D.gray-man T




「ば・・・・ばからしい・・」

リナリーは、事の顛末を聞いて、がっくりとうなだれる。

「で・・ですよ、ね?」
「だな・・」
「・・・・・・・」

皆、苦笑いをしながら顔を見合わせた。
リナリーは、ギロッと見て

「・・信じたくせに・・」
「ま、まさかっ!リナリーを信じてたさっ!」

力いっぱい、否定するラビに、

「・・最初にマリが怪しいって言ってたくせに」

ボソリ、アレンが呟いた。

「なっ・・!自分だって・・っ!」
「うるせぇよ、テメェら」

神田が吐き捨てるように言った。
リナリーは、ため息をつく。

「・・マリは?」
「ミランダさんつれて、医療班に行ってます・・」
「・・そう」

「・ねぇ・・なんでみんな正座してるの?」

「・・そ、それは・・」
「・・チッ・・・」
「・・・・・・」

全員、目を反らす。


『全員、正座』

あの声の、恐ろしかったこと・・・。


思い出して背筋が凍った。


「・・・・?」

リナリーがキョロキョロと辺りを見回す。

「どした?なんか落としたんさ?」
「え・・そうじゃなくて」

リナリーの顔がみるみる強張りはじめた。恐る恐る、口を開き、

「ね・ねぇ、兄さんは・・?」

「「「「!!!!」」」」

その言葉に、全員が弾かれたように立ち上がった。

「わ、忘れてたっ・・!」
「大変ですっ!!マ、マリはっ・・」

その時。

下の階で何か爆発音が聞こえて、全員の顔から血の気が引いた。

「な、何?兄さん!?」
「あの辺は・・医療班!!」
「やべぇさっ!!」

慌てて、転がるように皆、駆け出していた。


医療班から来る、逃げ惑う人の波をかい潜りながら、現場に到着したリナリー達は、その惨劇に声を失う。

「こ、これは・・」

アレンが後ずさり、顔を引き攣らせた。
そこには、マリの弦(イノセンス)によって、張り付けにされた『コムリンEX』。

そしてその横に、正座させられている、


コムイがいた。


(((・・う、嘘っ・・!?)))

見てはいけないものを、見てしまった・・・。

(マリか?マリなのか?やっぱりそうなのか?マリそんなに怒ってるのか?・・・)


「・・リナリー!!」

こちらに気付いたコムイが叫ぶ。

「に・・兄さん・・何やってるの?」
「マリに聞いたよ!」

リナリーに抱き着いて、

「本当に、妊娠してないんだねっ!?」

リナリーの顔がカアッと赤くなる。

「兄さんの、バカアァァァッ!!!」


《ドゴォッ!!》


凄まじい勢いの裏拳がヒットし、コムイは壁に叩き付けられた。


「・・こら、静かにしないか」

声がして振り返ると、病室からマリが出てきた。

「マリ・・ご、ごめんね・・」

リナリーは、頭を下げる。

「なんか、兄さんのとんでもない誤解から始まったみたいで・・」

マリは、軽く首を振って

「1番嫌な思いをしたのはリナリーだろう?」
「え・・・・」

リナリーは、慌てて首を振る。

「だ、大丈夫よっ・・兄さんの妄想には慣れてるからっ」
「・・そうか」

マリは心配そうに、見えない瞳でリナリーを見た。

「それより、ミランダは?」
「大丈夫だ、じき目覚めるだろう」
「よかった・・」

リナリーが笑い、マリも微笑した。

「・・なあ、リナリー」

突然、リーバーが言いづらそうに、口を開く。

「じゃあ、あの時・・なんで慌ててトイレに駆け込んだんだ?」
「・・そうだよ!」

コムイが、ムクリと立ち上がった。

「医療班へ行くのも、頑なに拒否したじゃないかっ」

ずんずんと、近づいてくるので、リナリーは後ずさる。

「そ・・それはっ」

(なにも、こんな所でっ・・)

皆リナリーの言葉を待っているかのように、注目していて。

「・・・・ぎよ」
「なんだって?」

聞き返されるのに、腹が立って。

「食べ過ぎたのよっ!文句あるっ?」

コムイを睨み付けた。

「チョコレートケーキ、ワンホール全部食べたのっ、だから気持ち悪くなったのっ!!」

赤い顔で、やけくそに吐き出して、周囲を見渡す。なんとなく、引かれている感じにリナリーは、

「・・だから、言いたくなかったのに」

小声で、呟いた。
コムイは、安心したように、

「なんだ〜っ!そうだったのか〜、可愛いなぁもうっ!」

ぎゅう、と抱き着いてくる。

「・・そ、そうなんさ」
「・・チッ、くだらねぇ」
「ま、まぁ、一見落着ですね・・」

やっぱりねー、などと口々に言い合うなか、突然リンクが口を開く。

「・・どうして、一人でワンホールも?」
「えっ」
「どうしてですか?」

リンクが不思議そうに、リナリーを見つめる。 皆の視線が再び注がれるのを感じた。

(そ・・それは・・)

ちら、とマリを見て、

「・・ミ・・・・」
「ミ?・・なんだい?」

コムイが、顔を覗きこんでくる。逃げ場がなくて、リナリーは観念したように・・。


「ミランダが・・いないから・・」


消えるように、呟いた。
言ってしまった言葉に、ハッとして。咄嗟にコムイを突き飛ばし、

「な、なんでもないのっ・・」

リナリーは、その場から逃げ出してしまう。

「リ、リナリー!?」

コムイの声を振り切るように、足を速めた。

「リナリー、どうしたんさ?」

ラビが、首を捻る。

「・・・・ところで」

マリは、何か考えるように俯いて。



「まだ、足を崩して良いとは言っていないぞ」

「「「!!!!!!」」」






マリは、気付いたかしら・・。
もっと上手い言い回しが出来たらいいのに。


(ここは・・・どこだったかしら)

