D.gray-man T






扉を開けて、彼女を確認すると、マリは頬が緩む。

そこは、マリの部屋。

小さな彼女が、布団の中に丸まっている。
そっと、近づいて、ミランダの頭を撫でた。

「ん・・う・んん」

ミランダが、小さく呻く。寝苦しいのか、眉を歪ませて

「ん・・・ふ」
「ミランダ、大丈夫か・・?」

少し体を揺すり、起こそうとした時、ミランダの手が、何かを掴むように伸ばす。
マリがその手を握ると、ぐっ、とミランダの胸元へ引き寄せられた。

「ん・・・ううん・・」

目を覚ましたらしく、乱れた呼吸が少しづつ治まってきている。
ミランダは、ぼんやりと、マリを見つめて

「・・おじちゃん、今、夢のなかにいた・・?」
「うん?」
「・・・・好きって・・」
「・・?」

ミランダは、嬉しそうに笑って

「好き・・って言われた」
「そうか・・」

マリは、ミランダの頭を撫でた。

「でも・・・いなくなっちゃった」

悲しそうに、目をつむる。

「・・こわかったの・・」

抱っこを求めて両手をのばし、マリが抱きしめると、ぎゅう、と縋り付いてくる。

(ミランダ)

抱きしめているのは小さな彼女なのに、マリは、ふいに錯覚しそうになった。

(いや)

錯覚ではない。

(そうだ・・・)

この子はミランダだ。

当たり前の事なのに、自分の中で抜け落ちていた事に気がつく。
元に戻すことばかり考えていて、こんな当たり前の事を忘れていた。

(そうだった)

自嘲ぎみに笑う。

「ミランダ・・・」
「なあに?」

マリは、抱きしめる腕の力を少しだけ増した。

「・・・ミランダが大好きだよ」

ミランダが、不思議そうに見上げている。

「・・・本当に・・好きだ・・」

情けない、苦しい気持ちになった。
小さな手がマリの頬に触れて、心配そうな声が聞こえる。

「どうしたの?」
「なんでもない・・」

首を振った。






















その夜。

コムイは手元にあるタイムレコードの異変に気付いた。

(?・・)

発動の光りが、弱まっている。

「これは・・・」

そのまま点滅へと変わっていき、コムイは時計を見た。
深夜2時を過ぎたところで、恐らく皆眠りについているだろう。

一瞬迷ったが、無線ゴーレムでリナリーを呼び出した。

『・・・何?・・兄さん』

眠そうな声が響く。

「ごめんよ、リナリー。ミランダは大丈夫かい?」
『え・・?ミランダ・・』
「どうしたんだ?そこにいるんだろ?」
『・・・いないわ』
「なんだってっ?」

コムイが焦る。

『ああ・・大丈夫よ、多分マリのとこだから』
「マリ?どうして・・」
『抜け出していっちゃうのよ、女の子だからダメよって言ってるんだけど』
「・・発動が、止まりそうなんだよ」
『え、本当?』
「だから、今、姿が戻ったら・・」
『たっ、大変っ!!』

無線ゴーレムの向こうから、ガタン、という大きな音がした。

「リ、リナリー!?大丈夫かいっ?」












何か、引き攣れるような音がして。マリの眠りは浅くなる。

(・・・・・・ん)

自分以外の何か温かいものに触れて、まどろみながら、そっと笑う。

(やれやれ)

彼女に布団を、かけ直す。
あくびを一つして、眠りにつこうとした時。
己の足に、ミランダの足があたる。

(・・・・・・・)

足??

確かめるように、もう一度それに触れてみる。

「!?」

(・・・ある)

恐る恐る、手をのばすと、

ふにゃ

「!?!?・・・」

その質感は明らかに子供と違い、おまけに、素肌の感触だった。


そして

「う、ん・・・ん?」

その声を聞いた瞬間、マリの心臓が大きく跳ねる。

「ミラ・・ンダ?」

名前を呼ばれたせいか、彼女は小さく呻いて
寝返りをうった。

「ん・・?」

ミランダは怪訝そうにマリを見て、それから少し笑ったあと、夢だと思ったのかまた目をつむる。

「・・・・」

ミランダは、また、そろりと目を開けた。

「・・・・・」

見開いたまま、二、三回瞬きをぱちぱちと繰り返す。
マリは耐え切れなくて、

「ミ、ミランダ・・・」

声をかけると、

「!!!」

ビクリと体を震わし

「マ、マ、マ、マ、マ、・・・!?!?」

口をパクパクしながら、慌てて起き上がった。
マリは慌てて、ミランダの口にシーッと手をあてる。

「言いたいことは、分かる・・だが、今はまずいっ・・!」

こんな格好で、こんな場所だ。大声を出して、誰かが来てはどんな誤解を受けるか。

その時

『・・マリ?』

リナリーの通信。

『マリ、起きてる・・?』
「ああ、起きている」
『・・兄さんから通信があって、タイムレコードの発動が止まったらしいの』 「・・・・・」
『マリ?・・その、ミランダは?』
「・・大丈夫だ。ここにいる。元に戻っている」

