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「で?どうなのかな、普通に結婚生活できそうな人?難しい?」
「なんですってっ?」

なんて失礼な言い方をする男だ。
『不幸姫』とミランダを貶るような言い方をされる事はあるが、人格まで言われた事はない。

「失礼だわ、うちのお姫様になんてことを言うの?」
「マリって真面目だからね、多分結婚したら余所に恋人を作るとか出来ないと思うんだよ、だから普通の女性であれば・・」
「普通ですっ!呪いもしないし呪われてないし、真っ当な常識的な普通の人間ですっ」

語気荒く言い放つと、目の前な男はポカンとした顔でフェイを見て、それから安心したように笑った。

「ああ良かった」
「はい?」
「仕えている人間がそういうなら間違いないね、うん良かった。これで問題は無くなった」
「・・・はあ?」

清々しいまでの笑顔を見せた男の意図がさっぱり見えない。いったい何を考えているのだ。さっきから「マリ」と呼び捨てなのも気になる、使用人ではないのだろうか。
どちらにしても、男の目的は別にあるらしい。二人の結婚は、その目的の為に必要なようだが・・。

(何を考えているの?)

フェイは片眉をつり上げ訝しげに男を見ると、

「あなた、何かほかに目的があるのでしょう?」
「え?うーん、まあね。分かる?」
「分からない訳がないでしょう?事と次第によっては話を公けにしますから」
「まあまあ、そっちにとっても悪くない話だからさ」

眼鏡をキランと光らせながら、内緒話をするようにフェイに近づく。

「・・・僕はね、ぜひそっちのロード姫を東宮妃として一番乗りで入内してもらいたいんだよ」
「なんですって?」

突然出たロードの名前に、フェイはさらに疑うように男を見る。ますます怪しい、これは何かの罠ではないだろうか?

「ほら、マリとミランダ姫が結婚したら、縁続きになるわけだろ?そしたらリナリーの入内をそっちに配慮したかたちで延期できるわけさ」

いい考えだと思わない?と言われ、フェイは首を傾げた。
そもそも何の為にリナリー姫の入内を延期させたいのか分からない。それにこの男の理屈だと、逆を言えばロードを延期させる話にもなりそうだ。
何よりも、男の正体が不明なので全く信用出来ない。

(この人、いったい何者なのかしら・・まるで身内のような口ぶりだけど)

・・・・・・身内?

「それでロード姫が東宮のご寵愛を一身に受けたら、もしかしたらリナリーだって入内を考え直してくれるかも・・」
「あの、ちょっとよろしいかしら」

熱く語り始める男の言葉を遮り、フェイが恐る恐る口を開いた。
そんな馬鹿なと思いつつもこれは第六感と言うのだろうか。もしかしたら、自分の勘が間違いじゃなければ・・・この男は・・。


「あら、コムイ様?どうしてこちらに?」


若い女の声が背後からして、さっき文箱を渡した女房が戻って来た。
フェイは『コムイ』という名前を予想していたから驚きより「やっぱり」といった思いや、それでもまだ信じ難い複雑な気持ちであった。

コムイ=リー、たしか内大臣の甥でありこの若さで中納言まで出世しているという。少々変わり者らしいと噂で聞いた事があったが、なるほど確かに変わっている・・。
フェイは失礼な態度をとってしまったことに顔を青くしたが、当の本人は気にも止めていないようで。

「おっと、そろそろマリが来るのかな?耳がいいからね、気づかれる前に退散しないと」
「あ、あの・・中納言様」
「ごめん、もっと詳しく話したいんだけど行かないと。君、名前は?」

立ち上がりつつ、思い出したようにコムイが聞く。

「フェイです、ブリジット=フェイと申します。あの、中納言様先ほどは大変失礼いたしました、私・・」
「あ、ねぇフェイくん。さっきの話なんだけど・・色々と協力、いやお願いがあるから後で連絡していい?」

女房に聞かれないように声をひそめて話す。

「は?・・え?あの?」
「じゃ、そういうことで」

コムイはフェイの返事を聞く前に、ニコニコと上機嫌な様子で出て行ってしまった。


残されたフェイは困惑して、さてどうすればいいのかと考えていたが、ふいに視線を感じ、見ると先程から眼鏡の若い女房が何やら期待を込めた瞳でこちらを見ているのに気づいた。

(・・なに?)

