D.gray-man T


Fall in.. 


教団は今日も慌ただしい。
コムビタンD騒動が一段落し、中断していた引越し作業が急ピッチで行われていたのだ。

「あー!つかれたー!ちょっと休憩しようさぁ」
ラビの一言にみんな時計を見る。もう昼の1時をまわっていた。
「そうね、お腹空いちゃったわ。食堂いきましょうか」
リナリーが梱包作業をやめて言った。



食堂は比較的混んでいた。皆、少し遅目の昼食をとっているようであたりにいい匂いが漂っていた。
ミランダはリナリーのとなりにそっと腰掛ける。
同じテーブルには、ラビ、リナリー、クロウリーがいた。


 ああ、疲れた・・またみんなに迷惑かけてしまったわ、私ったらどうしてこうも不器用なのかしら、ほんとに、もう・・

ミランダはサンドイッチを手に持ちながら一人反省会をしていると、ふいにラビとリナリーの会話が耳に飛び込んできた。

「そんで、婦長がヨダレたらしてアレンに噛み付いた時にはびっくりしたけど、まだわかってなかったんさ〜」
「そうよね、だってみんなアレンくんを疑っていたもの」
クスクス笑っている。
「そうだったであるか」
クロウリーは初耳のようで目を丸くしている
「あれさ、ほら、ミランダが・・」
「あ、マリに!噛み付いた時ね!」
「そうそう、あれでみんな変だって思ったんさ」


 ガッシャーン!


ミランダは手に持っていたティーカップを落としていた。熱々の紅茶はそのまま八割方ミランダのスカートにこぼれてしまった。


な、な、な、な、

なんですって・・・!
マリさんに、噛み付いた!?私が?
「ミランダ!大丈夫?」
リナリーが急いでスカートを拭いてくれた。
「え・・?あ、キャアアアア!!熱っ!」
腿から膝のあたりに紅茶が染み込んできたので、ミランダは慌てて立ち上がった。
「ごめんなさい、わ、私ったらまた・・・リナリーちゃんは大丈夫?かかってないかしら?」
「わたしは全然平気だけど、ミランダ火傷してない?大丈夫?医務室付き合うわよ」
ミランダはスカートを軽く持ち上げ
「だ、大丈夫!ちょっと部屋に戻って着替えてくるわね、ほんと、ごめんなさいね」
逃げるように、食堂の出口へ向かった。

その時

「あ、マリ」
背後からラビの声が聞こえた。



「ミランダ?どうかしたのか?」

ああ、この優しい声。
マリさん・・


ミランダはゆっくり振り返る。
「あ・・こんにちは・・マ、マリさんもお昼です・・か?」
声が裏返った。
「いや、私は・・それより大丈夫か?火傷なら早く冷やさねば」
「は・・はい、でも、その、だ大丈夫です」
心配そうなマリの顔を見ていると、どんどん顔が熱くなってくる。

噛んだ・・私、マリさんに

噛み付いた・・・

「?ミランダ?・・少し心音が・・」
マリの手がそっとミランダへ延びてくる。

「ごっ、ごめんなさいいいぃぃっ!!!」

もうだめっ!

ミランダはそのままダッシュで食堂から逃げ出した。
「えっ!ちょっと、ミランダ?」
「おーい!」
「ど、どうしたであるか?」
三人の声を背中で聞きながら、ミランダはマリが噛み付かれた事を覚えていませんように、と祈っていた。


あの日


ミランダがワクチンを打たれた時、マリはもう正気に戻っていた。

「なんだかすごい事が起きてたみたいですね」

マリに話しかけたら

「そう、みたいだな」

と、一言だけ言ってマリはミランダに目を合わせなかった。

もしかして、マリさんムカついてた!?

ミランダがその思いに至った瞬間、彼女の足は中に浮いていた。


ガタタタタタタタタ!!

