D.gray-man T





それは午後のお茶のひと時の事。

談話室に入ると、リナリーとミランダが楽しそうに談笑しているのを視認すると、リンクは胸の高鳴りを隠して、いつものポーカーフェイスを装った。

「リナリー、何読んでんさ?」

ソファーの上でリナリーは何か雑誌を読んでいて、ラビの声に顔を上げると、手にした雑誌の表紙を見せた。

「ん〜?」

怪訝な顔でタイトルを読む。

「・・星占い?・・『あなたの運命と相性診断』って・・」
「とっても面白いのよ」

ニッコリ笑って、ミランダを見ると

「今、ミランダと私の相性診断してたの」

ねーっ、と顔を合わせる。ミランダはハンカチに刺繍をしながら、リナリーに優しい微笑を返した。
そんな仕種に胸をときめかせながら、リンクは何気ない風を装ってミランダの近くへと寄って行く。

(・・・・)

そっと、刺繍の模様を確認するとどうやら花の模様を刺しているらしい。
彼女は不器用と聞いていたがその手際は慣れていて、流れるような手つきにリンクは目を奪われてしまった。

「星座かぁ・・僕は誕生日分かんないんですよね」

アレンが残念そうに呟くなか

「俺は8月10日のO型さ、どうなの?相性は?」

リナリーの本を覗き込むようにラビが聞いた。

「ラビは、獅子座のO型ね・・えーと」

リナリーがパラパラと頁をめくる。

「あら、私とは相性確率45%・・ミランダとは30%ですって」
「え、何その中途半端に悪い数字・・」
「ラビらしいオチじゃないですか」

ポン、と肩を叩く。

「つーか、舞台にも上がれない奴に言われたくねぇさ」
「はっきり分からないって事は未知数ですから、可もなく不可もなくよりははるかに夢があるじゃないですか」
「そう言われれば、そうかもね」

リナリーが納得するように頷いた。

「ちょっ、リナリー!?」

そんな会話を耳にしながら、リンクは眉をひそめた。
ローズクロスを掲げたエクソシストが、何を星占いなど。

(まったく・・)

非科学的で俗っぽい会話が馬鹿らしくて、こんなエクソシストに囲まれてミランダが感化されないか心配になる。

「あ、リンクは誕生日いつなんですか?」
「はあ?」

突然振られたので、リンクは間抜けな声を上げてしまった。

(!・・ミランダ嬢の前だった)

ハッとして、ごまかすように軽く咳ばらいをすると、つん、とソッポを向く。

「言う必要はありません」
「なんで?誕生日って隠す必要あんの?」
「リンク、年でもごまかしてんですか?」
「なっ、なぜそうなる!?」

キッと睨み付けると、ふとミランダの視線が自分をとらえているのに気がついた。

(・・あまり頑なすぎるのも、大人げないか)ふと思い直し。

「12月29日のAB型です」
「12月29日・・って」
「あれ?明日じゃないですか・・」
「え、なにリンクって明日誕生日なんか?」

リンクは片眉を吊り上げて

「だから何なんですか」

面倒そうに吐き捨てた。

「口が裂けても、誕生日おめでとうなどと言わないで下さいね、気持ちが悪い」
「そ、そうですか・・」
「お、おう」

(気持ち悪いって・・)

顔を引き攣らせる。

「え、えーと・・山羊座のAB型・・と」

リナリーが流れを変えようと頁をパラパラめくった時、何かに気付いたように、ふと顔を上げた。

「ん?」
「あら、ミランダと誕生日が3日しか違わないのね」
「!」

何気なく言った一言に、リンクは弾かれたようにリナリーを見た。

(何だと・・!?)

「まぁ、そう言えばそうね・・私が1月1日だから、3日違いですね」

ミランダが目を見開いて、リンクを見た。

(3日違いだと・・!?)

「しかも、ミランダとの相性も80%って・・すごい良いじゃない」

(なっ・・なにぃっ!)

すぐにでもリナリーの雑誌を奪いたい衝動に駆られたが、理性でそれを押し止めた。

「ほんとですか?リナリー読み間違えていませんか?」

怪しいなぁとアレンが雑誌を覗き込むが、

「・・・・ほんとだ」
「マジかよっ、つかこの本、あたんねぇんじゃね?」

納得いかなそうにラビが吐き捨てると、リナリーがムッとした顔で

「そんな事ないわよ!だって私とミランダの相性は完璧だったもの」

ぷいとソッポを向いた。
リンクは胸の高鳴りを抑え切れない。

(たった3日ちがいだと・・?)

