D.gray-man T


2

「あ、あの・・その・・」

しどろもどろで赤くなる。

「ごめんなさい、わ、私・・マリさん、看護士さんと・・その、お話中で・・邪魔しちゃ・・いけないと・・いえ、お話じゃなくて・・包帯を・・だから・・」

言いながら、訳が分からなくなってきて、アワアワと焦ってしまった。
マリは不思議そうな顔を一瞬したあと、なぜか嬉しそうに笑ってミランダの肩に手を置いた。 「座ろうか」とソファーに促す。

二人が座るとソファーはグッと沈み、それに伴ってマリとの密着が増した。腕から体温が伝わり、なんとなくミランダは頬を染めた。

「ミランダ・・話があるんだ」
「は、はいっ」

マリの口調があまりに真剣で、それに気圧されてしまう。マリは少し黙って、それからミランダの方へ向くと絞るような声で、

「申し訳なかった・・・」

呟いた。

「え・・?」

キョトンとしてしまう

「ミランダを・・守れなかった」

それが襲撃事件での件だと悟り、深い悔恨を込めた声に、ミランダの胸は締め付けられた。

「守る、と約束したのに・・危険な目にあわせてしまった」

首をブンブンと振って

「ち、違います!マリさんは私を守ってくれました。だって、マリさんが瓦礫の中で庇ってくれていなかったら、わ、私は・・」

涙が出そうになって、言葉が続かない。自分はこんな時でも口下手で、どう言えば彼を楽にしてあげられるのか分からなくて・・・。
溢れそうになる涙をこぼれないようにするだけで精一杯だ。

「・・ミランダ・・」

とても優しい声で、慰めるように頭を撫でられる。

(マリさん・・)

耐え切れなくなって、ミランダは堰を切るように涙が溢れ落ちて 、マリはそのままミランダの頭を抱きしめるように自分の胸へといざなう。

その突然の密着に涙が止まる。

(・こ、これって・・・・)

心臓が早鐘のようだ。
ミランダはそっと、窺うようにマリの顔をみる。その顔は、朱に染まっていた。
マリは小さく咳ばらいをしてから

「それから・・守ってくれて・・ありがとう」

とても穏やかな声で、耳元でささやかれた。

(いま・・なんて・・)

ゆっくり、頭を起こす。マリはミランダの手をそっと取って、両手で包みこんだ。

「命の恩人だ・・ありがとう。」だから、次は必ず・・守らせてくれ」

願うように、その手を自分の胸へとあてると、見えない瞳でミランダの瞳を真っ直ぐ見つめた。
その瞳があまりにも熱っぽいので、ミランダは恥ずかしさから目を反らしてしまった。
嬉しさと、戸惑いと、言葉にできない感激でミランダの瞳から、またポロリと涙が落ちる。

「ミランダに泣かれると・・つらいな」
「あ・・ご、ごめんなさ・・」

慌てて鼻を啜る

「・・手ばなせなくなる」

ぽつり、と呟かれた。

(!?)
いま、なんて・・?

(き、気のせい、よね?)

なんだかすごい事を言われたような気がした。マリはミランダの涙を、指でそっと拭い、微笑んだ。

「そろそろ・・病室に戻らないと、な」

名残惜しそうに、言ってミランダの手を放す。

「あ、あの、マリさん・・!」
「なんだ?」
「私を・・病棟まで、運んでくれたんですよね・・怪我、してたのに」
「・・・」
「ありがとう・・ございました」

ペコリとお辞儀すると、マリは困った顔で

「ミランダ・・そんな事ぐらい」
「と・・とっても、嬉しかったですっ・・!」

強めに言ってしまってハッとする。恥ずかしくなって、俯いた。マリは目を少し伏せて、小さく笑うと「そうか」と肯いた。

「ミランダ・・わたしは目が見えないから、人の美醜はよく分からないが」

ミランダの瞳を見つめて

「わたしから見えるミランダは・・とても美しい・・」

だから、と言葉をつなげて

「もう少し、自信を持っていいと思うぞ」

それだけ言うと、談話室のドアへと向かった。

(え・・・?)

