D.gray-man T









ミランダがマリを好きな事なんて、とっくに気付いてたわ。

だって、見てたらわかるじゃない?

ミランダったら、マリの側へ行くとトマトみたいに赤くなるのよ。

可愛いのよね、ほんと。

ミランダって、お人よしだし、後ろ向きだし、結構心配してたんだけど。

でもね、マリみたいな人なら、いいと思うわ。



うん、マリなら、大丈夫かなって。

それに、マリだって満更じゃないみたいだし・・。


だから、思ったわ、あの時。

(やっぱりね)

って。

躓いて転びそうなミランダを、マリが助けたの。
ええ、何も不自然は無いわ。
よくある光景だったし。


でもね、助けられたミランダは、笑ったの。

マリと目を合わせてね、一瞬だけど。

あのミランダがよ?

近づいただけでトマトみたいになってたのに・・・。

恋が実ったのね、って



だからね、



それを見て、思ったの。



(・・・やっぱりね)



って。


















「あ、ラビ!」

呼び止められて、ラビはニパーと笑い、軽く手を上げた。

「いよォ、リナリー」
「ミランダ、見なかった?」
「・・・急いでる?」

ラビの言い方に、リナリーは首を傾げる。

「急いでは、いないけど・・ラビ、知ってるの?」

ラビは、にま、と笑って窓の下を指差した。

「?」

窓の下は、ちょうど中庭になっていて二階のこの場所からだと、ほとんど見渡せる。
リナリーが窓の下を見ると、仲睦まじく寄り添うミランダとマリの姿があった。

「!」

木陰のベンチに二人で腰掛けて、ミランダがマリに本を読んであげているらしい。
マリは優しく微笑んで、ミランダはとにかく一生懸命な様子で、頬が赤らんでる。

「な?・・邪魔しちゃ悪いさ」
「・・そうね」

ラビは少し元気が無くなったリナリーに、怪訝な顔で

「リナリー?どうかしたんさ・・」
「なんでもないわ」

リナリーは、そのままその場所から立ち去った。

(・・・別に、たいした用事じゃないもの)

ジェリー直伝のチョコレートケーキが、上手く焼けただけ。

それだけ。

ただ、一緒に食べて、なんてことないお喋りをしようかなって。




自室に戻って、ケーキの箱を開ける。甘くて、ほろ苦いチョコレートの香がした。

(・・どうしようかな)

今更、誰かと食べるのも面倒で。
リナリーは、フゥとため息をついて椅子に腰掛ける。

「ま、いっか」

なんとなく、面白くない気持ちも手伝い、リナリーは手づかみでケーキを掴む。

(・・ガトーショコラでよかった


もっとも、クリーム系のケーキならさすがにフォークを使うだろうが。

パク、と一口食べる。

(美味しい・・)

ミランダの顔が浮かんだ。

(ミランダなら、きっと・・)

『すごいわ、リナリーちゃん!』

手放しで、褒めてくれるのだろうか・・。
以前、二人だけでお茶会をした時、ミランダはリナリーが作った苺のタルトをとても褒めてくれた。

『すっごく、美味しいわ・・!』
『本当?ミランダ』
『本当よっ・・スゴイわぁ、リナリーちゃんて』
『うふふ、ありがとう・・また作るわ』
『私もまた食べたいわ・・ほんと、美味しいわ』

ニコニコ笑って、リナリーのケーキを食べてくれて・・。

(食べたいって・・言うから作ったのに・・・・)

リナリーは、両手にケーキをわしづかみして、豪快にパクパクと食べ始めた。
なんだか、自分の気持ちが納得いかない。

(これじゃあ、マリに嫉妬してるみたい)


ずっと、ミランダの恋を応援してたのに、
幸せになって欲しいって、思っていたのに。

(なんだか、悔しい)

口一杯に、ケーキを頬張る。

(もう・・・)

「はんらろよ(なんなのよ)・・・」

結局、リナリーはケーキを全部一人で平らげたのだった。







(う・・・気持ち悪い・・)


口を押さえる。気持ち悪くて、吐き気がした。

(さすがに、食べ過ぎよね)

