D.gray-man T
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ああ、麗しの彼女はまた今日もあの男と一緒か・・ ・
ハワード・リンクは目の端で確認すると、苦々しい思いでコーヒーに口を付けた。
食堂は朝食時間により、賑わいをみせている。
彼の隣には監視対象である、アレン・ウォーカーが今日もまた胸やけしそうな脂っこい食事をカートに山盛り載せて凄まじい速さで口に入れていた。
(まったく不愉快だ)
このアレン・ウォーカーが、もたもたしていなければ今日こそ、彼女の隣で食事することが出来たのに。
ちらり、と窺う。
彼女、ミランダ・ロットーは、今日も可憐だ。まるで、野に咲く一輪のスミレのように
つつましく、美しい。
(それにしても・・)
腹立ち紛れにガトーショコラを一口で口にほうり込む。
(あの男・・ノイズ・マリめ)
あの男がいつもべったり、ミランダ嬢にくっついているせいで、なかなか話し掛けるタイミングを掴めずにいるのだ。
ノイズ・マリが自分を警戒していることは、とうに気付いている。いや、警戒じゃないな。あれは牽制だ。
わたしのミランダ嬢への気持ちを、とっくに知っているのだろう。
(今だって・・・)
まるで恋人だとでもいうように、ハンカチで彼女の頬についたジャムを拭いている。
(くそっ・・あのくらい私だって気付いていたぞ・・)
歯痒い思いで、ノイズ・マリをキッと睨み付けると、パッと彼女と目があってしまった。
(!!)
突然の事に、動揺してしまい目を反らしてしまった。胸の高鳴りがおさまらず、反らしてしまったものの、やはり気になり彼女を窺う。
ミランダ嬢は、頬をばら色に染めて、潤んだ瞳で、私をそっと見ていた。
(こっ・・これはっ!)
コーヒーを一気に飲み干した。それでも冷静さを取り戻せない。
(まさか・・まさか、彼女も?)
(ミス・ミランダも私を・・?)
「あれ?リンク、どうしたんですか?顔真っ赤ですよ」
隣の大食漢が見透かしたように言う
「!!」
(こ、こいつ・・!)
何か言おうしたが、彼女の視線を気にして、やめる。
私は、決心した。想いを伝えることを・・
やっぱり・・・
(見てる・・・)
ミランダは、ある視線に最近気付きはじめた。それは熱っぽい、眼差し。
アレンを監視しているハワード・リンクのものだ。しかし、その視線に監視のような鋭さはない。
(でも、まるで・・・これって・・)
ポッと頬を染めた。
(ま、ま、まさか・・ねぇ)
ミランダはサンドイッチを口に入れたまま、モゴモゴしながら
ちらっと、隣のマリを見る。大きな身体の、逞しい男性だ。
(え、ええと・・・)
混乱しながら、サンドイッチを口に詰め込む。
「ミランダ、頬にジャムがついてるぞ」
マリがハンカチで、そっとミランダの頬を拭う。
「えっ、あ、ごめんなさい・・」
ああもう、私ったらと、呟いて。ふと、視線の彼と目が合った。
「!!!」
(す・・すごい顔で睨まれちゃった・・)
ヒィ、と声を上げそうになって慌てて止める。
(ハッ・・!!)
雷に打たれたような衝撃が体中に走った。
(や、やっぱりそうなのね!!)
(ハワードさんは・・マリさんのことっ・・!)
恋してるんだわっ!!
(・・私のことライバルと思って・・?)
だから、あんな恐い顔して睨んでいたのね。ミランダは、リンクを見る。彼は、顔を赤らめて、そっとマリを見つめている。
なんだか、いじらしい・・
(同性同士だから・・見つめるしかできない・・っていうの?)
胸がキュンとする。
「ミランダ?どうかしたのか?」
マリの穏やかな声にハッとして
「い・・いえっ・・」
ぎこちなく、笑う。
落ち着こうとカフェオレを一口飲んで、そっとマリを窺った。
(マリさんは・・気付いているのかしら)
いや、気付かない訳無い。この鈍感な自分でも感じた位だもの・・
(じゃあ・・やっぱり・・分かっていて、気付かないふりをしているのね・・)
そう思うと、リンクが哀れだった。しかし、マリとてどうすればいいのか分からないのかもしれない。
落ち着かない気持ちで、また一口カフェオレを飲むと
「失礼・・」
頭上から声がして、そこには、頬を染めたリンクがいた。
リンクはミランダが座るテーブルの前へ立つ。
「失礼・・その、ミス・ミランダ」
頬を染め、軽く咳ばらいをした。マリは苦い顔をする。彼、ハワード・リンクがミランダに気があることなどとうに気付いていたが、彼が直接の行動に移すのはまだ先だと思っていたからだ。
「実は・・あなたに、話しがあるのです。お時間をつくって頂けませんか」
緊張しているのだろう、声が上擦っている。
ミランダは戸惑うようなそぶりで、ちらりとこちらを見て。それから、恐る恐るリンクに問うた。
「あ、あの・・私・・ですか?」
「はい。よろしいでしょうかっ・・」
恐らく、彼のプライドなのか周囲を牽制するかのように口調がきつい。
リンクは一瞬、睨むようにマリを見たがすぐに、視線をミランダへ戻す。
(宣戦布告のようだな・・)
「わ、わかりました。」
ミランダの返事に胸がズキンと痛む。
リンクはミランダに気持ちを告げるのだろう
(もし・・・ミランダが受け入れたら)
マリは、急に己の不甲斐なさを情けなく思った。リンクのように堂々と己の想いをぶつけることなく、遠回しな物言いしかできなかった。
正直、彼女の拒絶が怖い。側にいたいから、中途半端な関係で満足したフリをしていたのだ。
(なんという、臆病者なのだ・・)
ミランダの心音は高鳴っていて、顔も上気している。うまく、言葉が出ないようで
あの、その、と繰り返し
「で、では午後のお茶の時間は・・?」
リンクは一瞬、パッと顔を輝かすものの 、すぐにいつものポーカーフェイスを取り繕う。
「それでは、本日午後14時30分に、お部屋へお迎えにあがります」
そう告げて、踵を返してアレンのいる場所へ戻って行った。
心がザワザワと波立ってしかたない。
(ミランダ・・・)
その時、ふいにミランダからの視線を感じた。何か言いたげで、もどかしいような・・咎めるような、訴えるような、視線。
胸が期待にざわめく。
(もしや・・)
もしや。ミランダは・・
私を・・?
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