パッと目が合うと、あちらは何か聞きたげな顔でぎこちなく笑う。それを見て、フェイはもしやと顔を引き攣らせた。
誤解されたのかもしれない、口説かれていたと。

「・・・・・」

こめかみを押さえ、居心地悪さに軽くため息をつきながら、フェイは厄介な人物と知り合ってしまったと少しだけ憂鬱な思いになった。



◆◇◆


そっと辺りをうかがいながら、ミランダはおそるおそる手紙を開く。見事な手跡を確認すると、自分の手跡の拙さに恥ずかしさを覚えた。

(ほんとうに・・目が見えていないのかしら)

手紙には袱紗を届けてくれたお礼が書かれて、それは女であるミランダを気遣ってか易しい文体だった。
ミランダの無理した堅い手紙に気づいて、あちらから少しくだけてくれたらしい。

(優しい人ね)

思わず頬が緩み、胸がほわんと温かくなる。思った通りの人のようで嬉しかった。

『寒くなったせいか夜は空気が澄み、もうすぐ見える満月はそれは綺麗でしょうね』

手紙の最後に添えられてある文章に、胸がときめいた。
何気ない言葉であるが、語りかけられるような文体に彼を身近に感じてしまう。
何度も文字を目で追いながら、今朝聞いた低く通る声を耳の奥で思い出すと、まるで直接語られているような錯覚を覚えた。

ミランダは、ほぅと一つ息を吐き出して手紙を大事そうに折り畳む。けれどすぐにまた開いて、もう一度文字を目で追った。そんなことを何度か繰り返していると、ふとこの手紙の返事はどうしたらいいのかと思い、近くにあった文箱を取る。

(でも・・何度も手紙を書くのは失礼かしら)

ミランダはこういう風に男性と手紙のやり取りをするのは初めてだから、どうすればいいか悩んでしまう。
ずいぶん昔、例の噂が広まる前に貰った恋文は、全部ティキに『寒いから』と炭のかわりに燃やされてしまい一度も返事をしていない。

(噂・・)

自分に言い寄る男に災いが降りかかる、そんな物騒な噂を聞いたのはいつだったろうか。
手紙を見ながら、噂は彼の耳にも届いていると思うと、ミランダは気持ちが沈んでいく自分に気づいた。

簡単な言葉を交わしただけ。どんな人かも分からない。
それどころか今朝見せてしまった、醜態を思えばこれ以上関わりを持ちたいなんて思わないはずなのに。
彼を思うだけで胸に様々な感情が芽生え、ミランダの心は今までにないほど落ち着かなかった。

(私、どうしちゃったのかしら)

どう思われているのだろうと考えると、怖くて逃げ出したい。
けれど返事を書かなければ、もうこれきりになるのが分かる。それは淋しいような焦りのような、堪らない気持ちであった。

格子の隙間から空を見上げると、まだ満月には足りない月が見える。小望月というところか。白く丸い月は、情緒に欠ける自分には美味しそうなお団子に見えて。趣き深い人ならこの月だけで一首詠む事もできるだろうに。

(お団子みたいなお月様・・だなんて書いたらガッカリされちゃうわね)

ミランダは硯を磨り卸しながら、なんと返事を書くべきか迷う。
いやまだ書くかどうかも迷っているのだが、落ち着かない気持ちが何かせずにいられず、硯を磨り続けていた。

(書くとしたら、やっぱり月に関してよねぇ・・そうじゃないとお返事にならないし)

