D.gray-man T





それはポカポカと暖かな昼下がり。


(あら?)


ミランダは中庭で珍しい姿のマリをを見つけた。
ベンチに腰掛けて、肘をもたれながら眠っているのだ。


(まぁ・・)

無防備な姿を見て、自然に笑みがこぼれて愛しさがつのる。
恋人という関係にようやく慣れてきてはいたが、マリのこんな無防備な姿は初めて見た。


(疲れているのね)

そういえば、任務が続いていたものね、と心で呟く。


(そっとしておいてあげましょう)

本当は、もう少し側にいたかったが、このままここにいたらマリを起こしてしまいそうなので、そのまま、立ち去ろうと静かに踵を返した。

「う・・・・」

呻くような声が聞こえて振り返ると、なぜか苦しそうに、マリがうなされていた。

(ど、どうしたのかしら・・?)

驚いて側へ寄る。

「う・・・く・・っ」

油汗をかいてひどく苦しそうにしている。

「・・はや・・くっ・」
「マ、マリさん?」

驚いて、起こそうと手をかけようとした その時







「       」




マリが発した言葉(寝言)に、ミランダは一瞬にして、石のように固まってしまった















その変化に気がついたのは、夕食時だった。

マリは、修練場から食堂へ向かう道すがら
ちょうど、食後らしいミランダがこちら側に歩いてくるのに気がつく。

「ミランダ」

声をかけると、驚いたのか体がビクッと揺れた。
ミランダは、パッとマリを見たかと思うと

「・・・・」

何も言わず、くるっと踵を返して逃げるように走り出した。

(??・・)

何が起きたのか分からず、ポカンとしていると

「あれ?今のミランダじゃね?」

ラビの声がして

「マリ、なんかあったんさ?」

怪訝そうに見られた。

(あきらかに避けている様子だったような・・・)


(気のせい・・?だよな)


思い当たることは、何もない。


たぶん。

ないはずだ。








翌日も、ミランダの様子は変わらなかった。
あきらかに、マリを避けている。

食堂にマリが入ると、ミランダは慌てて食事を終えて、話し掛けられる隙も与えずに逃げるように出ていく。
どこへ行っても同じような態度だった。


談話室でも、修練場でも、図書室でも


マリがミランダと接点を持とうとすると、それを察知して、凄まじい勢いで逃げる。




ドン!ガタ、ガタタタタ!!


『ヒィィィッ!』




(!?またか)


本日二度目の階段落ちの音が聞こえてマリは現場へ駆け出した。





(い・・痛い・・)

また、やってしまった。
考え事をしながら階段を下りるから、こんなことになるのだ。


(起きないと)

体を動かして、手摺りを掴む。
しかし、それが階段の手摺りではないことに気付いて慌てて放す。

暖かい温もりのそれは、マリの手だった。

「大丈夫か、ミランダ」

軽く、息が乱れている。
きっと急いで駆け付けてくれたんだ。そう思うと胸が切なくなる。

「・・・・・・・ええ」

ミランダは消え入るような微かな声で応えるとマリの手を借りず、立ち上がり
そのまま黙って階段から下りる。

ガシッ

右手が引かれて、そのままぐい、とマリに引き寄せられる。

「!」
「ミランダ、その・・話せないか?」

その顔があまりに申し訳なさげで、困り果てた様子にミランダはなんとなく罪悪感を感じて、戸惑った。
ふくれるように、ぷい、とそっぽを向くと

「わ、私・・・おこってるんです」

ぽつん、と呟く。

「そう、みたいだな」
「・・・・・・」
「ミランダ?その・・」
「・・・・・」
「どうしてか、教えて貰えないだろうか?」

ミランダは、マリを見上げる。

「・・・マリさん、何か隠してませんか?」
「!?」

マリの顔が引き攣る。

人というのは急な場面に弱いもので、マリもこの時、一瞬言葉に詰まってしまった。

ミランダが(やっぱり)という視線を向けているのに気付くと、あわてて

「隠してることは、ない、と・・思うが」

否定しても、ミランダの怒りは収まらないようだ。

「・・・・・・」

悲しそうに、俯く。
マリに掴まれた手を、外して


「・・・マリさんの」


耳の良いマリにも、はっきり聞き取れない呟き。


「なに?」






「・・・・浮気もの・・」


(なっ!?!?)


何を言われているか理解できず、石のように固まってしまい、走り去るミランダを追い掛ける事が出来なかった。


(う・・浮気?)


全く、身に覚えがない。

(うわき?)

マリとしては大変不名誉な誤解だ。
どれほどミランダを大切に思っているか、マリ自身がよく分かっているから。


気がつけばいつも彼女の事を考えてしまうというのに。正直、他人が入り込む隙は無い。

(いかん!誤解をとかねば)

マリはミランダを追い掛けた。















人がいないところを目指して走り続けたせいか ミランダは気付けば地下室付近まで下りていた。
薄暗い、雰囲気のなかでミランダはペタリと座り込む。

(あんな事、言っちゃった)

あんな態度、するつもりではなかった。
本当は、もっと冷静に、あの寝言について聞くつもりだったのに。

(だって・・・・)

彼があんまりにも、いつもと変わらないから。
なんとなく、面白くなくて。


(マリさん・・・怒ってないかな)


愛想・・つかされたらどうしよう。

後悔と罪悪感と、よくわからない悲しい気持ちが 胸から溢れて ミランダの瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。

(あの寝言・・)

胸がキュ、と締め付けられてミランダは唇を噛む。

(どういう事なのかしら)

涙を拭いて、ふう、とため息をついた。
その時、背後から人の気配がしてミランダは慌てて立ち上がろうとしたが、右足に痛みが走って、動けない。

(えっ?)

さっきまで、動いたのに。触ると、熱をもっている。

「ミランダ?どうかしたのか?」

マリの声が聞こえて、顔が赤くなった。

「な、なんでも、ありませんっ」

自分でも、まるで拗ねてるみたいだ、と思う。
マリは、ミランダの近くまで来て異変を感じ取ると、側にしゃがんだ。

「足がどうかしたのか?」

「・な・なんでも・・」
「ミランダ、正直に言ってくれ」

優しく諭すように、言われてミランダは恥ずかしそうに俯いた。

「・・急に、痛くなって」

マリは、ちょっと失礼、とミランダのスカートに手を入れ足首に触れた。

(!)

急な動作に心臓が跳びはねる。

「捻挫だな、おそらく」
「捻挫・・」
「さっき階段から落ちた時にやったのだろう。こういうのは、少し時間をおいてから来るんだ」

そう言って、ミランダのスカートから手を抜いた。

「医務室に、行こう」
「・・・・」
「ミランダ?」


ミランダはぽろぽろ涙を流していた。

「ど、どうした?」
(そんなに痛いのか?)


ミランダは涙を拭くこともなく、しゃくりあげるように、泣き出した。
マリは驚いて、なんとか慰めようと 遠慮がちに、ミランダの背中をさする。

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