D.gray-man T





「マ、マリさん・・」

しゃくりあげながら、マリを見た。
心配そうな、その表情に、突き動かされるように


「イーシャさんて、誰ですかっ・・」


マリは、ぱちぱちと瞬きを繰り返して


「は・・?」

ポカン、とした。


ミランダは責めるようにマリを見て

「ほ、本当の事、言ってくださいっ・・
わ、私・・知ってるんですから」
「いや、ほんとに・・誰だ?それ・・」

全く分からないと、首を振る。


「マリさんが、寝言で言ってた人です」
「寝言?」

うーん、と考え込む。

「そ・・その、ベッドに入れ・・って」

真っ赤になってミランダはうつ向く。

「な・・?!」

マリも、驚いて



「そんな夢は見た記憶がないが・・」

頭に手を押さえて考える。
ミランダは、急に自信がなくなってきて

「・・イーシャ、早くベッドに入れ、って・・」

小さな声で呟く。


マリの頭に、何か引っ掛かるものを感じてハッとしたように

「もしかして、中庭で?」
「え?は・・はい」

ミランダは頷いた。
マリはどっと肩を落として









「それは・・・デイシャ・・ではないか?」










「え?」

キョトンとした。

「デイシャ、さんて・・・」


ミランダはそういえば、と思い出す。
会ったことはないが、以前ノアに殺されたエクソシストがマリの弟弟子でたしか、デイシャという名前であった。

マリは、ふう、と息をついた。

ミランダは、カアッと赤くなって

「き、聞き間違えたのね・・わ、私っ・・」

恥ずかしくて、顔を覆う。 マリは頭を振って、

「いや・・あまり気にするな」

その声は、とても優しい。

「まあ、あまりいい夢ではなかったし、な・・」
苦笑する。

「マリさん?」
「古い夢を見ていたんだ・・・」

マリはミランダの頭に手を置いた。

「その、デイシャさんの?」

おずおずと聞くと、マリは軽く頷いた。

「どんな方だったんですか?デイシャさんて・・」
「デイシャ、か・・・・」

マリが突然口ごもる。

「神田とは、ちがうタイプの手がかかる奴だったな」

そう言って、遠くを見たマリは
心なしか疲れて見えなくもなかった。


深夜の教団が隣人の鐘(チャリティベル)で騒音被害 にあったり、わざと神田を女扱いして、食堂を半壊させたり


(それから・・・・)


『デイシャ、いいかげんにしろっ』
『へいへい、わかったよ、おっさん』
『おっさん・・?』
『オレにくらべりゃ、マリはおっさんじゃん』
『いいから早くベッドに入れっ!』


マリはふと、笑みをもらした。


(あいつは、死んでも・・やっかいな奴だ)

こんなふうな形で、騒動を起こしてくる。
マリは目を伏せて、今は亡き弟弟子を想った。

ふいに、左手に温かいものが触れてそれがミランダの手だと感じる。
そっと触れられて、マリは応えるように握り返した。


「マリさん・・・その、ご、ごめんなさい
私・・変な勘違いして」

ミランダが消え入るような声で言った。
マリは、ふ、と笑って

「いや、お陰で良いものが見れた」
「え?・・・」

マリは、握ったミランダの手を口元へよせると、

「嫉妬されるのも、いいな。愛されてると実感できる」


いたずらっぽく、笑ってから手の甲にキスを落とした。


「!!」

(マリさん、たら・・・)

マリはそのまま、ミランダの背中に手を回し、ヒョイ、と抱き上げた。

「では、医務室に行こうか」






薄暗い廊下を抱きかかえられて進みながら、ミランダは少しだけ悲しかった。

デイシャの事を語ったマリは、どこか淋しげで
大切な人だったろうと想像できて。

(マリさん・・・)

ミランダはマリの気持ちに寄り添いたくて、
すがるように、マリを見つめる。



そうして



そっと、マリの首に手を回して抱きついた。


「ミランダ?」
「・・・・・」


薄暗い廊下で、互いの心臓が重なるように
寄り添いあって。



何かに、吸い込まれるようにごく自然に、唇を寄せ合っていた。






それは、触れるだけのものだったけれど、ミランダは、マリの心に触れることが出来たみたいで嬉しかった。


廊下に響く、マリの足音と、耳にあたる優しい鼓動を聞きながらミランダは、少しだけ充たされた気持ちになって。
彼の腕にくるまれていたのだった・・・。









end

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