でも目が見えないという彼に、月の美しさを語っても意味がないのではないか?なんの共感も出来ない手紙を貰っても、困るだけだろう。自分ならすごく困る。

持っていた筆を戻し、ふぅと小さなため息を漏らすと、ミランダはもう一度格子から月を見上げた。

「・・・・・」

つやつやして白くやわらかな光りを放つ、それは本当に綺麗な月夜。触れてみたいと思うほどに・・。

「!」

いつもは回らない頭に閃きを感じると、ミランダはくるりと月に背を向けて二階棚の裁縫箱を取り出す。
色とりどりの美しい布達を手に取りながら、一枚の白く滑らかな絹布を見つけると、ミランダは嬉しくて口元が綻んだ。

(これだわ)

これならきっと、共感してもらえるはず。
ミランダは絹布を上に掲げると、空にかかる月に重ねて満足そうに頷いた。




◆◇◆


「・・・・なんだって?」


式部卿宮家で催される、月見の宴へ出かける支度の最中、シェリルはあまりの驚きに数秒固まってしまった。その視線の先にはミランダ付きの女房であるフェイが、手紙を差し出し座っている。

「一先ず、こちらをご覧いただけますか?」
「これは?」
「先程お話した、コムイ中納言様からのお手紙です」

コムイ、という名前にやや警戒心を持ちながら、シェリルはそれを受け取る。
相変わらずの乱筆に間違いなくコムイの手跡だと確認すると、さらに警戒心を高めつつ読みはじめた。
その内容は、なんと妹のミランダとティエドール家の長男マリとの、婚姻を計画するものだった。

「こ、これは・・どういう事?」
「ですから書いてあるとおり、お二人の婚姻を建前にリナリー姫の入内を延期させたい・・らしいですわ」
「い、いやいや・・おかしいって。なんで入内の延期にそんな回りくどい事しなきゃいけないわけ?」

納得できず、怪訝な顔をしながらシェリルは何度もコムイの手紙を読み直す。
かなり魅力的な話ではあるが、あまりにも美味しすぎる為どうしても疑わしく思ってしまう。

「さあ・・私もそこまでは分かりませんが、確かにロード様を先に入内させたいとおっしゃってました」

フェイの言葉を聞きつつ、シェリルは考えるように顎に手をあて脇息に肘をもたれる。
また手紙を読み返すが、何としてもリナリー姫の入内を延期させたいという妙な熱意が、ひしひしと伝わってくる。

「・・間違いなくミランダを、と言っていたんだよねぇ?」
「はい」
「ちなみに、この話はティエドール大臣は知っているんだろうか」
「さぁ・・そこまでは分かりませんが、ただかなり内密な様子でしたから、おそらくご存知ないかと」

やっぱりね、と口には出さずに心で呟く。
それならば話は半分に聞いておかねばなるまい、リナリー姫はコムイの妹ではあるが、現在はティエドールの養女なのだ。
悪くない話ではあるが、うっかりその気になりすぎて、後から足元を掬われるのは困る。コムイという男は、あれでなかなか油断のならない人間だから、用心が肝要だ。

(ミランダとマリねぇ・・)

実はこの組み合わせを、シェリルもひそかに考えていた事がある。
あのティエドール家と繋がりを持つのも、今後の為には重要であるから。
年頃も釣り合うし、今は中将であるが次の除目では間違いなく大将へ出世するだろう。ティエドールと血は繋がっていないが元々の血筋も正しく、確か母親は王族だったはず。

あの一族は難ありな連中ばかりだが、マリは唯一まともな貴族であると、シェリルはかねてより考えていた。
変人の当主もいずれは隠居するだろうし、もう一人の息子は元の家柄が低く気性も荒いらしいから、間違いなくマリが当主になるだろう。

もちろんミランダの『不幸姫』の噂や、マリ自身が色恋を拒む風である事など障害はあるが、この話が上手く行けば、宮中におけるシェリルの足場はさらに強固になる筈だ。

キャメロット家は元々が千年公の分家で両親も早くに亡くなった為、家柄自体は古いがしっかりした後ろ盾がなかった。
今は自分が大納言で官位も三位をいただいているが、やはりまだまだ地盤は弱い。

