B akuman






「抜け駆けは禁止。会う時は3人で、電話した後は報告すること。どちらかが蒼樹嬢に告白を受けて以降このルールは破棄」
「・・・ちょっと待て」
「なんだよ、公平に3人で会えば問題ないだろ」
「わかるが、なんかすごく納得いかないんだが・・・それ僕が損してないか?だいたいそのルール、福田くんはちゃんと守れるのか?」
「あのな、オレが言い出しっぺなんだぞ?オレが守らなかったら即行で身を引くよ!当たり前だろ!」

ムッとしてこちらを睨んでくる福田にうろんな目を向けながら、平丸は腕を組んで考える。
正直承服しかねるが実際毎度デートを邪魔されているわけだし、嫌だと言っても結局邪魔されるなら呑んだほうがいいのだろうか。
しかしこちらは告白までしているのに「はい」と返事まで貰っているのに、メリットと言えば福田が蒼樹に近づくのを牽制できるくらい・・。

(まてよ)

ふと浮かんだ疑惑を平丸はすぐさま問質す。

「福田くん聞いておきたいんだが、まさか・・・まさかキミ・・蒼樹さんに告白なんかしてないだろうね?」
「へっ?・・・」
「そっ!その顔!したんだね!今思い切り目が泳いだじゃないか!」
「し、してねぇよ!してたらこんな堂々と抜け駆け禁止なんて言えるわけねぇだろうが!」
「ああキミって人はなんて男なんだ、あやうく騙されるとこだった。これはアレだね?人のいい僕がその気になって抜け駆けしないように気を使っているうちに、そっちは堂々と彼女と2人きりになると。いや恐ろしい、その知略には恐れ入る」
「だーかーらー!言ってねぇって!・・・・・・告ろうかなって、思ったことは・・・・あるが」
「やっぱりあるんじゃないか!」

テーブルをバンと叩き、気まずそうに目を逸らす福田を睨む。
けれど福田も開き直ったのか、口を尖らし「未遂なんだからいいでしょ」とマドレーヌを齧った。もぐもぐと口を動かしながら、空いたカップを平丸に差し出して紅茶のおかわりまで要求してくる。
なんて身勝手な男なんだ、それに比べて苛立ちながらもティーポットを傾ける自分はなんて優しいんだろうか。泣けてくる。

「でもさ・・・蒼樹嬢って」

紅茶を一口飲んで、福田が声をひそめて言う。

「隙が、ないっすよね」
「ん?」
「いや・・昔よりは確かに柔らかくなったけど、根っこは変わんないっつーか。本人無意識なんだろうけど、やっぱどっかで男を拒絶してる感じしないすか?告ろうと思ってもそういう雰囲気にさせないっていうか・・」
「それは・・・まあ」

確かに彼女はそういう堅さがある。オーラというかバリアーのような空気をかもし出している。
3ヶ月の間、キスどころか一度も手も握れずいたのはそのせいと言ってもいい。だからこそ今日こそはと練りに練ったムード作りをしたのだ・・・まあ、結局は失敗だったわけだが。目の前の男のせいで。

「だからオレ的には、ああやって告白した平丸さんは正直にすげえなって思うわけで」
「・・・なんだ突然、気持ち悪いな」
「いや、さっき言った未遂の時の話。結局告ることは出来なかったけど、直前で平丸さんが泣き出した気持ち分かったもん。ありゃ泣くよな、よく言えたよ」
「・・・・・」

褒められているんだか馬鹿にされているんだか、妙な居心地の悪さを覚えつつ平丸は冷めた紅茶を飲み干した。

「ところで福田くん、さっきのルールだがもし破ったらどうなるんだ?」
「そんなの、退場に決まってんだろ」
「!・・ち、ちょっと厳しすぎないか?せめて回数を決めて3回目には退場、みたいにしたらいいじゃないか」
「ダメだ。そんなことしたら結局ぐだぐだになって勝負にならなくなる。ルール厳守だ」
「・・・・」

ぱっと見チャラチャラしてるがこういうとこは妙に頑なな男だ。
平丸は内心舌打ちしながらも、そういう頑固さがあるなら抜け駆けはしないような気がして、このルールも悪くないような気がした。

