B akuman


攻防



「・・なあ」

互いに黙り込んだまま10分。はじめに折れたのは福田のほうだった。
蒼樹は声をかけられた左側の肩を僅かに反応させたものの、顔は背けたままでゆうに5秒は間を取って返す。

「なんですか」

冷淡な口調に苛立ちを覚えつつも、福田はなんとか堪える。自分に非があるのを分かっているから。
鼻ですうと息を吸い大きく吐き出すと、もう一度声をかけた。

「・・・・悪かったよ」

そのまま相手の言葉を待つが、蒼樹はそっぽを向いたまま微動だにしない。

「・・・・おい」
「はい」
「聞いてんのか、悪かったって言っただろうが」
「全然そんなふうに聞こえませんでした」
「はあ?」

福田の片眉が跳ね上がる。頬は引き攣り、思わず暴言が飛び出しそうになるが、奥歯を噛み締めてなんとか耐えた。
確かに非はこっちにある。それは分かっている。しかしだからといってこの態度はなんなのだ。こっちを見ようともしない蒼樹の態度に苛立ちがつのり、福田は腕を組んで舌打ちをした。


今日2人は久しぶりの逢瀬だった。お互い仕事で忙しく、ようやく会えたのは前のデートから一ヶ月は軽く越えていた。
徹夜明け軽く仮眠をとり、すぐ蒼樹に電話する。蒼樹もちょうど前日に原稿が終わったばかりで、福田からの電話を待っていたらしい。くるか、と聞いたら、いきますと答えた。
シャワーを浴びてると仕事の後の解放感のせいか、下半身になんともいえない衝動が込みあげる。これはどうしようもない男のサガだ。疲れているからこそ感じる本能の声。もちろん蒼樹に会えることに興奮しているのもあった。

(だってしょうがないだろ、久しぶりなんだし)

そんなわけで、ピンポンと呼び鈴を鳴らした彼女がリビングのソファーに座ったところで、福田は我慢の限界と襲い掛かったのだった。
キスをして服を脱がそうとしたところで、嫌がる蒼樹が偶然放った膝蹴りがみぞおちに命中。思わず屈んだ福田の顎にまたも膝からのアッパーが決まり、ソファーから崩れ落ちた。

確かに褒められた行為ではないが、別に体を重ねるのが初めてではない。会えば当然のように求め合うし、互いに恋人だとちゃんと認識している。将来のことだって本人には言ってないが考えている。遊び相手じゃない、本気の相手だ。
だからこそ思う、べつにいいじゃないかと。ムードがないと怒り出し、がっかりです、最低ですと言われるのはまだいい。膝蹴りされたこっちの体の心配もしないとはどういうことだ。大丈夫ですかくらいあって然るべきだろう、普通なら。

そう思い、ひとこと言ってやろうかと思わないでもないが、言ったが最後で久々の逢瀬も喧嘩で終わってしまうのが目に見えていた。

(それは困る)

なだらかな首筋や華奢な鎖骨、そして重たそうな胸元。スカートから覗く膝頭。この一ヶ月、夢見ていたものがそこにあるのだ。
触って、撫でて、キスをして・・とにかく色々したい。苛立ちよりも今は欲望を優先するべきだ。苛立ちなぞ目的が叶ったあかつきには、自然と消滅するものなのだから。
福田はもう一度大きくため息をつき、まだ痛むみぞおちを軽くさすって蒼樹の隣に座った。

「だから、悪かったって」
「・・・・」
「ひ、久々だからよ・・なんつーか、ちょっと・・・その、舞い上がった?みてぇな」
「舞い上がったら、あんなふうに強引に・・されるんですか」
「しょうがねぇだろ、してぇって思ったんだから」
「やっぱり福田さん全然反省してませんね。前にも言いましたけど、こうやっていきなりは嫌なんです。もっと・・雰囲気というか、そういうのを大事にして欲しいと」
「うるせえなぁ、わかったよ。全部ひっくるめてオレが悪いんだろ?それでいいよ、だからいいかげん機嫌直せよ・・めんどくせぇな」
「めんどくさいってなんですか!」
「ああもう、わかったわかった」

顔を引き攣らせ、福田はソファーにもたれ掛かる。横にいる蒼樹は口を尖らしたままだが、とりあえずは顔を向けてくれた。
眉間のシワとふくれっつらは、なんだか拗ねた子供のようで。福田はいつものキレイなお人形みたいな顔とのギャップに思わず苦笑いする。

「なあ」
「・・・なんですか」
「せっかく会ったんだし、そろそろ・・いんじゃね?」
「・・・・」
「あ、そうだ。茶でも飲む?」

彼女の眉間のシワが薄らぐ。ぱちと瞳を瞬いて、意外そうにこちらを見た。

「福田さんが・・淹れるんですか?」
「なんだよ悪いかよ。別にインスタントのコーヒーなんか出さねぇよ・・つってもパックのしかねぇけどな」
「それ淹れるっていうのかしら」
「うるせぇ、飲むのか飲まないのか、どっちだよ」
「飲みます・・けど」

まだ素直になれない蒼樹に福田はしびれを切らして、ぐっと顔を近づける。彼女は驚いて目を見開いたあと、すぐに視線を逸らした。

「なんで逸らすんだよ」
「福田さんこそ、なんでこんな・・顔が、近いです」
「んなのキスに決まってんだろ。仲直りすんだからよ」
「えっ・・なん、なんですか・・そんなの私」
「オレがしてぇんだよ」

がしっと両頬をつかんで、ちゅっと触れるだけのキスをする。
さっきした強引なやつではなく、唇の感触だけを味わうそれは、なんともいえない余韻を残す。
蒼樹の薄赤く染まった目尻が妙にかわいくて、思わずそこにも唇を寄せた。額と鼻先にも同じく触れる。つかんだ頬が熱くなっていくのを感じて、そっと放した。
少し潤んだ瞳がこちらに向けられると、理性が崩壊しそうになる。むらむらとした欲望をすぐに開放したいが、ここは一旦退いてまた後で再挑戦しよう。仲直りのキスを終えて、福田は立ち上がった。

「ずるい・・福田さん」
「なにが」
「・・いえ、なんでも」
「?」

福田は首を傾げお茶を淹れにキッチンへ向かう。その後ろで、物足りない顔でいる蒼樹に気づかずに。

第2ラウンドはティータイムの後で。


END

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BAKUMAN


(bakuman....)





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