ミランダを後宮に入れるのは失敗したが、宮中二大勢力の一つと繋がりが出来るならシェリルとしては御の字であった。

・・と、ひそかに色々と考えていたが、先日リナリー姫がマリの義妹になったと聞いてさすがにシェリルも諦めた。いくらなんでも受け入れないだろうと。

(それがまさか、アッチ側からこんな話が出るなんてね)

しかもロードの入内も絡んでいるとは。
フェイの話を聞く限りミランダの方もマリを憎からず思っているらしい、あの大人しく弱気な妹が?・・・と、少々信じ難いが。

正直シェリルは、ミランダはもうこのまま一生結婚させず、邸においておこうと思っていた。出来の悪い子ほど・・と言うが、全体的にゆるんだ思考の妹をシェリルはそれなりに可愛く思っていたから。
ミランダも結婚を望んでいるように思っていなかったが、違うとなれば話は別である。

マリの方も、こういう話があちら側から出るくらいだからミランダの噂を気にしていないのだろうか。もともと迷信とか噂に振り回されるような当主ではないから、息子のマリもその点は似ているのかもしれない。

(うん、悪くない)

シェリルは、ふむと納得するように頷くとフェイを見て。

「コムイへの返事には断りを書いてくれ。匂わす程度でいいから」
「・・・お断りですか?」
「ホイホイ誘いに乗ったと思われたら、こっちが軽く思われるからね。リナリー姫の入内延期ってのも、どうも胡散臭い」

扇を広げて優雅に口元を覆うと、意味深に目を細めた。
フェイは少し意外そうにシェリルを見る。その表情は安堵と落胆が入り混じるような複雑な表情であった。

「でしたら・・匂わす程度ではなく、はっきりとお断りの意志を見せたほうがよろしいのでは?」
「いや、いいんだ。結婚はしてもらいたいから、その辺は曖昧でいいんだよ」
「・・どういう意味でしょうか?」
「二人を結婚させるとしても、このままコムイの言うなりに動いては結局展開はあっちの思うつぼになるだけだ」

動かされるより動かさないと。
そう呟くと、シェリルは鏡を見ながら髪を撫で付け、出かける支度を再開した。

「・・・・」

何か考えがあるらしいシェリルに、フェイは訝るような視線を向けると微かに眉を寄せる。
かしこまりました、と言ってその場を下がろうとした時、耳を擽るような笑い声が聞こえて。見るとロードが屏風の後ろから顔だけ出した。

「聞いちゃった」

「ロ、ロード様・・いつからそこに?」
「うん、ちょっと前から。でぇ?ミランダとうとう嫁に行くの、ていうか行けるの?」

悪戯っぽく笑いながら、甘えるようにシェリルの膝に乗る。愛おしむようにロードの頭を撫でながら、

「まだまだ考え中・・・ところで、全部聞いていたの?」
「だいたい聞いちゃったよ、ねぇねぇその話ティッキーに言うの?」
「ティキに?」
「ボクの意見だけど・・ティッキーには秘密にしといた方がいいと思うなぁ」

猫のような大きな瞳を細めてそう言うと、ちらりとフェイを見て「ねぇ?」と笑う。同意を求められても困ってしまうが確かにその通りなので、

「賛成です」

昔から妹に執着する兄に苦労してきたフェイは、思い出したのかやや疲れた顔で頷いた。



◆◇◆


「ぶへあっっくしょいっ!」


貴公子とは思えぬクシャミをすると、ティキは懐紙を取出し鼻をかんだ。
秋ともなれば夜はぐっと冷える、千年公の邸に着き牛車から降りると夜風の冷たさに身震いした。
昨夜と違い、今夜はルル=ベル付きらしい女房が案内の為に座っている。ティキはホッとしつつも、まだどこか疑うような気分でそれを見た。
階しを上り、邸に足を踏み入れると女房は無言で立ち上がり案内を始めたので、ティキもついていく。

(ふぅん、その気はあるのか?いや・・まだ安心できない)

疑心を持ちながら先導する女房の後ろ姿を見る。その素っ気ない様子の女房に、ミランダ付きのフェイの姿を思い出し、ティキは何とも苦い顔をした。

出かける前の一悶着のせいか、これから初めて会う新妻との楽しい展開も正直気が乗らない。

(ミランダの奴・・なんか隠してやがるな)

