D.gray-man T





(やはり、秋らしくモンブランといくか・・いや、季節のフルーツを使ってタルト、まてよ洋酒を効かせたザッハトルテ・・・)

今日、ミランダとのティータイムに何を持っていくか。リンクの頭はそれで占められている。

(まてよ、シャルロットポワールは・・あ、いやダメだ。あれは前回差し上げている・・!)

しまった!とばかりに頭を抱えた。

「・・リンクさっきから何を百面相してるんですか?」

談話室で甘いお茶と甘いケーキを食べながら上目使いで、呆れるようにアレンはリンクを見た。
リンクは、オホン、と咳ばらいをして

「アレン・ウォーカー」
「はい?」
「ほ、本日は大切な案件があり、私はきみの監視を一時的に離れる事になりました。」
「・・・・」
「も、もちろん代わりの監視役もつけますが・・ お・・お願いします。」

若干、しどろもどろになりながらもリンクは言うと、そのまま談話室のドアまで歩いて行った。

「リンク」

声に反応して振り返る。 アレンは笑って「頑張ってくださいね〜」と手を振っていた。

「なっ!だから、私は・・」
「はいはい、分かりましたから。お仕事ですよねっ」
「・・・!」

リンクはそのまま、ドアを打ち付けるように閉めて 談話室を出た。

(ああいう所が、腹立つのだ・・!)

まったく、と鼻息荒くして廊下を歩いていると、階段を下りてくる影に気付いた。確認しなくても、誰か分かる。

(ノイズ・マリ)

相手もリンクの存在は承知していたのか、黙ってこちらを見ていた。

「・・・」
「・・・・」

お互い、顔を見合わせる。

「何か?」
「・・いや」

リンクはそのまま歩き出したが、ピタと止まり

「邪魔、しないでくださいね」
「・・しないさ」

疑いの眼差しでマリを見て「どうだか」と呟き、そのまま歩きだした。


実はそこにミランダがいた。
たまたま居合わせて、なんとなく物陰に隠れていたが、リンクが去ったようなので様子を窺う。

(!!!!!)

彼女は見た。
リンクに熱い視線を向けていた

マリを。

もしかして・・

(マリ、さん・・)

マリがリンクを見つめる背中が、あまりに切なげだ。

(まさか)

マリさんも・・

「ミランダ?」

突然、声をかけられビクッとして振り返る。マリが不思議そうに、見ている。

「あ、そ、そのう」

盗み見ていたようでバツが悪い。ミランダは困ったように俯いた。
マリはその事は気にもしていないようで、ミランダからスッと視線を反らして

「ミランダ・・その」

言いづらそうに、口ごもる。

「?」
「あの・・監査官、いやハワード・リンクをどう思う?」
「え?」

マリは慌てて

「す、すまないっ忘れてくれ!何を言ってるんだ・・」

頭をゲンコツで叩く。

(やっぱり・・!)

ミランダもまた、殴られたような衝撃を感じていた。

「わ、私は・・ハワードさんの事。なんとも思っていませんからっ」
「ほんとうか・・?」
「は、はいっ!安心して下さいっ」

力いっぱい返事すると マリは嬉しそうに、頬を赤らめた。

その姿にミランダは切なくなる。

(二人とも・・誤解してるんだわ。本当は、お互いこんなにも思い合っているのに・・)

ほう、とため息が出る。
ミランダも男性同士のそういった関係が世の中にある事は知っていたが、自分には全く別世界の事と思っていた。恐らく、それは異性間よりも様々な障害があるのだろう。

(私・・力になってあげたいわ・・)

マリはいつも自分を助けてくれる。リンクも優しくしてくれる。26年生きてきて、今まで誰かの役に立つなど ミランダにはない経験ではあるが、この二人の為にミランダは何かしてあげたかったのだ。

「マリさんっ・・!」

マリの手をガシッ掴む。

「!?」
「あのっ・・私っ味方ですからねっ!」
「ミ、ミランダ?」
「応援しますっ・・だから、安心してください」
「??・・よ、よく分からないが・・ありがとう」

マリは腑に落ちない、と首を捻りつつもミランダから初めて手を握られたことに 舞い上がって、なんとなく納得してしまったのだった。




『ハワード・リンク様へ』


「ん?」

リンクはミランダの部屋の前で、ドアに手紙が貼られている事に気付く。


彼の手には綺麗な水色のリボンをかけられた白い箱。
中には自信作の桃のムースケーキが入っている。

手紙を片手でパラリと開くと、彼女らしい柔らかな文字が目に飛び込んできた。


『中庭に、お茶の用意をしておきます。
ぜひ、いらして下さい。』

頬が緩む。

手紙を内ポケットにそっとしまうと、期待に胸膨らませつつ回れ右して、中庭へ向かった。




(よし・・・)

深呼吸して気合いを入れる。
中庭は、穏やかに風ひとつなく、柔らかな日差しが降り注いでいた。

リンクはミランダを捜す。
奥のベンチに人影が見えた気がして、急ぎ足で向かうと、そこにいたのは恋敵のノイズ・マリの姿だった。

彼も驚いているのか、とっさにベンチから立ち上がる。
リンクはキッと睨み付けた。

「貴様、なぜここにいるのだ」

マリも不快そうに

「こちらも不愉快だ。私はミランダに呼ばれたんだ」
「何っ!?嘘をつくな、そんな訳なかろう」
「なぜ嘘をつく必要がある、
私はおまえの事で話しがあると言われたんだ」

マリは腕を組んで吐き捨てる。
リンクはふと、お茶のトレーが用意してある事に気付いた。

トレーには二人分のティーセットとお菓子
そのほかに、折り畳まれた便箋があった。

「?」

手に取り、開くと、さっき見た彼女の文体に間違いない。


『ハワード様、マリ様

お二人は、誤解なさっているようでしたので、 お節介とは思いつつ、このような事をしてしまいました。お許し下さい。

例え、同性同士でも、お互いが強く想い合っているなら、なんの障害はないと思います。

私はお二人の味方です。応援してますね

  ミランダ・ロットー』



リンクの手がぶるぶると震えている。
こめかみの青筋が音がするように、ピキピキと浮き出た。

「どうした?なにが書いてあるんだ」
「貴様か・・」

地を這うような低い声。

「?・・おい」

「気色の悪い妄言を、彼女に話したのは貴様かーっ!!」
















中庭にこだまする、リンクの叫びを聞きながら アレンは窓枠に肘をついてぼんやりと、それを見ていた。



「あれ?アレンくん」

ふいに声がしたので振り返る。

「ああ、リナリー」
「?何が見えるの?」

ひょい、とリナリーも窓から顔を出す。

窓の下は中庭で、何やらマリとリンクが
お茶のトレーを挟んで一触即発の雰囲気だ。

「なに?どうしたの?」

アレンを見ると

「うーん、僕も詳しくは分かりませんが何か誤解があったみたいです」

リナリーは、ふうん、と呟いて、窓枠から離れた。

「ところでリナリー、どこ行くんですか?」
「談話室よ。アレンくんも行かない?」
「あ、行きます」

よいしょ、と体を起こして

「そういえば、ミランダさんは?」
「ミランダはさっき兄さんに神田と一緒に呼ばれていたわ。たぶん、任務かしら?」

へぇ、と相槌をうちながら
アレンは最後にちらりと中庭に目を落とす


(あのケーキ・・もったいないなぁ)


窓から離れると同時に、何か大きな音が聞こえた気がしたが アレンは振り返ることなく歩きはじめたのだった。








End

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