D.gray-man T





「おはよう、チビミラちゃん、今日は何が食べたいの?」
「おはよう、ジェリーおじ・・おねぇちゃん」

初日に、おじちゃんと言ってしまい、ジェリーに叱られたのだ。

「んーとね・・クロアッサン」
「クロワッサンね、オッケー!ちょうど焼きたてよ」

ジェリーは、言って奥へ消えた。

その時、ミランダはなぜか、マリの胸に隠れるように小さくなった。
マリがある気配を察知した時、背後から

「ミーちゃんっ」

甘い声と共に、師匠のティエドールが現れて。
ティエドールは、マリの手からミランダを奪うと愛情大爆発、というようにムギューと抱きしめた。

「し、師匠・・お、おはようございます」

マリの挨拶は聞こえていないようだ。ティエドールは、ミランダにほお擦りして

「ミーちゃん、おはよう・・今日もかわいいねっ」
「ししょお、おひげ、いたい・・・」

ミランダは、泣きそうに顔を歪める。

「もう、ちゃんと『パパ』って呼ばないとダメだよ」

ティエドールは、口を尖らせて、マリを見ると

「マーくんが、僕の事をちゃんと『パパ』って呼ばないから、ミーちゃんも僕を『師匠』なんて呼ぶんじゃないか」

全くもう、と呟かれ

「は・・はあ」

そもそも娘じゃないだろう、という思いはしまっておく。リナリーの、同情の視線を感じつつマリはこっそりため息をついた。

「じゃまくせぇ、どけよ」

神田の声がして、リナリーが振り返る。

「あら、神田。おはよう」
「・・ふん」
「ああ、ミーちゃん、ユー兄ちゃんだよ」

神田はティエドールをギロリと睨み

「その、気色悪い呼び方、やめろって言ってん・・ですよ」
「全く・・そんなんじゃ、ミーちゃんに怖がられるだけだよ」
「ほっといて下さい。どうでもいいですから」
「ああ!もしかして・・ジェラシーかい?
大丈夫だよ、ユーくんの事も変わらず愛してるから」
「なっ!?い、いい加減にっ・・!」

また、いつものやり取りが始まった時・・。

「うっ・・・ぐすっ」

ミランダの瞳から、ぽろぽろと涙が落ちて

「ふぇ・・ええん・・」

マリに向かって手を伸ばした。

「マリおじちゃん・・抱っこ・・」

マリが、ミランダを抱き上げる。

「師匠も神田も・・ミランダが怯えてますよ・・」

よしよし、と背中をさするともう離れまいと、ギューッとしがみついてきた。
リナリーがそれを羨ましそうに見て

「いいなぁ、あたしもミランダにギューされたい・・」

神田は舌打ちしつつ、蕎麦のトレーを受け取り、早々と席についた。
ティエドールは、なぜか涙を流しながら

「マーくん・・いいお兄さんだねぇ、素晴らしい・・」
「き、恐縮です・・」

ティエドールが、こういう人で(ある意味)良かったと安堵しながら

「さ、ミランダ。ご飯を食べよう」

ミランダは、まだグスグスと鼻を啜ってはいたが、マリの言葉に頷いた。

「はーい、もういいかしら?」

ジェリーが、肘をついてこちらを見ている。

「ご、ごめんねジェリー」

リナリーが慌てて、用意されてあったトレーを持った。

「ま、いいわ。ほらチビミラちゃん、サクサクのクロワッサンよ」
「・・わぁ・・美味しそう」

ミランダは、ようやく笑顔を見せたのだった。










コムイに呼ばれて、科学班のフロアに行くと、ちょうど任務から戻ってきたアレン、ラビ、クロウリーとリンクがいた。


「は、話しには聞いてましたが・・・ほ、本当だったんだ」
「こりゃ、スゲェ。記録(ログ)もんさ・・」
「ほ・・本当にミランダであるか?お、驚きである」
「・・・・・」


四人に取り囲まれて、ミランダはオロオロしている。

「こらこら、ミランダが怖がっているだろ?」

ミランダを抱き上げた。

「・・このひとたち、だあれ?」

小声で聞く。気にはなるらしい。

「ミランダの仲間だよ、アレンに、ラビ。
そしてクロウリー。あっちにいるのはリンクだ」

紹介すると、恥ずかしそうにしながら

「こ、こんにちは・・」

マリに抱かれながら、挨拶した。

「こんにちは、ミランダさん。僕、アレンって言いま・・」
「マリ、俺ミランダ抱っこしたい!」

アレンが紳士的に挨拶する横からハイハイ!とラビが手を上げた。

「ちょっとラビ!ずるいですよ!僕だって抱っこしたいのにっ」
「こういうのは、早いもん勝ちさ!」

すると、リンクが二人を遮るように

「あなたたち、見苦しいですよ、もっとエクソシストとして・・」
「そんな事言って、リンク、僕らを出し抜こうってんじゃないですか?」
「!?・・な、何をっ」
「普段、ミランダに相手にされてねぇから、甘いもので釣ろうって魂胆さ!」