しかも相性80%なんて・・緩む頬を抑えるように口に拳をあてる。

「・・・・・・」

ちら、とミランダを見ると彼女も何か考えるように口もとに指をあてていた。

(!)

奇しくも二人、口に手をあてるという動作をしていた偶然が、リンクの考えを後押ししていく。

(これは・・運命という奴なのか?)

以前から、なぜこんなにも彼女に惹かれるのだろうと、不思議に思っていたが自分と彼女の間には目には見えない、何か深い絆があるのではないか?

(・・・・・・)

リンクは目の端にその雑誌を確認すると、心の中でタイトルを復唱した。






『☆相性確率80%☆

とってもお似合いの二人です。二人とも真面目で相手を大切に想えるステキなカップル♪
ただ、彼の生真面目すぎるところがちょっぴり疲れちゃうかも!彼女のペースを大事にしてね♪

ラッキーカラー☆「白」』



(なるほど・・)

簡潔にまとめられているが読むほどに奥深さを感じて、リンクは深く頷いた。

「リンク?」
「!!」

咄嗟に本を閉じる。

「・・何ですか?」

動揺を気どられないように、咳ばらいを一つして。アレンは怪訝そうに本をちらと見ると嫌そうな顔をした。

「またルベリエ長官の本ですか?好きですねぇ・・」
「君には関係ないでしょう、これは私の趣味でもあるんですから」

『傑作スィーツ撰』を脇に抱える。実はこの本に例の占い本が挟まれているのだが、アレンは気付かなかったようで

「そんな事より、僕食堂に行きたいんですけど」
「・・・君は一日何回食堂に行けば気が済むんですか」

リンクはため息をついて、アレンについて歩き出した。歩きながら、アレンに気付かれないように本を開く。

(そうだ、今日の運勢を見ておくか)

ぱらりと頁をめくり12月29日を捜す。
それにしても、星占いとはなかなか奥が深いものだ。今まで子供じみていると思い込んでいた自分が恥ずかしい。そもそも占いという括りもおかしい。

(どちらかと言えば統計学に近いのではないか?)

宇宙と科学がこれほど不思議に結び付いた学問もめずらしい。

リンクはそんな思いに至りながら今日の運勢に目を通す。乙女チックな文字が羅列する少女系占い本を読む時点で、なんの説得力もないが。


『☆今日の運勢☆

ラブチャンス到来の予感!恋の女神があなたに微笑みそう。
お目当てのあの人から突然のハッピーサプライズがあるかも♪』

(ハッピーサプライズ?)

首を捻りつつ、本を閉じた。

(ラブチャンス・・彼女の誕生日に関する事だろうか)

昨日からプレゼントを考えているがなかなか思いあたらない。実用的であまり負担にならない、かつセンスの良い彼女に好まれる物。

(・・まて、1番大事な物を忘れているではないか)

はた、と気付く。

(バースデーケーキ・・!)

そういえばラッキーカラーは「白」だった。
あれは生クリームの「白」ではないのか?実用的で負担にならず、センスの良い・・ぴったりのプレゼントだ。
リンクの心は踊る。

(そうだ・・日付が変わるその時に持って行くのもロマンチックだな)

しかし、そんな深夜に訪ねるのは失礼か・・・

(!・・まて、1月1日が誕生日なら・・カウントダウンの時ではないか)

毎年教団は盛大なニューイヤーパーティーが催される。戦時中ではあるからこそ一年の無事と来年の無事を祈って。
リンクは去年まで中央庁にいたので、詳しくは知らないがラビの話を聞く限りそれはひどい乱痴気騒ぎらしい。
花火を打ち鳴らし、呑めや歌えやの大騒ぎ。
カウントダウンの瞬間には誰彼かまわずキスの嵐という。

「・・・・・」

(・・・・キス・・)

ふいに、ミランダの柔らかそうな唇が脳裏に浮かんで。

「!!」
《ガッ!》

咄嗟に近くにある柱に額を打ちつける。

(な、なんという不埒な事を考えているのだ私は・・!)

もう一度強く打ち付ける。

「あ・・あの、リンク?」

アレンの声にはた、と我に帰る。

「な、なんですか・・」
「なんですか・・ってこっちの台詞です」

リンクは赤らんだ顔を隠すように咳ばらいしながら

「・・なんでもありません」
「・・リンク、血出てますよ」

リンクはハッとして額に手をあてたが、

「そっちじゃないですよ」
「!?」

・・鼻血だった。



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