにね」
リナリーがため息まじりに呟いて、本を閉じると。


「ただいま戻りました」
「!!」

突然リンクの声に、リナリーは慌てて本を隠した。

「あれ、リンクどうしたんですか?」

トレードマークのほくろがある中央部分に、湿布が貼られている。リンクは不機嫌そうに眉間に皺を寄せて、ぷいとそっぽを向いた。

「また、ほくろぶつけたんですか?」
「おいおい、気をつけねぇと『:』が『÷』みてぇになんぞ」
「ぶつけたのは額だ!」

キッと睨みつける。
リンクはティーポットに入ってあるお茶をカップになみなみと注ぐと、いっきにそれを飲み干した。

「リンク・・?」
「どしたんさ?」
「何か、あったの?」
「何にもありませんっ」

カン、とカップを置いて鼻息をフン!と荒くした。
ハンカチをそっと見つめて

(・・・・)

望みがない訳ではない。
そうだ、こうやって誕生日の贈り物をくれたではないか・・ 。

(相性だって、80%だった)



(彼女の誕生日こそ・・勝負だ)
ぐ、と拳を握りしめた。



後日。

ミランダの誕生日に三段重ねのバースデーケーキがリンクより贈られて。
さながらウェディングケーキのような豪華さで、ミランダの目を奪ったが、添えられたカードに書かれていた、

『Howard・Link』

の『L』が心持ち大きかったのには、気がつかなかったようだ。





End

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