Sket Dance


1


椿くんは、やさしい。


「丹生、大丈夫か」

心配そうな顔が、こちらを見ている。
それに申し訳なく思いながらも、少しだけ嬉しさを覚えてしまうのは内緒だ。

「・・ええ、少しよくなってきました」

保健室に囁くような二人の声が響く。
具合が悪くなった自分に椿が付き添ってくれたのだが、保健室には誰もいなかった。職員室へ行こうとする椿を止めて、丹生はベッドに横になる。原因は分かっていた。
布団の中で下腹部を押さえる。月に一度の痛み、月経痛だった。

「確かにさっきよりも顔色がいいみたいだ。貧血だったのかな」
「・・そうかもしれませんね。ご心配をおかけしました」

さすがに本来の原因を言うことは出来なかったが、いくぶん安堵した表情の彼に笑みを返すと、ゆっくりと体を起こした。

「もう少し横になっていた方がいいんじゃないか?」
「いえ、平気ですわ。それより椿くん、皆さん待ってるでしょうし教室に戻られたほうがいいのでは?私はもう少し休ませてもらいますので・・」

教室では、クラス委員を決めるHRの最中だった。そんな中でわざわざ自分に付き添ってくれたのが、丹生には嬉しい反面申し訳なかった。
椿は「ああ・・」と迷うようにドアへと視線を向けたが、すぐに首を横に振る。

「いや、もう少しここにいる」
「え?」
「・・・・」
「椿くん?」

心なしか彼の頬が赤い気がして、僅かに目を見開く。
もしかして椿くんも具合が悪かったのかしら・・そんなことを思い、じっと見つめていると益々赤くなってきたので心配になった。

「あの、椿くん?」

そっと手を伸ばして赤い頬に触れようとした時、驚いたのか椿がビクン!とイスに座ったまま跳び上がる。

「なっ!・・なんだ!急に・・っ」
「す、すみません。驚かせる気は・・椿くんの顔が赤くなっていたので、もしかして熱でもあるのではと思いまして」
「は!?赤い・・!?」

動揺してか、彼は咄嗟に頬を両手で押さえる。

「ね、熱などない!」
「そうですの?なら・・よろしいのですが」
「丹生・・熱があるか知りたいなら、口で言ってくれないか。こうやっていきなり・・さ、触ろうとするというのは、あまりよろしくないと思う」

眉間にシワを寄せて厳めしく言う椿を、きょとんとした顔で見つめる。どうやら機嫌をそこねてしまったらしい。

「あの、申し訳ありません。気をつけますわ」
「だ、誰に対しても一定の距離感というのは必要だぞ?とくに丹生は女子なのだから男子に対しては、さらに距離を取るべきだ・・と、僕は思う」
「・・はい」
「つまり、男子の顔に軽々しく触れてはならんということだ。ボクは・・まあ、キミを理解しているからいいとして他の男子は妙な考えを起こす原因になる・・丹生、聞いているのか?」
「聞いてますわ。その、本当に申し訳ありませんでした・・もうけして触ろうとなんて思いませんので、どうかお許しください」

そこまで失礼なこととは思わなかったので、丹生は落ち込んでしまう。

「・・・・あ、いや」

椿は言い過ぎたと思ったのか気まずそうに視線を床に落とすと、仕切り直すように咳払いを一つした。

「だから・・ボク以外に関してのことだ。よからぬ誤解を避けるための、忠告というか・・助言だと思ってくれ」
「椿くん以外?」
「ああ」
「ですが・・椿くんも先ほど気を悪くしてらっしゃるように見えましたが」

少しホッとしながらも不思議に思い聞いてみると、彼は気まずそうにもう一度咳払いをして「そんなことはない」と呟いた。

「でしたら、よかったです」
「・・うん」
「あの、本当に具合は悪くないんですの?まだ少しだけお顔が・・」
「は?顔?あ、ああ、これは別に・・ちょっと熱いだけだ。今日は天気がいいからな!うむ」
「まあ、そうでしたか。それは失礼いたしました」
「まったくだ。丹生は人のことより自分のことを心配すべきだ。まだ顔色がいいとは言えないぞ、ほらちゃんと横になっていたほうがいい」
「あ・・はい」

険しい椿の横顔をぼんやり見ていると、気づいたらしく怪訝な顔をされる。

「なんだ?丹生」
「いいえ、なんでもありませんわ」
「・・?」

『よからぬ誤解を避ける』という彼の言葉を、頭の中で繰り返す。
こんなふうに心配されるのは初めてではない。椿はいつでも丹生のいたらない所を指摘してくれる。今のように。
彼は真面目で自分よりずっと気がつく人だから、教えてくれるのだろう。椿の優しさだと理解していた。こうやって保健室まで付き添ってくれるのも、世間知らずを心配されるのも。
ただ、それを有り難く思いつつも丹生は少しだけ困っていた。

(椿くんは、やさしい)

優しくされると、こちらこそ誤解してしまいそうで。彼もまた、特別な感情を持ってくれてるのではないか・・。
そんな期待を抱いてしまう自分が、恥ずかしかった。

「椿くんは・・少しだけ意地悪ですわ」
「は?」
「優しすぎるんですもの」

そのやさしさに甘えてしまう。そのなかに、微量でも特別を探してしまう。

丹生の言葉の意味がよく解らないと、椿は困惑の表情を浮かべる。どういう意味かと、彼がそれを問う前に保健室のドアがノックされて、結局その問いを聞く機会を失うのだった。



END


椿→←ミモリンが好きです。



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