D.gray-man T




「ソワソワ?」
「うん」

リナリーは頷く。

「・・ミランダは、どこだ?」
「ああ、修練場へ行くって言ってたわ」
「・・そうか」

マリは首を捻りながら、踵を返して食堂入口へと向かう。

「あ、ねぇマリ」
「?」

足を止める。
リナリーはうふふ、と笑って

「最近、ミランダ綺麗になったって評判よ」
「!」
「マリ、鼻が高い?」

マリは困ったように、頭を振って

「何を言ってるんだ、リナリー」
「だって、ミランダったら本当に綺麗になったのよ、誰のおかげかなって」
「そ・・それは、ミランダ自身の・・」
「恋でしょ、恋」

頬に両手をあてて、うっとり呟いて。

「気をつけてね、マリ」
「?」
「本人は気付いてないけど、モテるのよミランダ」
「・・そう、なのか?」

リナリーはコクンと頷いて、

「もう一度言うけど、気をつけてねマリ」
スープを一口飲んだ。




(・・・・・・・・)

一度気になると、なかなか頭から離れない。
マリは修練場へと歩きながら、リナリーの言葉を反芻してしまう。

(いや・・ミランダはもともと素晴らしい女性だ。モテないはずは、ないではないか)

急に、心配になる。昨日聞いた会話の事もあって、マリは、ミランダの音を探してしまう。

(ん・・?)

修練場ではない。
意外に近い場所から、彼女の心音が聞こえた。場所は、ここから真っ直ぐ廊下を歩いた角。
なぜか、座り込んでいるようだ。

『どうしたんですか・・』

(んん?)

ふいに耳に入った男の声に、マリは足を速めた。








胃が・・・痛い。

ミランダは痛みを抑えるように、手で摩った。ぎゅう、と締め付けるようだ。
ふう、と息を漏らしてその場にしゃがみ込むが、痛みはキリキリと、ミランダを襲う。

「どうしたんですか?」

急に声を掛けられて、弾かれるように見上げると、そこにいるのは見覚えのあるファインダーが立っていた。

「どこか、具合でも悪いんですか?」

心配そうに、顔を覗き込まれる。ミランダは首を振って、

「だ、大丈夫です、どうか気にしないで」

強いて笑顔をつくるが、冷や汗が出てきた。

「あの、医療班まで付き合いますよ」
「い、いいえ、ほんとに・・」

ミランダは首を振ったが、ファインダーの彼はミランダの肩を掴んだ。

「そんな青い顔をして・・心配です」
「い・・いいえ、あの」

そのまま、ミランダを支えながら立ち上がる。

その時、


「ミランダ、大丈夫か?」

聞き慣れた優しい声に、ミランダは顔を上げた。

「あ・・マリさん」

途端、ファインダーの彼の手が離れて、ミランダはまたしゃがみ込んだ。

ファインダーには構わず、マリはミランダの傍らにしゃがみ、背中を摩る。


「どこか、痛むのか・・?」
「あ、あの・・お腹が痛くて」

胃を摩る。マリはミランダの肩を抱いて、そのまま両手で抱き上げた。

「医療班へ行こう」
「ご、ごめんなさい・・」

ミランダは小さく頷いて、マリの胸に頭をもたれるとそのまま目を伏せた。
ファインダーは、呆気に取られるように立っている。

「こちらはもう大丈夫だ」

マリが声をかけると、ハッとして何やらモゴモゴしながら立ち去った。

何か、ひとこと言ってやろうかとも思ったが・・。

(いや、それもどうかと思うな・・)

マリは苦笑いしつつ、ミランダを抱えて歩き出した。





「マ、マリさん・・その・・」

怖ず怖ずと、ミランダが口を開く。

「重い・・ですよね、す、すみません」

ギュッと目をつむって、顔が赤くなる。マリは、そんなことない、と首を振ったが、

「いいえ、いいえ、すみませんっ・・・」
「・・ミランダ?」

ミランダはそれきり、恥ずかしそうに俯いたまま、口をつぐんで。マリは首を傾げるのだった。




医療班で、婦長のカミナリが落ちる。

「そんなに痩せているのに、ダイエット!?しかも・・寝不足な上、空腹時にコーヒー飲むなんて」

まったく・・と、婦長の怒りは収まらない。ミランダは、びくびくしながら

「で、でも・・5kgも増えてたんです・・」

マリに聞こえないように、ぼそぼそ言うと、

「ミランダ、あなた45kgなんですよ?あなたの身長なら50kgは欲しいわ」
「ふふ婦長っ・・!!」

大きな声で体重を言われて、ミランダは穴があったら入りたい気分だった。

(は、は、恥ずかしい・・)

身を縮こませていると、背後からマリが

「では、大丈夫なんですね」
「ええ」

婦長は大きく頷いて、

「しっかり食べて、空腹時にコーヒーは避ける事。あとしっかり睡眠も取りなさい」
「は・・はい」
「あなたはもっと睡眠に貪欲にならないと、いけませんよ」
「・・・はい」

しょんぼり頷く。

「だいたい、昨夜は何をしていたんですか?」

(・・!)

