B akuman






平丸は小さく咳払いをしてクッキーを一つ取る。それを食べるついでのように、あくまで自然にその話題を口に出した。

「福田くん、ちょっと・・・き、聞きたいことがあるんだが」
「?なんすか」
「いや、うん、大概僕も勘のいい方だと思うし、あまりこういったコトで色々と勘違いをしたくないんだ。だから、つまりだな・・その・・何が言いたいかというと」
「どうでもいいけど、こぼしてますよ」
「?なに・・あっ」

手に持っていたクッキーが、無意識にいじっているうちに砕けたらしい。カスがテーブルに散らばって残ったのは指先の1cm弱の残骸だけ。
それを空しく口に放りながら、平丸はやや顔を赤らめつつ福田を睨んだ。

「福田くんズバリ聞かせてもらうが・・キミ、蒼樹さんのことが好きなんじゃないのか?」

言った瞬間、平丸はそれを後悔した。
福田は驚いたように目を見開き、こちらを見て。それからすぐに目を逸らした。決まり悪そうなその表情は平丸の問いを肯定していた。

「う・・・・嘘だろ、本当じゃないよな?」
「や、まあ・・なんつーか」
「いやいやいや!おかしいだろ、だってキミ応援してたじゃないか、あの時。告白しろとか言ってなかったか?」

ビシッと人さし指を福田に向ける。
福田はニット帽の上から頭を掻いて、平丸の視線に応えるように肯いた。

「確かにあの時は・・でもほら、失くしてみて初めて分かるっつーか。自分でもそれまで気づいてなかったっていうか」
「なに?」
「平丸さんの告白に蒼樹嬢がOK出した時に、無性に焦ったっていうか。うわ、やっべぇどうしようって」
「・・・・」
「だから、ある意味平丸さんには感謝してんすよ。多分あの歩道橋でのことがなかったら、オレ自分の気持ちに気づかなかったと思うし・・」

福田はその時のことを思い出すように、ティーカップの取っ手をいじりながら遠い目で呟く。

「いやちょっと待て。なんかいい話にしようとしてるみたいだが、だからといって人の恋路の邪魔をしていいということにはならんだろ」
「それを言うなら、オレの恋路の邪魔してんのは平丸さんだし」
「いやいや!キミには酷だが、僕と蒼樹さんはつき合っているんだ。恋人同士!キミも見ただろ?ちゃんと彼女が『はい』というところを。つまり相思相愛ってわけなんだよ、僕らは!」

椅子から立ち上がり一気にまくしたてる。少々きつい言い方だとは思うが、ここで退くわけにはいかない。
福田は眉間にシワを寄せながら、探るような目つきで平丸を見る。

「じゃあこっちも言わせてもらうけど、あんたらほんとにつき合ってんの?」
「?あ、あたりまえだ。デートだってこうしてしてるし・・」
「いやそこじゃなくて、ちゃんと蒼樹嬢から『好き』って言われたのかって話」
「!・・そ、それは」

言葉に詰まる。実はそれがずっと引っかかっていたのだ。
告白はした、OKも貰った、デートも電話もしている。なのに先に進まない、いつまでも片思いの時と変わらない気がして、平丸は正直焦っていた。

「平丸さんも気づいてるだろうけど・・蒼樹嬢って、天然だろ」
「・・・・・」
「あと、ちょっと恋愛に夢見すぎてるっつーか、だいたい歩道橋の時にOKしたのだって平丸さんが好きっていうより・・・あのシチュエーションにときめいたっていうのが正解な気もすんだけど」

ぐさっと胸に刺さった。うっすら気づいていたが、あえて見ないふりをしていたのに。
福田はさすがに言い過ぎたと思ったのか、気まずそうに「まあ、オレの一方的な意見だけど」と腕を組む。平丸は動揺を隠そうとティーカップに手をのばしたが、やめて膝の上に戻した。

「だ、だとしても僕は時間をかけてでも、蒼樹さんに好きになってもらうから・・き、気にしない!」
「時間って、年単位になっても?」
「それでもいい。僕は今までもかなり待ったし、2人きりで会えるようになったんだからかなり進展してる方だ。なにより蒼樹さんが僕の気持ちを知っているというのが重要なんだ」

きっぱり言い切って目の前の男を見ると、福田は頬杖をつき拗ねた子供みたいに下唇を突き出している。

「だったらさ、オレにもチャンスくんねーかな」
「・・・は?」
「虫がいいってのは分かってるよ、でもやっぱり納得いかねぇんだ。オレだってこの3ヶ月見てきて蒼樹嬢が平丸さんのこと好きなら、まあ諦めようって思ったさ。でも、悪いがどうもそう見えねぇんだよな」
「そっ、それは福田くんの願望が入ってるんじゃないのか」
「・・・まあ、ぶっちゃけそれもあるけど」

冷めかかった紅茶をぐいっと飲み干す。福田は何かを決心したように、は、と息をついた。

「なあ平丸さん、オレもあんたも身を引くって選択はないんだろ?てことはこのままいったら泥沼だ、オレとしちゃそれは避けたい。同じジャンプで頑張る仲間とそういった関係にはなりたかねえ、あんたの漫画も好きだし」
「たしかに・・僕も福田組を抜けるというのは嫌だな」
「だろ?なら話は早い、ここは公平にルールを作って勝負しようぜ」
「は?ルール?」

平丸は訝しげに福田を見る。少しだけ嫌な予感がした。



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