ラビが、リンクの懐からキャンディーの袋を抜き取った。

「なっ・・!?貴様なんて事するんだっ!」
「リンク、このキャンディーは没収させてもらいますよ」

アレンはキャンディーをわしづかみして、口に放り込んだ。

「ぬっ・・!!ウォーカーっ・・」

リンクが歯噛みした時、

「わ・・・だ、大丈夫であるか?」

クロウリーが、恐る恐るミランダを抱っこしていた。

「こ、怖くないであるか・・?」

ミランダは、コクンと頷く。

「ク、クロちゃんっ・・!」
「クロウリーっ!」

意外な伏兵に出し抜かれ、アレンとラビは地団太を踏んだ。
クロウリーは、小さな子を抱くのは初めてらしく、感慨無量といった風に

「・・あったかいである・・」

ジーンとしていた。


「さ、クロちゃん、俺らと交代して・・」

我慢できず、ラビが手を出した時。ガチャ、と司令室の扉が開き

「マリ、ミランダ、何してるの?・・ん?」

リナリーが現れた。クロウリーが慌てて

「す、すまない。ミランダを引き留めてしまった」

マリに、ミランダを渡す。

「ク、クロ・・リー?おじちゃん、バイバイ」

ミランダは、クロウリーに小さく手を振った。

司令室の扉が再び閉められ、アレンとラビはヤサグレた気持ちで、科学班フロアから出ていく。

「リンク・・・」
「?・・なんですか」
「ミランダさんが、あの状態の内は、スィーツ作るの禁止ですよ」
「なっ!?」

ギョッとしてアレンを見た。

「作ったら、僕が片っ端から食べますからねっ」

ニッコリ笑う。
ラビが、リンクの肩をポンと叩いた。

「・・諦めるさ」
「・・・・・っ卑怯者めっ!」

なんと言われようと、リンクの幸せを阻止する二人なのだった。











「とりあえず、推測はできたよ」

コムイは資料を手にしながら。

「と、いっても、あくまで推測なんだが」
「・・推測?」
「今、ここにいるのは、ミランダの意識の一部ではないか。と、いう事だよ」
「意識の一部?どういう事?兄さん」

コムイは、うーん、と唸って、

「つまり、金縛りみたいな状態ではないか、という事だよ」

リナリーは、ますます解らないと首を捻った。

「ミランダの体は失神状態・・意識はイノセンスにあり、その意識でイノセンスが、なぜか発動している・・」

コムイが腕を組む。

「ただ、なぜ発動しているかは・・謎のままなんだけどね」
「・・・では、元に戻る方法も解らないのか」
「いや・・ミランダの意識が、イノセンスを動かしているなら、彼女の体に意識が戻れば発動は解けるはずさ」

どうやってかは、分からないんだけど、とコムイは付け足した。
腕の中のミランダは、大人達の話には興味がないのだろう、うとうと、眠たそうにマリの胸にもたれている。

「金縛りか・・・」
「一部の意識を残して・・・体をイノセンスに乗っ取られているような状態だからね。
金縛りに近いだろ?」

マリとリナリーは、頷いた。

「まあ、恐らく近いうちに目覚めるんじゃないか、というのが僕とヘブラスカの意見だよ」

それを聞いて、安堵した。
小さなミランダは、いつの間にか寝息をたてている。
眠って、体温が高くなった彼女をマリは複雑な想いで抱きしめた。


眠ってしまったミランダをリナリーに任せ、考えをまとめる為にマリは中庭へ出た。

ベンチに座り、息をつく。

(そういえば)

この場所はミランダに想いを告げた場所だ。無意識に、ここに来ていたらしい。

(・・・・ミランダ)



『ほ・・本当ですか・・?』

ミランダは、驚きで、声が震えていた。


『わた・・私も・・です』

『私も・・マリさんが・・・・・好きです』


ミランダと自分の心音が同じくらい速く。
喜びで身が震えることを初めて知った。抱きしめることも、口づけも、できず。
それでも愛を確かめ合うように、その手に触れた。


グッ、と眉間に皺を寄せる。

無性に、会いたかった。

任務の間はしかたない。けれど、ホームへ戻ればいやがおうでも思い出す。

どこか危なっかしい、歩き方。 すぐに跳ね上がる、心音。

なにより

『マリさん・・・』

彼女の声が、聞きたかった。

(発動を解く・・・・)

どうすれば、いいのか。マリは指を組んで、額にあてた。
ふと、足音が聞こえて振り返る。リナリーの足音だった。

「あっ!マリっ・・ミランダ見なかった?」
「寝ていたんじゃないのか?」
「それがっ・・気がついたらベッドにいなかったの」

リナリーは、動揺している。マリは、落ち着かせるように

「大丈夫だ・・今、聴いてみる」

そっと、目を閉じて音を捜した。

トク、トク、トク・・・

聞き覚えのある、心音。

(・・・・)

安堵しつつ、より詳しく聴き分ける。


彼女の呼吸が、して・・・


(ん?)

意外な場所にいる事に気付く

(まったく・・)

思わず笑みがこぼれた。

突き動かされるように、マリの体ははそこへ向かっていた。



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