昨夜は・・・

ミランダとマリは顔を赤らめて、俯いた。




ジェリーに頼んで、バスケットに朝食を用意してもらう。
中にはクリームチーズにベーコンが挟まったサンドイッチ、色鮮やかなフルーツ達、温かなコーンのポタージュ。

「・・ご、ごめんなさい」

ミランダはベッドから起きて、赤い顔で呟いた。

ここはミランダの部屋。
少し休んで痛みが消えると、今度はお腹が鳴りだし、それを聞いてマリが食堂に朝食を取りに行ってくれたのだ。

「ちょうどわたしも、食べそこねたんだ」

ベッドの上にそれを置いて、バスケットからサンドイッチを取り出してミランダに渡す。

ミランダはそれを受け取って、一口食べた。

「おいしい・・」

マリは、ふ、と口元を綻ばせて自分もサンドイッチを取った。

「ミランダと一緒に食べるのは久しぶりだな」
「・・そうですね」

昨日帰ってきたのは、ミランダが食事を取った後だったから。
ふふ、と。二人は、顔を合わせて笑った。

「それはそうと・・」

マリは、カップにポタージュを注ぎながら、

「ミランダは、痩せる必要ないぞ」

言って、カップをミランダに渡した。

「・・・・・・」

ミランダは、複雑な顔でそれを受け取る。

「?・・どうかしたのか」
「えっ・・い、いえ、そのっ・・」

ミランダは首を振る。

(じゃあ・・私の勘違いだったのかしら・・マリさんは、単純に買い物に誘っただけ・・?)

でも・・何で・・服?

黙るミランダに、首を捻りながら

「どうかしたのか?」
「・・・・あの」
「うん?」
「そ、その・・どうして、服を買いに行こうって言ってくれたん・・ですか?」

(!)

「・・そ、それは」

困ったように頭を掻いた時、

(・・ん?ちょっと待て)

何かが頭に閃いて、弾かれるようにミランダを見た。

「もしかして・・それで、痩せようと・・?」
「!・・あっ、えっ・・きゃっ!!」

動揺したのか、手の中のカップを落としそうになり、マリが慌ててミランダの手を押さえたのでそれは免れた。

「そうなのか・・?」
「あ、あの・・ええと・・」

困ったように、もじもじしている所で、十分肯定している。
マリはため息をついて、頭を押さえた。

「すまない。そういうつもりで言った訳ではないんだ・・」
「い、いいえっ・・私こそっ・・深読みしちゃって・・」

慌てて首を振る。
マリはミランダの手からカップを取り、テーブルへ置くと、その大きな掌で、ミランダの手を包みこんだ。

「・・本当に、痩せる必要はないぞ」

ミランダは頬が熱くなりながら、コクンと頷いた。
マリは、ミランダの熱くなった頬に触れる。

「正直言うと・・・」

つつ、と指がミランダの肩に落ち、鎖骨辺りをなぞって。

「・・痩せられたら困る・・かな」

悪戯っ子のように、笑った。

「え、え、えっ・・・」

意図する意味が分かり、アワアワと焦り、耳まで赤くなる。
指は、鎖骨の窪みを確かめように動いて、そのまま下に降りてくるような動きをした後・・マリは指を、す、と引いた。

「朝から・・こんな事をしてはいけないな」

何かを振り払うように、頭を振る。

(び、びっくりしたわ・・)

一瞬、そのまま押し倒されてしまうのではないかと、ドキドキした。

「・・・・・・・」
「・・・・・」

なんとなく、沈黙してしまう。
このまま沈黙が続くと、さっきの続きが始まりそうで・・

(わ、私ったら・・ふしだらだわっ)

な、何か話さなきゃっ・・。

「あ、あのっ・・マリさん・・い、いつ行きましょうか、買い物・・」
「・・ん、ああ、そうだな」
「で、でも、マリさんが私の洋服を気にしてくれるなんて、嬉しいです」
「・・いや・・」

ふと、思い当たったように、

「でも・・どうしてわかったんですか?今着ているのが、キツクなってきたって・・・」
「そ・・それは・・・」

(しまった・・・)

いっそ言ってしまおうか、ぴったりした服を着て欲しくないと。

いや、それは、しかし。

「マリ、さん?」
「・・・・」

様々な葛藤の中、ミランダの声に反応するように、マリは手を伸ばした。
そのまま、ミランダを引き寄せると、マリの体に包むように抱きしめて。

「マ、マ、マリさん・・?」

マリの手が、摩るようにミランダの背中を触る。

(・・!)

「こうすれば・・分かる」

耳元で、低い声がした。

「そ、そうですか・・・」

(わわわわっ!あ、朝から、こんな・・。)

昨夜愛し合った、熱の名残か、ドキドキしてしまう。

「マ、マリさん・・その、それで・・買い物・・は」
「・・・・・・」
「マリさん・・?あの、もう・・わ、わかりました」
「ミランダ・・・・」
「・・はい?」


「朝食が、昼食になってもいいか・・?」

「え?・・!!・・」



返事する間もなく、ミランダの唇は塞がれたのだった。

(エエエエエッ!!)







end

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