「ヒイィィィッ!!」
思いきり階段を踏み外していた。
かなりの段数落ちていたが、ミランダはそれどころではなかった。

そうよ、きっとムカついてたんだわ!いくら優しいマリさんでも、ムカつくわよ。
だって、私が噛み付いたから感染しちゃったんだもの。
怒ってたんだわ、いつも迷惑ばっかりかけてるのに、あんなウィルスにまで・・絶対、怒っていたんだわ。
あの後、いつもと変わらないように感じてたけど・・・考えてみるとやっぱりおかしい。
マリさん、どことなくヨソヨソしい感じがしてた・・・。

嫌われたんだわ。

きっと、そうなんだわ、嫌われたんだわ。


ミランダの目からぶわりと涙が溢れる。
もう、立ち上がれなかった。
はたから見れば、階段から落ちて泣いてるように見えたであろう。

マリに嫌われた、想像するだけで胸が締め付けられる。

「謝らないと・・」
そうよ、許してくれるかわからないけど、謝らないといけない。
マリさん・・・。


その時、背後から誰かが駆けてくる音が聞こえた。
「ミランダ!」

マリだ。マリは泣いてるミランダを見ると急いで駆け寄り、
「どこか打ったのか?」
とても心配そうに、大きな手でそっと背中に手を添えてくれた。

優しい。

この優しさに甘えてしまう。

でも・・・


「・・ごめんなさい」
急いで言いながらも、溢れる涙を抑え切れない。
「?」
マリは怪訝な顔をする。

「ごめんなさい、マリさん・・私、知らなくて。でも、考えたらマリさんが怒るの、当たり前ですよね・・・」
グスン、グスンと鼻をすする。
マリは、ますます分からないという風に首をひねる。
「ミランダ?話しがよくみえないんだが、いったいなんの事を・・」
「そのぅ・・・」
ためらいがちに
「マリさんに噛み付いてしまって・・・」
顔が熱くなる。
マリは、はっとしたように見えない目を少し見開き
「あ、ああ。あれは、別にミランダのせいでは・・」
マリの顔にさっと朱が刺したのにミランダは気付かなかった。
「でも、ほんとに、私ったらいつもマリさんに迷惑かけて・・・」
「ミランダ、わたしは」
「わたしなんて、わたしなんて・・マリさんに嫌われてもしかたないわ」
「?お、おい、まてミランダ?」
「ほんとうに、ごめんなさいっ!」
ミランダは立ち上がろうとした。


ぐらり


あらっ?!

ミランダは上手く立ち上がれず、そのまま吸い込まれるようにマリの胸の中へ崩れ落ちた。
今気付いたが、どうやら足をくじいているようだった。


「きゃっ、わ、私ったら」
あわててマリの胸から離れようとしたが、離れられない。

「!!」
マリがミランダを抱きしめていたのだ。

「怒っても嫌ってもいない・・」
「え・・」
優しく、抱いた腕に力をこめているのをミランダは感じてた。
「迷惑に思ったこともない・・私はミランダが・・・」
「?」
ミランダはマリを見つめる。
マリは顔が赤くなっている。

「マリ、さん?」
「・・・・・」
「どうか、しました?」
「・・・いや」

口ごもると、そのままミランダを抱き上げた。

「えっ、マ、マリさん?」
「医務室まで送ろう」
「は、はい。あ、でも大丈夫です、一人で行けます」
「無理するな」
優しい声音は有無を言わせない。

ミランダはマリの首にそっと手を回す。

ふいに、マリの首のつけねに治りかけの小さなカサブタを発見した。


次の瞬間、それが自分の歯型であると気付き卒倒しそうになった。

この逞しい首に、唇をつけたのだ。

恥ずかしくて目をそらそうとしたが、そらせない。
「ミランダ?どこか具合でも悪いのか?心音が少しおかしいが」
「ええっ!いえっ!だ、大丈夫ですっ」
「やはりおかしいぞ、あとで診てもらおう。実は、最近、ミランダの心音が速くて心配していたんだ」
「・・・・・そうなんですか?」


その心音の原因がマリであることに、ミランダはまだ気付いていない。

その事に気付くのは、あともう少し。

end

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