何を言われたのかポカンとして

(えっ、えっ?ええっ?)

気付いた時には、もうマリは談話室から出た後だった。





ドアを静かに閉める。

「リナリー、いるんだろ?」

談話室を出て、マリは階段近くに目を向けた。

「やっぱり、気付くわよね・・マリには」

罰悪そうに、現れた。マリは苦笑しながら

「談話室に誰も入れないように、ガードしてたのもな」

リナリーは首をすくめた。

「だって、ミランダの為だもの」
「どういう事だ?」

リナリーはフフッと笑って

「私、ミランダには幸せになって欲しいの。大好きだから」

マリは不思議そうな顔をする

「ホントは兄さんと付き合ってくれたら、私のお姉さんになるからいいな、って思っていたけど・・兄さん、色々難ありでしょ?」

ねっ?と同意を求められてマリは苦笑いした。

(たしかに・・)

「マリならミランダを大事にしてくれるでしょ?」

見透かすように言われて、マリは軽く咳ばらいした。

「あまり、からかわないでくれよ。リナリー」

リナリーはクスクス笑って

「ごめん、ごめん。フフッ、じゃまたね!」

談話室のドアを開けた。

リナリーが談話室に入るとミランダは熱でもあるような、赤い顔をしていた。

「ミランダ?」
「あっ・・リ、リナリーちゃんっ」

驚いたのか、声が上擦っている。

「ごめんね、ミランダ。遅くなっちゃった!」

ニコッと笑って、ティーポットに手をのばす。

「美味しいクッキーもらったのよ、二人で退院祝いしましょ」
「そ、そうね」

ミランダはまだ動揺が収まらないようで、染めた頬を隠すように覆っている。リナリーは気付かれないようにクスッと笑って

(ようやく、マリの気持ちも報われそうね)

恐らく、教団中の人間は気付いていたろう。マリのミランダへの想いとアプローチを。
気付いてなかったのはミランダぐらいで、あまりの無自覚さに歯痒い思いをしていたのだ。

(まったく・・あれだけ側にいたら普通気付いていいものだけれど・・)

ま、そこがミランダの可愛いとこなんだけど。

(ミランダも、マリに気持ちがあるみたいだしあと、もうちょっとかな?)

リナリーは愉しい気分になりながら、棚からカップを取り出したのだった。




久しぶりの自室で、ミランダはベッドに入る。夜も更けて、教団内は静まりかえっていた。

(寒い・・・)

身を縮こませるように、布団に潜る。
ふいに、今日、マリに触れられたことを思い出した。

(マリさん・・)

想うと胸が熱くなる

(少しは期待していいのかしら)

ば、馬鹿ね・・何を考えてるのかしら・・私・・

(でも・・もし、そうなら・・)

「・・・・・」

がばと、布団から起きる。

「そそそそんなことっ!・・あるわけないじゃないっ!!」

想像もできない。
あの人が自分みたいな駄目な女を、想ってくれるなんて・・・ありえない、そう、絶対。

(でも・・・)

自分の気持ちは、また一歩、階段を上るみたいに上昇していた。

(いつか・・告げる事ができるかしら・・)

もう一度、布団に潜る。

窓から月明かりが差し込んで、イノセンスのタイムレコードを照らしているのに気付いた。

(イノセンス)

『守ってくれて・・ありがとう』

マリの言葉。

(エクソシストになれて・・・よかった・・)

今まで、こんなに幸せな気持ちになれたことはない。大好きな人を、こんな自分が守れた。

(ほんとうに・・よかった・・)

木々の梢が風で揺れる音が聞こえる。ざわ、ざわ、と優しく凪いでいて。それはミランダには子守歌のような音に聞こえた。










End

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