D.gray-man T



驚いて目を見開く。マリは、ゆっくり近づいてきて

「部屋に行ったんだが、いないから心配した」

言ってから、少し慌てたように

「あ、いや・・こんな時間に女性を訪ねるのは・・どうかとは思ったが、その・・ミランダが心配だったから」

申し訳なさそうに呟いた。

(・・マリさん)

「とにかく、ここは寒い。よかったら部屋に入らないか?」

扉を開けて、ミランダを招き入れる。バタン、と扉を閉めて、マリは灯を点す。

「暗くないか?」
「は、はい」

マリは、安心したのか、微笑んだ。

「それから・・」

少し、言い澱んで。

「今日は・・すまなかった」
「・・え」
「本当に、すまなかった。忘れてくれ」

そう言って、ベッドに腰掛けた。

「・・・・・」
「ところで、ミランダはどうしたんだ?」

(忘れてほしい・・?)

あの時の抱擁も?
震えるほどの、愛の告白も?


(忘れたくない・・)


指先は、緊張からか冷たくなって、体は少し震えていた。
カサ、という紙包みをマリへ差し出した。

「あの・・貰って・・くれませんか?」

手が震える。

マリは、不思議そうに、受け取ってリボンを解いた。

「なんだ?」

ガサ、と手を入れて。手触りを確認すると、ミランダを見た。

「これはまさか、ミランダが?」
「あ、あのっ・・凄く下手なんです・・
でも・・あの・・マリさん、頭、寒いかなって・・」

緊張と恥ずかしさから、しどろもどろになる。

「あ・・でも、私が勝手に作っただけなので ・・その・・」
「すごく・・嬉しいよ」
「えっと・・え・・?」

マリは、本当に嬉しそうで。
こんなに、嬉しそうに笑う彼を見たのは初めてだった。

「本当に、嬉しい」
「・・・・そ、そうですか?」

ホッとした。

「マリさん、あの」

おずおずと、近づいて

「・・今から、きっと困る事・・言います。 困ったら、その・・言って下さい・・。」
「ん?」

すぅ、と息を吸い込む。

「わ、私・・ご存知のとおり臆病で、いつも悪いことばかり考えて・・だからマリさんとも、きっと仲良くなると、私の駄目なとこに呆れられちゃうんじゃないかって、がっかりされるのが嫌で、ほんとは好きなのにそうじゃないって 思い込んだりして、でも、やっぱりそんな自分が嫌で、なんとか変わりたくて、だから、だから・・えっと・・そのっ・・あれ、何を言いたいかというと・・」

言いながら、訳が分からなくなって、ミランダは混乱してきた。

「ちょっと待て」

マリが遮る。

「つまり・・ミランダは、わたしとこれ以上親しくなるのが、怖い・・と」
「えっと、は、はい」
「それは・・・」

マリは、ひと呼吸おいて。


「わたしが、好きだから?」

「!!!」

ミランダは、ハッとして、口を押さえた。
気付かないうちに、核心を言っていた事に、たった今気付いた。

カアァッと、体が熱くなって

「え、えっと、それは・・そのっ・・あの・・」

マリが、じっとこちらを見てる。そのプレッシャーに耐え切れず、

「・・・はぃ・・」

消えるように、頷いた。



「それは男としてか?それとも・・」

そう聞く、マリの顔は真剣そのもので。

「・・お、男の人として・・です・・」

うつむきながら、告げた。
マリが、ゆっくり立ち上がり、こちらへ来る。
ミランダは緊張から、体を硬くした。

「ミランダ」

そっと肩に触れられる。

「わたしは、呆れたりしない」

マリは、穏やかに囁く。

「・・・ミランダは、わたしにとって奇跡なんだ」

ミランダは、マリが幸せそうに微笑んでいるのを見た。

「今まで生きてきて、こんなにも・・・
誰かといるのが楽しいと・・感じたことはなかった」

マリは、ためらいがちに、頬に触れて

「ほんとうは、もっと一緒にいたいんだ、ミランダと」

臆病な気持ちが、雪解けのように、ほぐされていく。
じんわりと、マリの言葉が心に染みてきた。

「私も・・です」

頬に触れる、マリの手をそっと、握る。

「私も・・あなたといると・・幸せです」
「その・・ミランダ・・」

言いづらそうな声が降ってきた。

「・・抱きしめても・・いいだろうか」
「は・・・はい」

少し朱のさした顔のマリに、緊張ぎみに応えると、温かな毛布に包まれるように、ミランダは、マリの体に抱きしめられた。


(あたたかい・・・・)

