B akuman


彼は誰時





うすく開いた瞳に映るのは見覚えのない天井。
蒼樹は微かに眉を寄せたが、ゆるやかに意識が判然としてくると、ああ、と小さく声をもらした。
いつもと違うベッド、違う布団、部屋の香りまで少し違う。
けれどなにより違うのは、隣にいる人の存在。聞こえる寝息と布団の中で伝わる体温。

(ああ、そうだった・・)

恋人となってから初めて、体を触れ合ったのだ。
まだ薄暗い室内をゆっくり見渡す。何時ごろだろうか、まだ日は昇っていないようだから、4時か5時くらいか。
ふと首だけを横にむける。すぐそこに口を開けた福田の無防備な寝顔があり、蒼樹は思わず口元が緩んだ。
けれど布団からむき出しになった筋肉質な二の腕と肩に目がいくと、思わず目を逸らしてしまう。見てはいけないような気がして。
今さらなにをと自分でも思うが、こうして落ち着いてから目にすると気恥ずかしい。昨夜の痴態が思い出されて、逃げ出したくなる。
ありえない声を出してしまった・・とか。色々触られてしまったとか、思ったよりも痛くなかったとか、福田が優しくて少し意外だった・・とか。

(・・・・・)

そうだ、福田はとても優しかった。頬を撫でる手も、重ねられた唇も。
一つ一つ、熱を灯すような愛撫は蒼樹の心を震わせた。不器用な彼の愛情が伝わってきて、嬉しかった。

逸らした目を、ゆっくりと福田へ戻す。カーテンからもれる外の明かりが頬から口元を浮かび上がらせていた。
こうやって福田の顔をじっくり見るのは初めてだ。今までは目が合うたびにドキドキして表情を読み取るので精一杯だったから。

(鼻筋が、きれい・・)

すうっとのびた鼻筋と、薄い唇。髭剃りあとが残る顎先。いつもつり上がり気味の眉は今はなだらかに下りており、こうして見ると端正と言ってもいいような気がする。
寝息のたびに揺れる睫毛と、それにかかる前髪。長い髪は枕の上に乱れて蒼樹の頬にも触れた。上唇が少し荒れているのを見て、ふいに触れたくなる。
のばした中指に福田の息がかかり、微かに湿る。膨らみにそっと触れてすぐに離した。
指先に感じたそれは、昨夜唇に感じたのと同じはずなのに、どうしてか物足りない。蒼樹は口内の唾を静かに飲み込んで、ため息をつく。
唇で、触れてみたいと思った。昨夜覚えたあの感覚が蒼樹の胸を疼かせて、はしたないことを考えてしまう。

(どうかしてる、そんなことを思うなんて)

けれど、一度わいた欲望は抑え切れなくて。目の前の唇ばかり気にしてしまう。
あと少しだけ近づけば、ほんの少しだけ首をのばせば。でも彼がそれで目が覚めたらどうしよう、そう思うと実行することができない。
両頬を手で押さえ、蒼樹は布団に潜る。本当にどうかしていると瞼をかたく閉じた。
きっとまだ余熱が残っているのだ。昨夜愛された熱が、こうして蒼樹の思考を煽るのだ。

(舞い上がってるのかしら・・私)

肌と肌が触れ合うこの状況に、少し浮ついているのかもしれない。
落ち着かなければとを頬を軽く叩いた時、福田の体が寝返りのためか動く。やましさから起きているのを悟られたくなくて、蒼樹は布団に潜ったまま寝たふりをした。

「うー・・ん・・」

福田は寝ぼけているのか、布団の上をまさぐる。何かを探すように手を動かし蒼樹の頭付近で手を止めると、突然強い力で引き寄せられた。
思いがけないことに蒼樹は声を上げる。

「ふ、福田さん、起きてるんですか?」
「・・・んー・・」

布団ごと、まるで枕みたいに抱き寄せた福田は蒼樹の髪の毛に頬を埋めて、そのまま寝息を立てた。本当に寝ているらしい。

「あの・・福田さん」

名前を呼んですぐ、蒼樹は口を閉じる。福田の胸に頬があたっているのに気がついたからだ。
体温が肌を通じて伝わり、蒼樹の心も熱を持つ。速まる鼓動は徐々に落ち着きを取り戻し、耳に福田の鼓動が聞こえる頃には蒼樹の手は彼の背中に回っていた。
恥ずかしさよりも胸に染みたのは、全身に渡る心地よさ。
抱かれた腕の中で蒼樹はうっとりと目を閉じると、自然な動きで唇を福田の胸に寄せる。さっきのような躊躇いもなく、そうするのが当然のように。

チュ、という漏れた音に、福田の鼓動が跳ねたのも気づかずに。



END

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BAKUMAN


(bakuman....)





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