少し、声が上擦ってしまった。







「ふむ・・・」


翌朝、ミランダのイノセンスに関する資料を検証しながらコムイはため息をついた。

「どうっすか?」

リーバーが聞く。コムイは首を振って、

「だめだよ、さっぱりだよ。何の変化もなしさ」
「てことは、何だったんですかね・・」
「推論でいいんなら・・・」

資料をリーバーにハイと渡して

「ワーカホリックな、ミランダにイノセンスが無理矢理休みを取らせた、感じ?」
「なんすか、それ」

呆れ気味に、コムイを見た。コムイは、首を竦めて

「だって、子供のミランダはよく食べて、よく寝ていたじゃないか。」
「そりゃ、子供ですから・・」
「だから、発動止まったミランダは色艶良くなって、健康になったと・・・どお?コレ」

リーバーはペンで頭を掻きながら

「とりあえず、経過は見てくってことで。
室長は、次の仕事に係ってください」
「えー・・まだこれから調べたい事、いっぱいあるのにー?」

ブー、と口を尖らせる。

「・・ほんと、頼むから仕事してくださいよ」

どんよりと、ため息をついた。



念のため、医療班で検査したが特に問題もなく、そのまま、自室へ戻ることになった。
ミランダは、科学班から検査済みのタイムレコードを返してもらい、自室への階段を上っていると、

「ミランダ・・」

待っていてくれたのだろう。階段の先に、マリが立っていた。

「あ、マ、マリさん・・」

何となく、頬が染まる。

「体は、平気なのか?」
「は、はい・・」

マリは、言いづらそうに

「その・・・いや・・・部屋まで送ろう」

ミランダの背中に、そっと手を添えた。





自室までの、階段は、時間帯にもよるが人気がなく。
カツン、コツン、と二人の靴音だけが響いた。背中に添えられた、マリの手が、熱くて
その熱が、ミランダの体に広がって、鼓動が速くなった。

「ミランダ」

急に、発せられた声は切なくて。

「・・・・会いたかった」

小声で、ぽつり、こぼされる。

「マリさ・・」

口を開いた時、背中に添えられた手が急に力を持って、そのまま抱きしめられた。

(わ・・っ)

マリの胸に、顔があたる。

(ああ・・)

ミランダの脳裏にある事がよぎった。目覚めるまで見ていた、夢での出来事・・・。

(やっぱり、そうだったのね)

ミランダはマリの背中に手をまわした。

「・・・ただいま」

(この感触・・・覚えてる)

眠る私を起こしてくれたのは、あなただったのね。抱きしめられて、切ない告白に、揺さぶられた。

ミランダは、マリを見る。

(ああ・・・やっぱり)

夢と同じ角度から見て、納得したように微笑んだ。

「どうかしたのか?」

首を振る。

(心配かけてごめんなさい)

「私も・・大好きです」

夢での返事を、呟いて。朱く染まるマリの顔を見ずに、そのまま彼の胸に顔を埋めた。








幸せな夢を見ていた、とミランダは言った。

衝動にまかせるように、抱きしめて。
髪から香る、優しい匂いに安堵のため息が洩れた。

「会いたかった」

思わず言葉がもれて、口にしてから恥ずかしさが襲う。
ミランダの手が、背中にまわり、

「ただいま・・」

その声に、マリはそっと目をつむる。ふと、小さな彼女を思い出した。
『抱っこ』と、せがむ姿が可愛らしく。少し人見知りで臆病な様子が、愛おしかった。

目の前のミランダが、ふと、小さな彼女に重なる。
ようやく手に入れた宝物を守るように、抱きしめる力を、少しだけ増した。

(結局・・なぜ戻ったのか、分からなかったな)

常人離れしたコムイですら、はっきり解明出来なかった。 夢を見ていた気分だ。

(夢か)

イノセンスとミランダが見せてくれた夢か、と。そんな事を考えながら、マリは苦笑するように笑った。
ふと、ミランダが微笑んでいると感じる。

「・・私も・・大好きです・・」

マリの胸に顔を埋めたミランダは、何かの謎掛けのように呟く。

(・・・・もしや)

ある思いに到った時、マリの顔が朱く染まった。

「ミ、ミランダ」

(もしや、覚えているのか?)

情けない、すがるような告白。

夢は、まだ続いていると、気づかされ。


「・・・ずるいぞ」


照れ隠しのように、彼女の耳に囁いた。




end

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