D.gray-man T






「マリさん」


「なんだ、ミランダ」








ここは黒の教団本部、食堂。


ラビは食後のコーラを飲みながら

「なぁ、あれどう思う?」
「はいはれふは(何がですか)?」

アレンが、特盛カツ丼を掻き込みながら応える。横には、定位置のように、食事を終えたリンクがスィーツの本を読んでいた。

「あれさ、あれ。あの二人」

ラビが目配せして、マリとミランダを指す。


少し離れた場所で、マリとミランダは、お互い向かい合いながら、食事をとっていた。
微笑み合い、ほのぼのとして、なんとも癒される光景である。


アレンは、カツ丼をガーッと流し込んで

「・・幸せな恋人たちの光景じゃないですか」
「おまえ、マジでそう思ってんさ?」
「僕はあの二人には幸せになってもらいたいですから。」

そう言ってデザートの二段重ねのケーキを食べ始めた。

「ラビはいったい何が言いたいんですか?回りくどいなぁ」

ラビは声を落とし

「つーかさぁ、オレ思うんだけど・・」
「?」

懐からメモ紙を出して『あの二人、付き合ってないと思う』とさらさら、書いた。

「?何言ってんですか、ラビ」

ハー、とため息ついて

『あんなにいつも一緒にいるんだから、付き合ってるでしょ』
『オレが言いたいのは、多分、両思いだろうけど、それ告ってねんじゃね?』

アレンは首を捻った。

『根拠は?』

サラリ、書く。

ラビは、ふっと笑うとペンを走らせた。

『オレの勘』

ビリビリビリ、

アレンは破った紙を、クシャクシャに丸めて近くのごみ箱へシュートした。

「よし、入った」
「ちょっ・・!何してんさ・・」
「ラビの勘て、信憑性ゼロって事と同じじゃないですか」

やだなぁもう、と笑いながら残りのケーキを食べ始める。

「オ、オレはあの二人を心配して言ってんさっ・・」
「どうでもいいですが、そろそろ食べ終わったらどうですか?」

リンクがアレンを嫌そうに見た。

「これ食べたら行きますって、リンクはお母さんですか?」

そんなこんなで、話はうやむやに流れていた。





ラビの勘は、当たらずとも遠からずであった。


事態は、少しだけ複雑になる。






「では、おやすみミランダ」
「はい、おやすみなさい」

部屋の前まで送ってもらい、ミランダは静かに扉を閉じた。
明かりを点けて、いつものようにイノセンスであるタイムレコードを机に置く。


(・・・今日も・・)

ミランダは机の上に置いてある紙包みを手に取った。
不恰好なリボンで結ばれたそれは、ミランダの努力と根性の結晶で・・


(今日も渡さなかった・・)


『渡せなかった』ではなく『渡さなかった』のである。小さくため息をついて、リボンを解いて中身を取り出した。


黒に近い、濃灰色の毛糸で編まれた帽子。
一目で、手編みだとわかるそれはお世辞にも上手とは言えず、素人がなんとか形にしたのが分かる出来栄えである。


新しい団服に合うように、こっそり街に毛糸を買いに行って、マリの頭は冬だと寒そうだと、ひとり誰にも言わずに編んだのだ。


ミランダは、帽子をまた袋へ戻す。リボンを結び直し、机に置いた。

(やっぱり、無理だわ)

渡せない。
ミランダは、ベッドへ倒れ込むように寝転がった。
枕に顔を埋めて、二日前のある事を思い出す。




あれは、昼食時。

ミランダは一人、食堂へ来ていた。
時間が、遅めであったことからかなり空いていたが、ファインダーのグループが何組かいて、何やら談笑しているのが耳に入る。

「手編みのセーター!?ムリムリ!」

笑い声と共に、声が上がった。

「あー、たしかに。手編みって怖いよな」
「怨念こもってる感じ?」
「そうそう、貰って困る物No.1だよね、手編みって」

ミランダは、全身から血の気が引いた。
手編み、というキーワードがそこ迄敬遠されているとは初耳である。

そんなに、嫌なものなのだろうか。
ミランダは昨日ようやく完成した帽子を思う。

何日も徹夜して、仕上げたけれど・・・。

(こういう所が、重たいのね・・)

ミランダは、大きくため息をついた。



「マ、マリさん」

その夜、ミランダはマリと談話室でお茶を飲んでいた。

「なんだ?」
「あ、あの・・・今日、食堂で聞いた話なんですけど・・」

あくまで、さりげなく。

「男性は、手編みの物を貰うと嫌がるって・・ほ、本当なんですか?」

指がちょっと、震えてしまったが、なんとか自然に言えたと思う。

マリは少し考えながら

「人によると思うが・・・」

それから、ミランダを見て。

「好きな相手からなら嬉しいだろうな」
「・・・そ、そうですか」

(・・好きな・・相手)

マリは、ミランダを見つめている。
心臓が早鐘のように鳴って、ミランダはなんとなく目を伏せたのだった。



やっぱり、そうなのだろうか。



枕に顔を埋めながら、考える。

(マリさん・・私の事・・?)

顔が熱くなる。
以前、マリに言われた事があった。

『ミランダが、好きだ』

あの時は、単に仲間としてかと、思って『ありがとうございます』と軽く応えてしまったが、その時のマリは一瞬寂しそうに見えた。

(・・そうなのかしら)

キュ、とシーツを握り締める。

(私は)

帽子を思い出す。
マリを想いながら、編み上げた。

仲間の一人?
じゃあ、どうしてコソコソ編んでいたの?

ミランダは、マリへの気持ちを自覚しながらも、どこかそれをセーブする自分を感じていた。

理由は単純。不幸な過去からの経験である。

恋なんてしたことないが、ステキだなと感じる相手がいなかった訳ではない。
けれど、そう感じた相手はミランダの性質をみると距離を置かれたり、横柄な態度になっていった。


(マリさんは・・そんな人じゃないわ)

マリは、ミランダがどんな失敗をしても怒らないし、呆れたり、笑ったりしない。


(あんな人は初めて・・)


でも、だからこそ、怖い。


もっと、親しくなってしまったら、幻滅されそうで。
あの穏やかな顔に、落胆と軽蔑の色を見るのが怖いのだ。

(だから)

帽子は、渡せない。
帽子を渡すことは、好きだと告白するようなもの。

ミランダは枕から少し顔を上げて、紙包みを見てからそっと、ため息をついたのだった。

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