体温が、ゆっくり伝わる。
人の体がこんなにも気持ち良いとは、知らなかった。 そっと目を閉じてマリの胸の音を聞く。

トク、トク、と耳から伝わる優しい音楽。

(幸せすぎて・・怖いくらい)

はた、と気付く。

(やっぱり、臆病者だわ・・・私)

ミランダは、幸せにしがみつくように、マリの背中に手を回した。









「おい、アレン」

ラビは、食後のコーラを飲みながら言った。

「はんれふは(何ですか)?」

アレンは、特大オムライスを掻き込んでいる。

「あの二人。」

視線の先には、マリとミランダが今日も仲良く食事中であった。アレンは、ため息をつく。

「ラビ、今度はなんなんですか?」
「うーん。なんか、こないだまでの雰囲気と違うんさ」
「・・そうですか?」

怪訝な顔で、アレンも二人を見るが特に何も気付かない。そのまま、デザートのみたらしだんごに手を延ばした。

「まったく、アレンはガキさね。オレにはわかるね、ありゃなんかあったって!」

自信満々に言うラビに、静かにムカツキながらアレンは

「なに言ってんですか、今だにリナリーに男として見てもらえてないくせに」
「なっ!う、うるせぇさっ!じ、自分だってそうじゃねぇかっ・・」
「さぁ、どうですかね〜」

意味ありげに笑う。

「ち、ちょっ・・どういう意味なんさっ!」
「あなたたち、ここは公共の場ですよ。くだらない揉め事はやめて下さい。」

リンクが、コーヒーを飲みながら冷めた声で言った。

「はいはい、ほんとリンクはお母さんみたいですね」
「きっと次は、早く食えって言われるぜ」

リンクはキッと、アレンを睨み付けて

「分かってるなら、とっとと食べ終わってください!」



そこから、少し離れた席。

マリとミランダは、恋人同士での、初めての食事を噛み締めていた。

「マリさん」

「なんだ、ミランダ」

会話は変わらずとも、二人の心は、くすぐったいくらいの幸せで
溢れていたのだった。




End

↓おまけ











(・・・・・!?)

それを見た瞬間、神田の時間が止まる。
長い付き合いだが、彼がそういう装飾品をつけたとこは、見たことがなかった。

(マジかよ)

問題は、それがどう見ても買った物ではないと、一目で分かる事にある。恐らく、最近べったりくっついてる、あの女だ。

ミランダ・ロットーとかいうエクソシスト。

あの女の、手編みの帽子。


神田は、マリの頭に被されたソレに対してなんと反応すればいいか分からない。とっさに目を反らす。


あの、マリが。

あの、マリが、である。


(デカイ図体して・・何をしてやがるんだ!)

帽子をかぶって、ほのかに嬉しそうなところも気に入らない。神田は、イライラしながらも、無視を決め込む。
マリに指摘して、下らない会話をしたくなかったからだ。


その時、

「ワァッ!マリ先輩、それミランダさんの手編みっすか?」

チャオジーの声が、神田の頭を飛び越える。

(あの野郎・・・!)

渾身の思いで睨みつけるが、チャオジーは無邪気に

「いいっすね〜っ!羨ましいっす!」
「・・そうか?」

マリの頬が緩む。

「そっすよ〜、いいなぁ。恋人からの手編みなんて、憧れるっすよ!」

キラキラした目で、マリを見た後、
くるり、神田を見て。

「神田先輩も、そう思うっすよね!」

(なに俺に振ってんだよっ!!)

「そんなもん、いらね・・」
「ほんと、いいなぁ!オレも恋人欲しいっす・・」

チャオジーは、神田の言葉は聞いてないようだった。
純粋にマリを羨んでいる様子に、神田は馬鹿らしくなってその場から、離れようと立ち上がる。

「あっ、神田先輩、どこ行くんすかーっ?」

声に応える事なく、ずんずん歩いてく神田を見ながら

「神田先輩、どしたんすかねぇ?」

チャオジーは首を捻った。





後日、チャオジーからこの件を聞いたティエドールは羨ましがっていた(?)愛息の為に、手編みの帽子を編み始めたという。





神田の受難はつづく・・・。





おしまい!

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