引越してまだ間もないせいか、よく分からない場所にたどり着いた。どうやら地下まで来てしまったらしい。

(ま、いいか)

戻る気になれなくて、暗がりの中しゃがみ込んだ。
リナリーにとってミランダは特別な存在。
それは姉のようでもあり、妹のようにも感じられて・・。

長い年月をこの教団で過ごしてきたリナリーにとって、初めてとも言える、同性の友達だった。

(変な気持ち・・)

ミランダがマリと仲良くなるのは嬉しいけど、遠くに行ってしまうみたいで、寂しい。

「勝手よね」

リナリーは、顔を膝に埋めた。

そういえば・・・。

(小さい頃にも、地下に隠れたことがあったな・・)

迷子になったり、逃げ出したり。結局、いつも見つかってしまうのだけど。

(兄さんが来るまでは、しょっちゅうだった・・。)

ふいに、靴音が聞こえて。リナリーは、ゆっくり顔を上げた。

(やっぱり)

こんな所に来るなんて、彼しかいないもの。
リナリーは苦笑した。

「・・相変わらずね、マリ。もう私、子供じゃないのよ」

リナリーは、口を尖らせながらゆっくり立ち上がる。

「それは、すまなかったな」

マリは、少し笑った。


教団に居場所がなくて、よく地下で泣いていると。なぜか、いつもマリが迎えにきてくれた。

(あの時は、マリの耳が良いなんて知らなかったし・・)

「リナリー、こんな所で寒くないのか?」
「大丈夫よ。それより・・ミランダの側にいてあげないとダメじゃない」
「もちろん、すぐ戻るつもりだ。リナリーを連れて・・」

リナリーは、肩をすくめながら

「ほんと、マリって相変わらずね。ちっとも変わらないんだから」

苦笑しながら、来た道を歩き始める。

「昔、私が教団で迷子になったことあったわよね・・」

歩きながら、呟いた。

「・・ああ」
「なんだか、いつも迷惑かけちゃうなぁ・・ごめんね」

マリは、少し黙って、

「リナリー・・無理をするな」

静かに言う。リナリーは立ち止まり、キョトンとしながら、マリを見る。
マリはポン、とリナリーの頭に手を乗せて、

「もっと、我が儘言っていいと思うぞ・・」
「え・・?」
「あんまり早く大人になるのは、もったいない」

穏やかに、微笑した。

「ど、どういう意味?」

首を捻るリナリーに、マリは困った顔で

「リナリーに甘えて欲しい人が、たくさんいるという事さ」
「・・兄さん、の事?」
「まぁ・・コムイもそうだが・・」

「・・ミランダも、その一人だ」

「・・・・」

リナリーは、目を見開いて、なんとなく、マリから目をそらした。

「ミランダは、リナリーに甘えられたら、喜ぶと思うぞ」
「・・そう、かしら」
「試しに、言ってみたらいい」

マリは、目を伏せて微笑む。ミランダを想像しているのだろうか・・。

「・・ねぇ、マリはミランダのどこが好きなの?」
「なっ・・!」

暗がりでも分かるくらい、マリの顔が赤くなって。リナリーは、マリの動揺した様子に吹き出してしまった。

「リ、リナリー・・・あまりからかわないでくれ」
「ごめん!でも・・マリのそんなとこ初めて見たから」

クスクスと、笑っているうちに出口を通り、地上に出ていた。

「ねぇ、マリ・・」
「なんだ・・?」
「私も、一緒にミランダの所に行きたいな・・」

小さい声で、呟くと。 リナリーの頭の上から、優しい声が響いて、

「では、一緒に行こう」

子供にするみたいに、頭を撫でられた。



病室を覗くと、ミランダは目覚めていて。
リナリーとマリの姿を見て、ミランダは恥ずかしそうに笑う。

「あ・・あの、アレン君たちから聞いたわ・・その、誤解だったって・・」

モゾモゾと、布団を握って

「マリさん・・ご、ごめんなさい・・また迷惑かけちゃって・・」

みるみる顔が赤くなっていく。

「もう、平気か?貧血は大丈夫か?」
「は・・はい、鉄剤飲んで一晩寝ていれば、大丈夫だそうです」

マリは、それでも心配そうだ。ミランダは、リナリーを見てとても嬉しそうに微笑む。

「リナリーちゃん・・」
「ミランダ・・その、兄さんが・・ごめんね」
「あ、いいえ、そんな・・それより、リナリーちゃん、私を呼んでいたって・・・」
「えっ?」

目を見開いて、ミランダを見た。

「あ・・あら、違ったの?」
「ううん、捜していたけど・・」

(やっぱり、気にしてくれていたの?)

なんとなく嬉しくなる。
マリをちらと見ると、リナリーの視線に応えるように微笑して。

「用を思い出したから、少し外させてもらう・・」

そのまま、ドアの外へ消えた。

(マリったら)

そういうのは、普通自分がする事だろうに、

(でも・・ありがとう・・)

ベッドの脇に腰掛ける。

「あのね・・・明日、二人だけで・・お茶しない・・?」

甘え方なんてよく分からないけど、自分の声に、驚いてしまう。まるで駄々っ子みたいに、拗ねた声。

ミランダにそっと、手を握られる。

「今度は私にケーキ焼かせてね」

リナリーちゃんみたいに上手くないけど・・そう言って、ミランダは嬉しそうに笑った。

『・・試しに言ってみたらどうだ』

リナリーは、ドアの外へ視線を向けて、

(ありがとう)

小さく笑った。




end

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