Sket Dance


2


「だから・・前にも言ったがそうやってむやみに男の顔を覗き込むな。キミにとってはなんでもないことでも、妙な勘違いをする輩がいないことはないんだぞ?さっきだって、あんな場所に男子と二人きりでいることに少し警戒心を持つべきだ」
「あら、椿くんも男の子ですわ?」
「ボクは生徒会長でキミは副会長ではないか。仲間を警戒してどうする」
「たしかにそうですわね」

うふふ、と微笑む彼女が椿の意図をちゃんと理解しているのかは微妙である。
多分、いや間違いなく丹生はさっき自分がデートに誘われかけたことに気づいていない。あえてそれを伝えるつもりはないが、もしあの時椿が行かなければなんと返事していたのだろう。少しだけ気になった。

「・・・・」
「椿くん?教室に戻られないのですか?」
「あ、いや、なんでもない・・行くぞ」
「はい」

歩き出す自分の少し後ろをついて、丹生は歩き出す。黙々と足を動かしながら階段を上り踊り場へ進んだ時、椿は足を止めた。

「丹生」

またしても、きょとんとした顔で椿を見上げる。ああまたそんな顔をして、と小言が出そうになるのを我慢して、椿はすうと息を吸った。

「聞きたいんだが、例えば・・例えばの話だ、さっきのように男子と二人になった時に・・」
「はい?」
「その・・なんというか・・さ、誘われたとする」
「誘う?どちらにですか?」
「だっ、だから!場所はどこでもいい!・・そうだな・・た、例えば映画でもいい。映画に行こうと男子に誘われた場合・・この場合、相手が友情の枠を超えたものをキミに求めての誘いであったとする。そういった誘いを丹生はどうする?受けるのか?」

もっと穏やかに聞きたかったのだが、なぜか責めるような口調になってしまった。彼女の反応が気になり、そっと窺うと丹生は人差指を顎にそえ、小さく首を傾げている。
なぜかドキドキしながら答えを待っていると、考えがまとまったのか彼女はにっこりとほほ笑んだ。

「まず、椿くんに相談しますわ」

予想していなかった答えに僅かに目を見開く。どういう意味だと問いかける視線に気づいたのか、丹生は落ち着いた顔で続けた。

「私、副会長ですもの。やはり会長である椿くんのご意見を伺わなくては」
「・・・は?」
「?なにか?」
「い、いや!それでいい。いいか丹生、生徒会執行部は生徒の規範でなければならない。また副会長というのは実に大変な役割だ。時として己を犠牲にしなくてはならないことも多々あるだろう。だからこそ、ボクもキミも覚悟を持って臨まねばならない。つまり、つまりだな・・何が言いたいかというと・・ええと、その、なんだ・・とにかく丹生、もし今後そういったけしからん手合いの者があらわれたら、僕を呼ぶように!」

やや強引に畳みかける。どうも個人的な希望を言っているようで、気まずさを覚えた。
こちらをじっと見つめる丹生の瞳に本音を見透かされそうで、椿はこっそりと唾を飲む。じわりと染まってきた頬の赤みを悟られたくなくて、ふいと顔を背けた。

「そ、そういうことだ・・さあ、教室に戻るぞ」
「あの、椿くん」
「なんだ」
「・・あ、いいえ、なんでもございませんわ」
「?どうした、気になるじゃないか」
「その・・」

丹生のうっすらと染まった頬に、椿は緊張とともに鼓動が速まった。彼女は躊躇うように長い睫毛を一度伏せて、それからそっと見上げる。

「その場合、やはりいくらかお包みした方がよろしいのでしょうか・・?」

はい?と声には出さず、椿の顔は引き攣った。

「いらないよ!」
「そうなんですの?まあ・・ありがとうございます」
「全く・・いつもキミは・・まあいい、とにかく行くぞ。休み時間が終わってしまう」
「まあ、たいへん」

言葉とは裏腹に声のトーンは相変わらずおっとりして、拍子抜けする。
無意識にもれるため息とともに階段を上りながら、まだ速まったままの鼓動を落ち着かせた。

背後から丹生がゆったりした足取りでついてくる。その瞳が自身の背中に向けられているのも、視線に含まれた熱も、椿自身気づかずに。




END




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