「リナリー?顔色わるいけど、どうしたんだい?」

心配そうな兄の声がして、慌てて笑顔をつくる。

「大丈夫よ、心配しないで兄さん」

整理の終えた書類を、手渡した。コムイは、それを受け取りながら

「・・やっぱり顔色悪いよ、今日は手伝いはいいから、戻りなさい」
「でもこんなに書類がたまってるし・・」
「大丈夫だから、それよりそんな青い顔色で・・心配だよ」

コムイはリナリーの額に手をあてた。

「熱はないね・・念のため、医療班へ行こう」
「えっ・・!?だ、大丈夫よっ!」

リナリーは焦る。花も恥じらう16才の乙女が『食べ過ぎ』の診断が下るのは、キツイ。

「ね、寝てれば大丈夫よ、ほ、ほんと、ね!」

その妙な慌てぶりに、コムイは怪訝な顔をした。

「・・な、なに?兄さん」
「・・隠してるね?」
「・・・なにが?」

なぜかジリジリ追い詰められて。何だろう、この兄の様子では本当の所を話しても、意味がない気がする。

「に・・兄さん?その、これは」
「リナリー、正直に言ってごらん」

正直に、ええ言うわ、兄さん。
正直に・・・。

「これは・・食べ・・・・ううっ!!」

急な吐き気に襲われて、咄嗟に口を押さえた。
チョコレートが上がってくる気配に、リナリーは慌ててコムイを突き飛ばす。

「ご・・ごめ・・兄さ・っ・・!」

そのまま口を押さえて、司令室から逃げ出した。

「・・・・・・・・・・・」

ガチャリ、ドアが開いて。

「?・・室長、今リナリーが・・ん?」

リーバーはなぜか床に倒れたまま、真っ白に燃え尽きた上司を見た。

長年の勘でわかる。これはかなりメンドクサイ事になるだろう。
見なかった事にしようと、部屋から出ていこうとした時。

《ガシィッ!》

右足首を引っ張られて、リーバーは額をドアに打ち付けられた。











「はあっ!?に、に、に・・妊娠っ!?」

額に絆創膏を貼りながら、リーバーは叫んだ。
コムイは、燃え尽きたボクサーのように虚ろな眼で空を見ている。

「ま、まさかっ・・そんな訳ないですって、そんな命知ら・・いや、この教団にいる訳ないじゃないですかっ」

力いっぱい、コムイの両肩を握りしめた。
リーバーとしても、この状況を早急に打破して一刻も早く、仕事に取り掛かってもらわねばならない。

「それに、リナリーはまだ子供ですよ、付き合っている奴だっていないでしょ」
「・・・があった・・」
「はい?」

よく聞こえなくて、聞き返す。

「あれは・・・ツワリだ・・」
「・・は?ツワリ・・?」

はた、と思いだす。
司令室から飛び出したリナリー。口に手をあてて、手洗いへ向かっていた・・。
リーバーは、ヨロヨロと後ずさる。

「・・ちょっと・・待って下さい・・」

混乱して、頭を両手で押さえた。

「ま・・まさか、いや、そんな・・」

その時。

「・・・リーバー班長・」

その声は、地獄から響きわたる恐怖の大王。

「ボクは決めたよ・・」

どす黒いオーラがコムイから発せられているのを感じる。

「し・・室長・・?」

嫌な予感がした。
コムイは、何かスイッチを取り出すと。

「コムリンEX始動!・」
「うわああああああっ!!室長っ・・!」

咄嗟にコムイに飛び掛かり、スイッチを奪取した。

「何する気ですかっ!?引っ越したばっかなんすよっ!!」
「止めるなら、リーバー君も敵だあっ!!」

何処からか、リーバー目掛けて槍が降ってきて、

「うわっ!ちょっ!!室長っ!!」

慌てて飛びのいたが、靴の一部が損傷している。いつの間に部屋を改造していたんだ・・そんな事より仕事を・・という心の声はしまっておいて、

「と、とりあえず、相手の男を捜しましょうっ!ねっ、相手の男っ 」
「・・相手の男!!・・」

コムイの眼がギラリと光り

「見つけ次第、このボクが塵芥にしてやる・・!」

ククク、と笑うので、リーバーは背筋が凍る思いであった。




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