「確認なんだが、もちろんバイクに蒼樹さんを乗せるのも禁止なんだろうね?」

妙な沈黙の後、福田が決まり悪そうに眉を寄せる。

「・・・・ダメっすか?」
「ダメだよ!ダメに決まっているだろ。二人っきりどころか体と体が密着するじゃないか!」
「んなこと言ったって家に送っていくとか・・そういう事情の時だってあるだろ」
「そういう時は僕の車で送っていくから、バイクよりもずっと安心だろ?」
「つかそれも2人っきりだし!密室なぶんさらに危ねーだろっ」
「危ないとはどういうことだ?僕がそんな不埒な真似をするとでも思っているのか?心外な!言っておくけど僕は蒼樹さんがいいと言ってくれるまでは指一本だって触れるつもりはない。当て推量はやめてくれ!」

そう言ってキッと睨んだ平丸に、福田が疑わしげな視線を向けてきた。

「そんなこと言って、今日あわよくばとか思ってたろ。オレが来たからおじゃんになったけど、もとはそういうつもりで誘ったんだろ?」
「!・・そっ、そんなことはっ」
「見たらわかるっての、全体的に欲求不満な空気が漂ってるし。なんだよあの恋愛映画のDVD、魂胆まる見えじゃねーか」
「あれは、蒼樹さんが前に好きだって言ったDVDだ!べ、べつにそういった不謹慎な意味で用意したわけじゃない!」
「どーだか」

怪しまれて動揺した平丸は、それをごまかすように咳払いをして「そんなことより!」と仕切りなおす。これ以上余計な勘ぐりをされてはたまらない。

「バイクの二人乗りをしないって言うなら、そのルールを呑んでやってもいい」
「じゃあ車も禁止っすよ?じゃないと不公平だ」
「そんなこと言ったら誰が蒼樹さんを送っていくんだ。まさかタクシーを使えというのか?さすがにそれはないだろ」
「・・・・まあ、そうだよな」

腕を組んで考えはじめた福田に、平丸はひそかにほくそ笑む。こういう交渉は最初が肝心だ、できるだけ有利な条件で事を進ませたい。
けれど次に出されたのは意外な提案だった。

「よし・・じゃあ3人で乗るか」
「なに?」
「車だよ、車なら3人で乗れんだろ。さすがにオレが運転するわけにいかねぇから、後部座席に座らせてもらうが・・・ん?なんか文句でも?」

顔を引き攣らせる平丸に気づいて、福田が怪訝な顔をする。

「あるに決まってる!なんでそこまで3人で行動しなくちゃならないんだ。おかしいと思わないのか?子供じゃあるまいし」
「なんだよ、そっちがバイク乗せんのダメだって言ったんだろ。じゃあどうすんだよ、いっそ交代制にでもすっか?今日はバイク、次は車って具合に」

それもイヤだ。
バイクの二人乗りと車だと、車のほうが損しているような気がする、色々と。
平丸は他の手はないかと考えるものの、これといった案は浮かばない。少々馬鹿らしいが思いつかない以上は諦めるしかなく、一先ずその妥協案を受け入れることにした。とりあえず助手席に蒼樹がいることで、納得しよう。
正直このルール自体おもしろいものではないが、考えようによっては福田の行動を事前に防げるということだ。自分と違って蒼樹に告白もしていないわけだし。

(告白?・・させてたまるか)

「・・・わかった、それでいい」
「よし、んじゃ決まりだな。オレも男だ約束は守る、そっちも守れよ?」
「当たり前だ。僕はなんだかんだ言っても一度も原稿を落としたことはない、こう見えて義理堅い男なんだ」

ふん、と鼻息を荒くしてティーポットを掴む。視界の隅で福田が疑いの目を向けているのに気づいたが、平丸は知らん顔で紅茶を注いだ。

その時、ちょうど廊下とリビングを繋ぐドアが開いて「失礼しました」と蒼樹が戻ってきた。
バッグに携帯をしまっている時、ふいに福田と平丸は目を合わせる。まるでそれがスタートの合図だというように。
蒼樹はティーポットの中のお茶がなくなっているのに気づいたらしい。

「お茶のおかわり、淹れますね」

そう微笑んでキッチンへと向かう。背後にどっちがそれに付いていくか揉めている男達がいるのにも気づかずに。



ふっくらと柔らかなダージリンの香りは、さながら彼女のよう。
特有の渋みは恋における障害。


そうしてそれを越えたあとに来るのは、とっておきの深みなのだ。





END

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BAKUMAN


(bakuman....)





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