目を見れば分かる。あれは昔から嘘をつくのが有り得ないくらい下手くそだ。
フェイが横槍を入れたせいで白状させられなかったが、マリの袱紗をミランダは知っている様子だった。

(マリ・・)

ミランダが誰かのものになると想像すると、ティキは胃のあたりがムカムカしてたまらない。
妹が可愛いからとかそんな感情ではない、あれを他人にやるつもりはないのだ。所有者は自分なのだから。

『不幸姫』の噂が出回り始めたのは、十年前。あれから時間が経ったせいか、噂の効力も昔より薄らいでいるのかもしれない。

(やっかいな事になる前に、なんとかしておかなきゃな)

眉間に皺を寄せて、ティキは何かを思うように頷いた。

「こちらでございます」

案内された妻戸は僅かに開いて、中を覗くと明かりは一つあるくらいで暗い。
静まり返る室内に微かな衣擦れの音がして、間違いなく誰かがいるようでティキは内心安堵した。
滑るように妻戸を通り後ろ手に閉じると、寝台らしい場所から人の気配がしたので、そっと近づく。
カタン、と物音がする。多分緊張から扇を落としたらしい。

実は意外と初々しい姫君だったりするのだろうか。
可愛いげのない女だと昨夜は思ったが、シェリルの言うように恥ずかしがり屋なだけなのかもしれない。

(よしよし)

ティキはようやくその気になり始め、ほくそ笑みながら寝台を隠す几帳の前に座る。

「姫、やっとお会いできましたね」

切なさを含んだ艶のある声で囁いた。几帳の隙間から手を滑らせて寝台にいるルル=ベルの着物を掴み、続けて逃げ出しそうな彼女の手を握る。

(・・意外に肉付きがいいんだな)

噂ではほっそりとした美形だと聞いていたが、やはり噂だな。あてにはならない。
引き寄せるように抱きしめると、「あれ」という言葉と共にずしりと重みを感じて軽くふらついた。

「・・さ、昨夜は貴女につれなくされて辛かったですが、こうして腕に貴女を感じるとそれももうどうでも良くなってきます」

ティキがつらつら言葉を重ねると、腕の中のルルは恥ずかしいのか顔を俯かせ、緊張しているのか身を固くしている。
こういう反応は嫌いじゃないと、ティキは目を細めるとそのまま押し倒すようにしてルル=ベルの唇を奪った。

(ん?)

口腔に広がる奇妙な味。甘草のような阿仙薬みたいな生薬臭い味。
違和感からティキは思わずルルから唇を離し、目を見開いて彼女を凝視した。

ゆらりと火影がルルの顔を照らす。

(!?)

白い。真っ白だ。何がって、髪が。
そうして深く刻まれた年輪のような皺を顔に確認すると、ティキは放り投げるようにルル・・いや老女から離れた。

「だっ、だだ誰だっ・・おまっ、ちょっ嘘っ!」
「申し訳ありません、ティキ様」

老女はずいっと近づくと、ティキの袴の裾を掴む。

「姫さまより、代わりを務めるよう申しつかっておりますので・・失礼いたします」
「ちちちちょっと待って!あ、あんた誰だよっ」
「私は姫さまの乳母でございます。ティキ様、今宵は私にてご勘弁を・・」

ルル=ベルの乳母は、さっきの恥じらいが演技だったと言うように、ティキの袴を取ろうと馬乗りになる。内臓が潰れるんじゃないかと思うくらいの重みを腹に感じて、ティキは必死で老女を押し退けようと体をもがく。

「・・お諦めなさいませ、ティキ様」

「!!!」

どこか嬉しそうな媚を含んだ老女の声音を聞いた時、ティキの体にかつてない程の戦慄が走った。




そして。

この夜、千年公の邸がある三条付近で絹を裂くような男の叫び声があったとの報告があり、見回り中の神田が急いで現場へと向かうのだった。





End






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